3)既製杭
2017/10/30
建築構造物の基礎として、中掘り拡大根固め工法によりPHC杭を施工した。PHC杭の仕様は杭径φ800mm、杭長46mで、杭の構成は下杭12m、中杭12m×2本、上杭10m×1本となっていた(図-1)。施工地盤は、GL-3.0mまで盛土、GL-35.0mまではN値1~4の軟弱シルト層、GL-45.0mまではN値15~20のシルト混じり砂層、それ以深はN値≧50の支持層(細砂層)となっていた。地下水位はGL-2.0mであった。杭の打設機械は、三点式杭打機で、全装備重量は116tであった。
現地は軟弱地盤であったため、杭の打設順序は、敷地境界側から敷地の中央に向かって施工することとし、境界に最も近接した杭(境界から8m離れ)を試験杭として打設を開始した。
試験杭の施工において、敷地境界線に設置してあった万年塀(コンクリート板塀)が外側へ1/40程度傾斜するとともに、境界脇の道路のアスファルト舗装に亀裂が発生し、最大15mmの盛り上がりが確認された(図-2)。このような変状は、試験杭の打設完了後に気がつき、杭頭部を掘り出して杭の変状を確認したところ、杭心が杭頭部で境界側(X方向)に170mm、境界直角方向(Y方向)に90mmずれて、さらに杭体が傾斜(X方向1/120、Y方向1/180)していることも分かった。
当現場は軟弱地盤であったが、杭打ち機の安定については敷鉄板2枚敷きで対応可能と判断していた。しかし、予想以上に地盤が軟弱で、杭打ち機の自重により表層地盤が側方移動したものと想定された。また、下杭と次の中杭の打設までは施工能率をあげるため無排土で沈設を行い、杭の掘削沈設速度が約5m/分であった。排土をしなかったために、本来地上に排出される必要があった土砂が側方へ押し出されたことも近接構造物の変状の原因となったものと考えられた。
対処方法としては、まず表層地盤の地耐力を増加・改善させることにした。表層部盛土地盤を厚さ1.5mにわたりセメント系固化材を120kg/m3添加してバックホウで表層地盤改良し、300kN/m2の地耐力を確保できるようにした。
次に杭の掘削沈設に際しては、掘削土砂の地上への排出を確実に行うこととした。このため、軟弱地盤でも杭が自沈することがないように、杭頭部を保持しながら掘削速度を2m/分以下とし、杭(下・中・上杭)沈設1本毎にスクリューを引き上げて排土作業を行い、杭体積に見合う適切な排土量を確認することで、確実な土砂の排土を実施した。 これらの対策により、以降に打設した杭については、杭心ずれを平均23mm最大40mmに抑えることができた。なお、大きな杭心ずれが生じた試験杭については、発注者の承認を得て建築物の基礎フーチングの補強で対応することとした。
杭基礎工事の施工基盤が軟弱地盤である場合には、杭打ち機の転倒等重大な災害を招くことがないように、地耐力が施工機械の接地圧に十分耐えうるようにしておくことが極めて重要である。地耐力不足が懸念される場合には、表層地盤改良等の対策を実施しておく必要がある。また、このことは表層地盤の変位を防止して杭の施工精度向上にもつながることを認識しておく。
なお、地耐力の確認には、平板載荷試験等も考えられるが、比較的容易に支持力確認ができる簡易支持力測定器1)(図-3)が開発されており、これを活用する方法もある。
また、中掘り工法による既製杭の施工においては、軟弱地盤でも施工速度の抑制や十分な土砂の排出が地盤の側方移動防止に重要であることを理解しておくことがトラブル防止に役立つ。
1)近畿地方整備局近畿技術事務所 簡易支持力測定器 利用手引き 平成17年6月
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