土木遺産を訪ねて 最寄り駅から歩いて行ける土木学会選奨土木遺産を紹介。周辺の見どころ等、旅の参考にしてください。

木学会が平成12年に設立した認定制度──『土木学会選奨土木遺産』。顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的に、500件を超える構造物が認定されています。
コンコムでは、たくさんの土木遺産の中から、最寄り駅から歩いて行ける土木遺産をピックアップし、「土木遺産を訪ねて─歩いて学ぶ歴史的構造物─」を不定期連載します。駅から歴史的土木構造物までの道程、周辺の見どころ等、参考になれば幸いです。
みなさんも旅のついでに少しだけ足を延ばして、日本の土木技術の歴史にふれてみてはいかがでしょうか。

File 29

煉瓦橋(横河原線・第26号溝橋)
煉瓦橋(横河原線・第26号溝橋)

【煉瓦橋(横河原線・第26号溝橋)】

認定年平成24年度(2012年度)
所在地愛媛県松山市
竣工明治25年(1892年)ごろ
選奨理由上部煉瓦の積み方の工夫により直交しない道路上へのアーチを実現しており、130年経った今なお現役でその姿が市民に愛されている橋である。
石手川橋梁
石手川橋梁

【石手川橋梁】

認定年平成24年度(2012年度)
所在地愛媛県松山市
竣工明治25年(1892年)ごろ
選奨理由開業時の軽便鉄道から普通軌道への改軌、電化、駅の設置等の変更を経ながら原位置にある鉄道用トラスとしては現役最古である。

Start

今回の歩いて学ぶ土木遺産は、松山市を走る伊予鉄道横河原線「石手川公園駅」周辺にある二つの選奨土木遺産、「煉瓦橋」と「石手川橋梁」を訪れる行程です。出発点となる伊予鉄道「松山市駅」から「石手川公園駅」まではひと駅、歩いても10分程度で行くことができます。まずは「松山市駅」から史跡や歴史的建造物が点在する松山市内を散策しながら、有名な観光地、道後温泉まで歩いた後、路面電車で「松山市駅」に戻り、目的の「煉瓦橋」と「石手川橋梁」めざします。

写真1)伊予鉄道松山市駅(北口)

写真1)伊予鉄道松山市駅(北口)

Point 1(MAP①)

「松山市駅(北口)」を背に、右手の横断歩道を渡ると、伊予鉄グループ本社ビルが目に入ります。一階の大手コーヒーチェーンの店内に入り、奥へと進むと「坊ちゃん列車ミュージアム」があります。コーヒーを楽しんでいる方の横をすり抜けるのは少し気が引けますが、観覧料は無料です。中には、明治20年(1887年)創業の伊予鉄道の歴史を伝えるパネルや第1号の機関車の原寸大レプリカが展示されています。レアな車両の部品や当時の車両エンブレム等、鉄道ファンならずとも一見の価値ありです。

写真2)機関車の原寸大レプリカ

写真2)機関車の原寸大レプリカ

Point 2(MAP②)

もう一度松山市駅前に戻って、ここからは路面電車の軌道に沿って道後温泉まで歩きます。歩くこと約350m。お堀に突き当たります。「南堀端」松山城の南側の入口です。右折する軌道に沿って600m程進むと、左手に「愛媛県庁」があります。愛媛県庁本館は、国指定重要文化財でもある萬翠荘(ばんすいそう)等を設計した木子七郎(きごしちろう)の設計によるものです。昭和2年(1927年)に着工、昭和4年(1929年)に竣工。以降改築改修を行っているものの、外観全体は建築当初の意匠がほぼ保たれており、内部についても当初の間取や仕上げが残されているそうです。

写真3)愛媛県庁本館

写真3)愛媛県庁本館

建物の平面形状は、ドーム形の塔屋をもつ中央から東西に翼を広げ、さらに前後に突出させたH型を成していて、当時の都道府県庁舎では珍しい形状をしています。また、中央と両翼の窓枠を各階連続させ、頂部をアーチ状にし、2階玄関の車寄せを正面に大きくとり、御影石で装飾するなど独自性の高い外観も大きな特徴です。愛媛県庁本館は、建築当初の様相を残しながら、現役として使用されている都道府県庁舎としては3番目に古く、国登録有形文化財に指定されています。

Point 3(MAP③)

県庁から約400m、路面電車の「大街道駅」を過ぎた辺りを左へ入ると商店街があります。両側に「鯛めし」などの名物が食べられる飲食店やお土産店が並ぶ商店街は、松山城へ登る「ロープウェイ・リフト乗場」へと続いています。ロープウェイなら約3分、一人乗りのリフトなら約6分で山頂駅「長者ヶ平(じょうじゃがなる)」へ登ることができます。長者ヶ平からは天守入口まで徒歩10分ほどです。料金は往復で520円、松山城天守の観覧には別途観覧券520円が必要です。なお、松山城にはロープウェイ・リフトを使わずに歩いて登ることもできます。ロープウェイ・リフト乗り場から少し坂を上がったところに階段があり、約30分で登ることができるそうです。体力と脚力に自信のある方はぜひ。

写真4)松山城ロープウェイ乗場

写真4)松山城ロープウェイ乗場

Point 4(MAP④)

「大街道駅」へ戻り、再び軌道沿いに歩きます。次の電停「勝山町駅」を越え、一旦、軌道から離れ、最初の信号を右に入ります。約200mで「松山地方気象台」に着きます。松山地方気象台庁舎は昭和3年(1928年)に愛媛県立松山測候所として建築されました。構造は鉄筋コンクリート造で、外観は、玄関を備えた中央の層塔部、西側2階の陸屋根部、東側平屋建の切妻屋根部で構成され、左右非対称の独特なデザインが特徴です。平成18年(2006年)に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。松山地方気象台では、気象業務への理解を深めてもらうために「施設の見学」や「職員による出前講座」を実施しています。お申し込み方法等の詳細はホームページで確認してください。

写真5)松山地方気象台

写真5)松山地方気象台

Point 5(MAP⑤)

軌道沿いに戻り北へ進み、最初の信号を住宅街へ右折します。100mほど歩くと右手にレトロな建物、「愛媛県教育会館」があります。愛媛県教育会館は、昭和12年(1937年)に建築されましたが、当時の記録によると総工費は76,490円。その費用は、当時の約6千人の教職員の月給の0.1%を5年間に渡って寄付したものを原資にしたそうです。ちなみに当時の教職員の月給は、平均60円でした。館内は板張りの廊下や階段等、当時の姿をそのまま残し、今も、子どもの権利や教職員の権利の維持向上を図る為に使用されています。なお、平成15年(2003年)には、国登録有形文化財(構造物)に登録されました。

写真6)愛媛県教育会館

写真6)愛媛県教育会館

Point 6(MAP⑥)

ここからは再度軌道沿いに歩いて「湯築(ゆづき)城跡(道後公園)」と「道後温泉」をめざします。「湯築城跡(道後公園)」までは1kmちょっとで到着。「搦手(からめて)門」から入って左回りに進むと「湯築城資料館」「武家屋敷」がつづいています。資料館の入口には「日本100名城のスタンプ台」も設置されていて、城めぐりの記念に押す方も多いようです。「湯築城」は、建武2年(1335年)前後に河野通盛の代に築城されたとされています。以降約250年間にわたり、河野氏が居城としていました。慶長7年(1602年)、勝山(城山)に松山城の築城が開始されるまで、伊予の国の政治・軍事・文化の中心を担ってきました。

写真7)湯築城資料館

写真7)湯築城資料館

なお、松山城の建築にあたっては、湯築城の瓦等の建材が流用されたことが発掘調査により判明しているそうです。また、湯築城には石垣や天守がなく、平野の中にある山、丘陵等に築城された平山城(ひらやまじろ)であることが大きな特徴です。公園内をぐるりと一周し、北口付近まで来ると、県指定文化財「石造湯釜(湯釜薬師)」があります。湯釜の宝珠には、一遍上人が『南無阿弥陀仏』と書いたとされています。

写真8)石造湯釜

写真8)石造湯釜

Point 7(MAP⑦)

道後公園から「道後温泉駅」までは軌道に沿って約60m。駅前は観光地らしく、お土産店が並ぶアーケード街があります。アーケードを歩くこと数分。「道後温泉本館」に到着です。道後温泉本館は、日本最古といわれる道後温泉のシンボルで、「神の湯」に代表される温泉施設です。平成6年(1994年)に日本の公衆浴場として初めて国の重要文化財に指定されました。残念ながら、道後温泉本館は保存修理工事(後期/2018年12月~2024年12月)の真っ最中で、建物の外観は一部しか見ることができませんでした。
※霊の湯の入浴のみ利用可能(大人420円 小人160円)

写真9)保存修理工事中の道後温泉本館

写真9)保存修理工事中の道後温泉本館

Point 8(MAP⑧)

道後温泉本館を後に、「路面電車」に乗って松山市駅まで戻ります。これまで、路面電車のある街の土木遺産を訪れたことがありましたが、乗車するのは初めてです。

道後温泉から松山市駅まではおよそ20分。先ほど歩いてきた道を車窓から眺めます。県庁前の電停から市役所前の電停までの約1分間、先頭車両から動画を撮ってみました。道路の真ん中を走り、ゆっくりと直角に曲がる様が体感できますので、興味のある方はぜひクリックを。

写真10)路面電車(伊予鉄道)

写真10)路面電車(伊予鉄道)

Goal-1(MAP-G1)

松山市駅に戻ったら、駅舎の地下道を通って反対側の南口へ向かいます。出口から左手に「伊予鉄道・横河原線」の線路が見えます。ここからいよいよ土木遺産をめざす行程になります。先ほどまでは路面電車の軌道に沿って歩きましたが、今度は線路に沿って歩きます。歩くこと約500m。線路から右に離れる坂を下ると、左手にレンガ造りのトンネルが見えます。これがひとつめの土木遺産『煉瓦橋(横河原線・第26号溝橋)』です。『煉瓦橋』の一番の特徴は、「ねじりまんぽ」と呼ばれる煉瓦の積み方で、斜めに交わっている鉄道の軌道と車道を上手く調整しながら交差させている点。

写真11)煉瓦橋

写真11)煉瓦橋

愛媛県内最古の煉瓦橋といわれており、平成15年(2003年)に松山市より「景観形成重要建造物」に指定され、平成24年(2012年)に土木学会選奨土木遺産に認定されました。

写真12)レンガを斜めに積んで角度を調整

写真12)レンガを斜めに積んで角度を調整

Goal-2(MAP-G2)

『煉瓦橋』をくぐり、右手の土手を上ると、鉄橋があります。石手川に架かるこの鉄橋がふたつめの土木遺産『石手川橋梁』です。『石手川橋梁』は、建設当初の場所で現役として利用されている最古の鉄道橋で、敷設当時(明治26年/1893年)の軽便鉄道(軌間762mm)から普通鉄道サイズ(軌間1,067mm)への改軌(昭和6年/1931年)、ディーゼル車からの電化に伴って増加した荷重に対応するための補強(昭和42年/1967年)、歩道橋の設置(昭和45年/1970年)、石手川公園駅の新設(昭和45年/1972年)といった改良を加えながら、130年経った現在も活躍しています。構造は、橋台と橋脚はレンガ造り、橋桁は鋼プラットトラスで、鉄橋の上に伊予鉄道・横河原線「石手川公園駅」のホームが設置された珍しい橋梁です。選奨土木遺産の銘板は、ホーム上の鉄橋部分に飾られていますのでお見逃しなく。

Album(※)写真をクリックすると全体をご覧いただけます

  • 坊ちゃん列車ミュージアム

    坊ちゃん列車ミュージアム

  • 南堀端から臨む松山城

    南堀端から臨む松山城

  • 愛媛県庁案内

    愛媛県庁案内

  • ロープウェイ乗場につづく商店街

    ロープウェイ乗場につづく商店街

  • 松山城へ向かう階段

    松山城へ向かう階段

  • 国登録有形文化財の説明板

    国登録有形文化財の説明板

  • 教育会館ロビー

    教育会館ロビー

  • 湯築城資料館の100名城スタンプ台

    湯築城資料館の100名城スタンプ台

  • 日本100名城スタンプ

    日本100名城スタンプ

  • 道後温泉アーケード街

    道後温泉アーケード街

  • 景観形成重要構造物指定の銘板

    景観形成重要構造物指定の銘板

  • 石手川公園駅のホームに設置された銘板

    石手川公園駅のホームに設置された銘板

おわりに

今回訪れた松山は、町中に「坊ちゃん」と「正岡子規」があふれていました。残念ながら土日祝のみ運行されている「坊ちゃん列車」には乗れませんでしたが、道後公園に隣接している「子規記念博物館」や松山市駅南口の「子規堂」は、少し寄り道にはなりますが訪れることができました。次回はぜひ週末に訪れたいと思います。

Map

地図

地理院地図をもとに当財団にて作成

【今回歩いた距離:約6.2km】+【路面電車:約20分】計3時間30分

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