3)既製杭
2017/04/27
今回は、支持層の不陸によるトラブルを予測し、その発生を未然に防いだ事例について紹介する。
本工事では、建築構造物の基礎として回転(鋼管)杭を施工した。杭の仕様は、鋼管杭径Dpφ406.4~508.0mm、羽根径Dwφ812.8~1016.0mm(先端羽根部形状:図1)、杭長14.0~27.0m、杭の本数は240本(杭配置図:図2)である。土質調査は、構造物の四隅および中央付近2か所の計6箇所で実施され、その結果、支持層の深度差が最大約13mもあり、支持層の不陸・傾斜が大きい地盤であった。ボーリング調査結果によると、支持層である泥岩の上部は風化がみられ、風化厚さも調査位置によって異なる結果であった(現場中央付近の土質柱状図:図3)。
杭の製作長さは、ボーリング調査結果から想定した岩盤線の高さに基づいて設定した長さとした。しかし、当工事では支持層の不陸に加え風化厚さの変化によって、想定と実際の支持層深度が異なることが予想された。このため、逆回転による杭の引き抜きが可能で、杭長の変更による杭の継ぎ足し・切断等の加工が比較的容易にできる回転(鋼管)杭が採用された。
実際の杭打設においては、試験工事において定めた打ち止め基準を用いて、支持層の確認と杭の打ち止めを実施した。
杭工事では、想定された支持層深度が実際の地盤では異なっていることがよくある。鋼管杭による施工では、想定した支持層深度が実際と異なる場合は、杭の継ぎ足しや切断を行うことになる。ただし、鋼管杭は、曲げモーメントが大きくなる杭頭部の肉厚が下部の杭に比べて厚くなることが多い。そのため、杭の打ち止め時点では、先端羽根部が支持層に根入れされていることに加え、厚肉範囲が所定の長さ以上確保されている必要がある。
(1)設計時点における杭長
支持層深度の複雑な変化や風化の影響に対応するため、設計上の杭長は、6本のボーリングによる想定岩盤線から推定した支持層深度を基に余裕長を見込まないで決定した。ただし杭頭厚肉部の余裕長は1.5mとした。
(2)支持層の確認と根入れ管理1)
回転杭の施工における支持層の確認と根入れ管理は以下によった。
●調査ボーリングの直近で施工した試験杭で、支持層の杭貫入量、施工機械の回転速度・押込み力を極力一定に保った状態で、掘削モータに流れる平均電流値から変換した掘削トルク値(Tr)を測定・記録する。
●支持層付近でのTrとN値の変化を対比し、風化層を含む支持層上部よりもTrが増加していれば支持層に到達したと判断する。
これにより支持層の判定と支持層への根入れ管理を確実に実施した。
(3)支持層深度の変化への対応
支持層の深度確認は、事前に設定した深度確認杭において、準備していた長いヤットコを用いて以下のように行った(ヤットコ:図4)。
●支持層深度が想定より深い場合は、不足分の長さの鋼管を追加するか、あるいは逆回転で杭を引き抜いて適切な杭と取り換えた。
●支持層深度が想定より浅い場合は、以下の方法によった。
①杭頭厚肉部の必要長を満たすまで極力貫入し、必要長を満足したら杭頭部を切断した。
②高止まりがかなり大きく、①による対応が難しい場合は、逆回転で杭を引き抜き、下杭または中杭を切断して長さを調整した(図5)。
深度確認杭での結果をふまえ、近傍の杭群の施工方法を決定し、支持層の変化に対応した。また、併せて以下の対策を実施した。
●設計時点で杭の径を2種類に限定して肉厚を統一することで、同径の杭相互間で互換性を確保し、杭長変更時の鋼管のロス率を低減した。
●不足する長さに迅速に対応するために、鋼管を準備しておくとともに加工場と加工設備を用意した。
この結果、工事完了時の余材は全数量の3%未満(重量比)に収めることができた。
山岳・丘陵部やおぼれ谷・侵食地形を埋め立てた地盤では、支持層深度が敷地全体で大きく変化したり、各杭の打設位置の支持層深度が設計想定と異なったりすることが少なくない。回転(鋼管)杭は、支持層確認が容易かつ逆回転で杭を引き抜けるという特徴により、支持層深度の変化に応じた現場対応が比較的容易にできるという利点を有している。支持層深度の変化への対応や杭の断面変化位置への対応は、以下のようになる。
(1)支持層深度の変化への対応
支持層の深度が事前想定よりも深いと予想される場合は、ヤットコ杭による施工で支持層深度を確認する。その後、ヤットコ下の杭頭部が地上に出るまで杭を引き抜き、必要な長さの杭材を継ぎ足してから再施工する。
支持層深度が事前想定よりかなり浅い場合で、支持層へ極力貫入させての対応では施工時間がかかりすぎるなど施工困難が予想される場合は、支持層深度を確認後に余長分が地上に出るように杭を引き抜き、所定の長さに切断後再施工する(図6)。
(2)杭の断面変化位置への対応
杭の断面変化位置は、杭に作用する断面力に対して応力度が許容値以内に収まるように設定する。断面変化位置では、杭の肉厚変化や杭径の変化(拡頭杭の場合)で対応することになる。回転杭では、厚肉や拡頭の範囲が所定の長さを確保することが、上記(1)を活用した杭の継ぎ足しや切断により比較的容易にできる。
1)日本道路協会 杭基礎施工便覧 pp.139~412,2015.3
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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