土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2024/10/01
北陸地方にある道路橋橋脚の耐震補強工事において、既設橋脚に対して鉄筋コンクリートの巻立て補強を実施した。図-1に示すように、既設脚柱は4.5×2.5mの矩形断面で、高さ8mの範囲を鉄筋コンクリートで巻き立てた。巻立て厚さは25cmであった。
施工時期は3月であり、巻立てに使用したコンクリートは27-15-20Nの普通コンクリートで、水セメント比は52%、単位セメント量は310kg/m3であった(当初設計はスランプ12cmであったが、巻立て施工における充填性を考慮して15cmに変更した)。なお、補強部の軸方向鉄筋はD29が200mmピッチで、帯鉄筋はD19が150mmピッチで配筋されていた。
コンクリートは、高さ4mごとに2ロットで施工し、各ロットは50cmごとに8層で打ち上げた。打込みは、型枠の数か所に開口部を設け、またコンクリートポンプ車の圧送ホースの先端にサニーホースを取り付けて、コンクリートの落下高さが1.5m以内になるようにし、締固めは入念に行った。型枠は材齢1週間において取り外し、その日のうちに被膜養生剤を散布した。
ひび割れは材齢2週間程度で確認され、その後は幅と長さが少しずつ進展していたが、約3か月が経過した時点ではひび割れの進展は概ね収束したようであった。その時点でのひび割れ幅は、図-2に示すように、最大0.2~0.3mmのものが数本あったが、0.1mm未満の微細なひび割れが多かった。なお、裏面や側面も同様のひび割れ発生状況であった。
既設橋脚に巻き立てるコンクリートは、打ち込まれた後に既設コンクリートから拘束を受けて、コンクリート自体の自由な膨張・収縮といった体積変化(温度変化による膨張・収縮や自己収縮、乾燥収縮など)ができないことにより、応力が発生する。そして、巻立てコンクリートの収縮は、主に水和発熱の後の温度降下に伴う収縮、自己収縮、乾燥収縮によって起きる。さらに、収縮時に発生する引張応力がひび割れ発生の限界値を超えると、ひび割れが発生することになる。
今回の巻立てコンクリートは単位セメント量が310kg/m3と比較的大きく、温度上昇(膨張ひずみ)も大きくなるため、温度降下時(収縮時)に生じる収縮ひずみも大きくなり、既設コンクリートの拘束を受けてひび割れ(外部拘束による温度ひび割れ)が発生しやすい条件であった。打込み後の水和発熱の後は、部材断面や気温等の条件にもよるが、材齢2~3週間程度までに外気温に近い温度まで降下していく場合が多いと考えられ、今回も材齢2週間程度で最初にひび割れが確認された。
このような物理的な拘束の影響は、コンクリートが拘束される面積に対して部材厚さが薄い場合の方が、拘束度が高いとされている。既設橋脚の巻立てコンクリートはこのような条件になりやすく、今回も高さ8m×幅5mの表面積に対して厚さ25cmと薄かった。
また、このような部材形状から、既設橋脚の巻立てコンクリートは、打ち込まれるコンクリートの体積に対して表面積が大きくなるため、乾燥収縮を受けやすい条件でもある。今回の施工現場は周囲に遮蔽物の少ない場所であり、強風や寒風の影響を受けやすい条件でもあった。このようなことから、外部拘束による温度ひび割れの影響がある程度収束すると考えられる材齢2~3週間以降も、材齢3か月程度までは乾燥収縮の影響によってひび割れの幅と長さが進展したものと考えられた。
今回発生したひび割れには方向性がなく、網目状のひび割れとなった。この理由は明確ではないが、巻立て高さが8m(各ロット4m)、脚注の幅が2.5~4mといずれもそれほど大きくなかったため、縦方向または横方向のいずれかが卓越するような拘束ではなく、既設橋脚からの面的な拘束の影響が大きかったためではないかと思われる。
なお、自己収縮の影響は低水セメント比のコンクリートで顕著となることが報告されており1)、今回のコンクリートのひび割れにおける自己収縮の影響はそれほど大きくないと推察された。また、アルカリシリカ反応(ASR)の可能性に関して、巻立てコンクリートはアルカリシリカ反応性が無害と判定された骨材を用いており、ひび割れ発生時期も材齢3か月以内であること、段差があるような膨張性のひび割れでなかったことから、その可能性は除外できるものと考えた。
上記のことから、今回の巻立てコンクリートに発生したひび割れは、水和発熱の後の温度降下に伴う収縮と乾燥収縮が既設橋脚に拘束されたことによる典型的な外部拘束ひび割れと考えられた。
ここで、被膜養生剤については乾燥収縮を抑制する効果を期待する対策ではあるものの湿潤養生(水中養生や散水養生など)と同等の効果を期待できるものではなく、また温度応力(温度降下に伴う収縮)を低減できるものではない2)。よって、被膜養生剤を散布したにも拘らずひび割れが発生したが、乾燥収縮の抑制に関しては一定の効果はあった(これを用いていなければひび割れ幅はさらに大きかった可能性がある)と考えており、今回のひび割れ発生状況に対して定量的にその効果を示すことは難しいものの、少なくとも被膜養生剤の効果がないと判断するのは適切ではない。
ひび割れの対処方法としては、ひび割れの進展が概ね収束していたことから、幅0.2mm以上のひび割れに対して超微粒子セメント系のひび割れ注入材を用いて補修し、幅0.2mm未満のひび割れについては無補修(念のため経過観察)とした。
なお、本工事では全10基の橋脚を同様の方法で施工したが、途中で配合や使用材料、施工方法を変更することができなかったことから、いずれも同様のひび割れが発生し、同様に対処した。
既設橋脚の巻立てコンクリートの施工にあたっては、外部拘束による温度応力と乾燥収縮の影響を考慮した事前対策を検討することが重要である。具体的には、以下のような事前対策を検討するとよい3)。
① コンクリートの収縮を抑制するための膨張材や乾燥収縮低減剤の使用4)
既設橋脚からの拘束の影響を低減するため、コンクリート自体の収縮量を抑制する方法として、膨張材や乾燥収縮低減剤などの混和材料を添加する。最近では、膨張材の使用実績が多いと思われる。
② 乾燥収縮を抑制するための湿潤養生期間の確保
コンクリートの乾燥収縮は、乾燥開始材齢が遅いほど小さくなることが知られている。よって、型枠取外しの時期を遅らせる、型枠取外し後には十分な湿潤養生期間を取る(または、今回のように被膜養生剤などによる保湿養生を行う)、急激な温度降下を抑制するために保温養生を行うなどによって、乾燥収縮を抑制する。なお、型枠取外しの時期を遅らせるためには、全体工程に影響のないように準備が必要である。また、被膜養生剤の効果の考え方については上述しているが、型枠取外し後の鉛直面への施工にあたっては、使用材料ごとに取扱い上の留意事項を確認して適切に使用する必要がある。
③ ひび割れ幅を制御するための補強材や繊維ネットの使用
耐久性等に影響のない範囲にひび割れ幅を制御するため、ひび割れ制御鉄筋(補強筋)や耐アルカリ性ガラス繊維ネットなどのひび割れ抑制材を配置する。
1) 太平洋セメント:コンクリートの自己収縮、CEM’S質問箱 第20回、pp.25-27、
https://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/tbc/download/images/CEMS-QA_20.pdf、2007/7
2) たとえば、高橋洋朗ら:コンクリートの養生効果および耐久性向上効果を有する表面塗布剤に関する実験的検討、コンクリート工学年次論文集、pp.2041-2046、Vol.35、No.1、2013
3) 公益社団法人 日本コンクリート工学会:マスコンクリートのひび割れ制御指針2016、pp.25-36、2016/11
4) 公益社団法人 日本材料学会:コンクリート混和材料ハンドブック、第1編 第4節 体積変化制御の物理と化学(谷村充・富田六郎)、pp.78-90、平成16年4月
1) CONCOM:埋込み鋼材が誘発したひび割れ-RC巻立て工法による耐震補強工事でのトラブル-、現場の失敗と対策、コンクリート工事、
https://concom.jp/contents/countermeasure/concrete/cat03_vol3.html、2015/6/29
2) CONCOM:鋼・コンクリート合成構造の壁コンクリートにひび割れが発生!、現場の失敗と対策、コンクリート工事、
https://concom.jp/contents/countermeasure/concrete/cat03_vol3.html、2024/1/5
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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