基礎工事
基礎工事
1 オールケーシング
2025/08/01
河川の水門工事において、全周回転式オールケーシング工法による場所打ち杭を施工した。水門翼壁部の場所打ち杭は杭径φ1,000mm、掘削長ℓ=23.0m、杭長L=20.0m、翼壁部全体で20本が計画されていた。水門の施工範囲の地層はGL~-2.0mは埋土層、それ以深は砂質土層と礫質土層で構成されていた。
場所打ち杭の掘削完了後、スライム除去を行って鉄筋かごを建込み、トレミー管を設置してコンクリートの打設を開始した。コンクリートを4.0m3打設して打設高さがH=6.4mとなった時点で、ケーシングの引抜きを行う前に鉄筋かごの天端高さを確認した結果、鉄筋かごに約0.3m程度の浮き上がりが発生していることが分かった(図-1)。
このため、コンクリート打設を中止して打設したコンクリートと鉄筋かごをハンマーグラブで撤去し、ケーシング内を発生土で埋め戻してケーシングを引抜き、復旧を行った。
鉄筋かごの浮き上がりの原因としては、以下の可能性が考えられる。
・孔底のスライムの残存
・鉄筋かごが軽いことによる浮き上がり
・コンクリートの流動性の低下による浮き上がり
・コンクリートの打込みが速いことによる浮き上がり
・トレミー管の挿入長が長いことによる浮き上がり施工時の状況の調査を行い、鉄筋かごの浮き上がりの発生原因を下記のように考察した。
・孔底のスライムの残存:場所打ち杭の掘削完了後にハンマーグラブによる底ざらいと沈積バケットにより孔内に残留したスライム除去を行っており、鉄筋かご設置時もスライムの残存は確認されていないため、孔底のスライムの残存が浮き上がりの原因ではないと考えられた。
・鉄筋かごの重量が軽いことによる浮き上がり:場所打ち杭φ1,000mmの全長はL=20.0mで主筋はD22、鉄筋かご上部の主筋本数は12本、下部が6本であり(図-1)、鉄筋かごの全重量は1.0tであった。鉄筋かごの重量が軽いため、コンクリートの打上がりによる圧力で鉄筋かごが押し上げられた可能性がある。
・コンクリートの流動性の低下による浮き上がり:コンクリートの流動性が低下すると、鉄筋かごに上向きの力が作用し、鉄筋かごが浮き上がることがある。場所打ち杭の施工時は外気温23℃、コンクリートの練混ぜから打込みは原則として1.5時間以内1)とされているが、コンクリート打設は1時間以内で完了していた。また、スランプ18cmに対して試験結果は19.5cmであり、コンクリートの流動性は確保されていると考えられた。
・コンクリートの打込みが速いことによる浮き上がり:場所打ち杭における打込み速度は1~2m3/分2)が望ましいとされている。今回はコンクリート4.0m3を打設するのに要した時間は3分、打込み速度は1.3m3/分であり、上記の打込み速度内ではあるが、杭径φ1,000mmでは杭の断面積が小さくコンクリートの打上がりが速いため、鉄筋かごの浮き上がりの原因の一つである可能性が考えられた。
・トレミー管の挿入長が長いことによる浮き上がり:トレミー管の先端から吐出したコンクリートは、トレミー管に沿って上方に流動するため、トレミー管のコンクリートへの挿入長が長い場合、鉄筋かごが浮き上がることがある。トレミー管のコンクリートへの挿入長さは2m以上、最大9m以下とされている1)が、今回の挿入長さは最大3m程度であるため、鉄筋かごの浮き上がりの原因ではないと考えられた。
以上の調査結果より、今回の鉄筋かごの浮き上がりは、鉄筋かごの重量が軽いことに加え、杭径φ1,000mmで今回の打設速度ではコンクリートの打上がりが速く、コンクリートの上昇による圧力が大きくなったことが鉄筋かごの浮き上がりの原因と考えられた。このため、コンクリートの打設開始直後は、打設速度を1m3/分として鉄筋かごに作用する圧力を低減し、鉄筋かごの浮き上がりの対策を行った。
鉄筋かごの浮き上がりは、コンクリート打設の初期段階で発生することが多いが、浮き上がりの発生を定量的に予測することは非常に難しい。場所打ち杭のコンクリートは、トレミー管を介してコンクリートを打上げることで充填されるため、コンクリートの打設速度が速すぎる場合、コンクリートの打上げに伴う圧力に対して、鉄筋かごが軽すぎると浮き上がりが発生する可能性がある。
鉄筋かごの浮き上がりが確認された場合、すぐにコンクリート打設を中断し、トレミー管を引き抜くことで浮き上がりを止めることができる。
鉄筋かごが軽い場合、コンクリートの打設速度をできるだけ遅くするとともに、コンクリート打設時、鉄筋かごの天端高をレベルで確認する等、鉄筋かごの浮き上がりがないことを監視することが重要である。
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