3)既製杭
2017/01/30
建築構造物の基礎として、回転(鋼管)杭を施工した。杭の仕様は、鋼管径φ800mm、羽根径φ1600mm(先端羽根部形状:図1)、杭長22.0~32.0m、杭の本数は24本である。土質調査箇所は構造物の四隅および中央付近で実施され、その結果、支持層の深度差が最大約10m、支持層の想定傾斜角は16°で、支持層の不陸・傾斜が大きい地盤であった。トラブルのあった杭(杭長26.0m、打設長29.0m)の施工地盤は、GL-2.0mまで盛土、GL-21.5mまではN値4~8の粘性土層、GL-28.0mまではN値20~40の粘土混じり砂礫層、それ以深はN値≧50の支持層(軟岩)と想定されていた(図2)。
杭の打設中、想定された支持層到達の数m程度手前から杭打ち機の施工トルクの上昇と下降が繰り返された。このため、転石等の地中障害物との干渉か、あるいは中間層の打ち抜きか判別がしにくい状態で、安全側に施工トルクを少し落としながら回転貫入操作を継続して行っていた。ところが、支持層到達深度付近で急に掘削機が振動した後、施工トルクが上昇しなくなった。そこで、杭の健全性確認のため引き抜いたところ、杭は抵抗なく引き抜け、杭の先端羽根付近の破損(軸部杭先端付近および羽根の破損)が確認された。
当工事では、強固な支持層である軟岩層が急傾斜している可能性が高く、杭先端羽根部が支持層に到達し必要な根入れを確保するために回転貫入を行った際に、支持層の傾斜に沿って杭先端部が斜めに移動していったと考えられる(図3)。そのために、杭先端部に水平力が加わり、鋼管の捩り耐力に満たない低いトルクで杭の破損を起こしたものと推定された。
その後の杭の回転貫入作業は、このトラブルをふまえて、杭の先端部が傾斜に沿って水平移動し杭体に曲げ応力が加算されるような状況においても杭が破損しないように、施工トルクの制限値を安全側に設定して施工した。その結果、施工速度は若干低下したが、その後の杭の破損は無く、全ての杭を無事に施工完了することができた。
当現場での回転(鋼管)杭の施工データ(施工トルクおよび1回転あたり貫入量)に基づき支持層深度のコンター図を作成すると、図4のようになった。破損した杭の打設位置周辺の支持層は傾斜角で35°程度に達しており、支持層の急傾斜が再確認された。
破損して地中に残された杭先端部は、再施工の障害となることから、ケーシングチューブおよびハンマグラブにて掘削・撤去し、砂質土で埋め戻してから再製作した回転(鋼管)杭を再施工することで、無事に打設完了した。
支持地盤の不陸に起因する杭や土留め掘削のトラブルは数多く、まず事前の支持地盤のアンジュレーションをできる限りよく把握した上で施工にかかることが重要である。
地盤調査の結果や現場付近の地層の成り立ちから、支持層の傾斜が予想され、傾斜角が概ね5°を越えるような地盤では、中間点等の追加調査が望ましい。さらに傾斜角が大きい場合は追加調査の点数を増やして、できるだけ正確な支持層深度を把握しておくことが必要である。支持層深度の正確な把握のための調査方法としては、追加ボーリング調査のほか、動的コーン貫入試験1)やMWD検層2)などがある。
支持層や中間層の不陸や傾斜が予想される地盤において回転(鋼管)杭を施工する際には、回転時の捩り力のほかに先端部での偏心に伴う曲げ応力が同時にかかる可能性がある。このため、杭体が破損に至ることのないよう、杭の製造メーカも含めて施工管理方法を検討し、施工トルク等の制限を設けて杭体の破損を未然に防止する必要がある。
さらには、地盤の不陸や傾斜があり施工制限が必要な条件下では、施工速度が著しく低下したり、所定深度まで回転貫入を継続することが困難になる場合も予想される。杭1本あたりの先端支持力に余裕を見込む(例えば先端羽根径を小さくして支持層の傾斜に対応しやすくする)など、予め設計にも余裕を持たせておくことが望ましい。
1)13.2 動的コーン貫入試験,地盤工学会 地盤調査の方法と解説(2分冊の1),pp.460~464,2013
2)鈴木、武居、實松、伊佐野:コーン貫入試験とMWD検層を併用した地盤調査,第45回地盤工学シンポジウム,
2000.10
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