3)既製杭
2018/07/30
河川近傍に計画された5階建て建築物の基礎として、プレボーリング根固め工法によるPHC杭を施工した。杭の仕様は、杭径φ600mm、杭長28.0mである。
施工地盤は、GL-12mまでは軟弱な沖積シルト層、次に沖積砂層がGL-26mまで堆積しており、その下は支持層となる洪積砂礫層となっていた。(図1)。
試験杭の打設において、アースオーガによる所定の深度までの削孔を完了し、根固め液と杭周固定液の注入を行った後、杭を建て込んだところ、1.3mの高止まりが生じた。この高止まりの原因と杭先端根固め部の状態の調査のために、杭先端部のコアボーリングを行ったところ、コアが採取できず、根固め部が未固結であることが分かった。つまり、根固め液として圧送したセメントミルクが杭先端の根固め部に十分に行きわたっていないものと推定された。
根固め部が未固結の原因としては、杭の支持地盤である砂礫層の地下水に起因する要素が大きいものと想定されたため、砂礫層の地下水調査・水質検査・粒度分析を行った。その結果は以下のようであった。
・地下水流速:0.7~1.0m/min
・塩素イオン濃度:50ppm(水道水の濃度基準値の1/4)
・粒度分布:砂礫分70~75%、砂分22%、シルト分3~8%
標準配合の根固め液(W/C=60%)での流出実験を実施した結果、地下水流速が0.8m/min以上になるとセメントミルクが流出することが認められた。現地の支持地盤である砂礫層での地下水の流速は、実験での地下水流速よりも大きく、そのため根固め液が流出したものと判断された。
杭の高止まりは、根固め液および杭周固定液が地下水により流出し、このため孔壁の安定が損なわれ、孔壁の崩壊により生じたものと想定された1)(図2)。
根固め液の逸失防止対策としては、
①プレボーリング根固め工法に適用でき、確実な施工ができること
②施工管理が容易なこと
③経済性に優れること
などの条件をふまえ、根固め液用の増粘剤を添加する方法を採用した。対策の効果を確認するために、室内試験(耐流水試験)および現場での試験施工を実施した。
室内試験および試験施工の結果、増粘剤の添加により以下のような効果が確認された。
①地下水流速が1.50m/minの場合では、増粘剤2.0%の添加によって流出量を10%以下にできる。
②地下水流速が0.85m/minの場合では、増粘剤1.5%の添加によって流出量を10%以下にできる。
③早強セメントは普通セメントに比べて流出量を減少できる。
④増粘剤添加による凝結時間の差異はなく、ブリージングは減少する。
根固め液(普通セメント)に増粘剤2.0%を添加して試験施工した杭に対して、杭先端根固め部のコアボーリングを実施したところ、根固めセメントミルク圧送量から想定したコア長さとほぼ一致する長さのコアが採取された。また、コアの圧縮強度試験結果も所定強度(σ28=1.5N/mm2)を満足するものであった。
さらに杭の高止まり防止対策として、オーガスクリュー下端部に径680mm、長さ700mmのケーシングを付け、掘削時の孔壁安定を図ることとした(図3)。
以上の対策の結果、孔壁の崩壊もなく、杭の高止まりも管理値(±50mm)以内に収めることができた。
河川近傍等で地下水の流速が大きいと想定される砂礫層・玉石層や、透水性の大きい砂層などでは、地下水の流速や土砂の粒度分布を予め調査することが必要である。根固め液が流出する限界地下水流速としては、0.8m/min程度が目安と考えられる。
また、砂礫層を含む地盤における杭の高止まりは、上記の限界地下水流速以下であっても、掘削孔の先端部に礫が沈降することで発生する場合もある。このような場合には、ベントナイト等を使用して掘削液および根固め液の比重を高め、礫の沈降を防止する1)。
1)杭基礎施工便覧 平成27年3月 公益社団法人 日本道路協会 pp.215~216
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