3)既製杭
2016/01/28
建築工事で、プレボーリング拡大根固め工法による既製コンクリート杭が採用されていた。杭径はφ800mm、軸部掘削径φ900mm、拡大掘削径φ1200mmで杭長22mのPHC杭である。施工地盤は、上部15mは沖積砂・沖積粘性土層、洪積粘性土層7mを経て支持層は泥質砂岩層であった(図1)。支持層に細粒分が多く含まれており(細粒分含有率35%)、根固め部の施工品質(強度)に不安があったので、実大施工試験で根固め部のコア試料の強度調査を行ったところ、4週の1軸圧縮強度は平均10.5N/mm2で、目標強度15N/mm2に達していないことが分かった。なお、実大施工試験は杭を建込まず単に根固め部の強度確認のために実施したものである。
根固め部のソイルセメントの強度は、土に含まれる粘土・シルトといった細粒分や有機物の影響、並びに施工の良否により低下する場合がある。試験杭の根固め部の強度不足の原因としては、
① 支持層に含まれる細粒分の影響
② 当該地盤に対する根固め部混合撹拌方法の不適(撹拌不足)
③ 軸部の掘削速度が速く、排土不足で洪積粘土層の土塊が根固め部に混入
が考えられた。
対策は、まず①に対しては、支持層部地盤からの試料採取による室内配合試験における一軸圧縮強度試験結果で、適切なセメントミルク注入率を決定することにした。なお、セメントミルク注入率とは根固め部の土砂体積と注入するセメントミルク体積の比率のことをいう。当工法(W/C=60%)の標準的なセメントミルク注入率50%では一軸強度12N/mm2と設計値を満たさなかったので、安全率を考慮した室内必要強度:20N/mm2に対応するセメントミルク注入率(以下注入率で示す)80%とすることを決定した。ちなみに注入率100%の一軸圧縮強度は45N/mm2であった。
次に②に対して根固め工程を2回実施することとした。具体的には1回目の混合撹拌で注入率50%、2回目の混合撹拌で注入率80%となるように施工した(図2)。
③に対しては、洪積粘土層の掘削速度を1m/minの低速で実施するとともに、12m毎のターニング(ロッドの上下)で泥土の細粒化と排土促進を行った。
以上の結果、根固め部のコア試料の一軸圧縮強度は平均20.5N/mm2で、目標強度15N/mm2をクリアすることができた。
プレボーリングによる埋込み杭では、通常は各工法で決められている標準的な施工方法で杭を施工して問題ないことが多い。しかし、支持層における細粒分含有率が高い場合や、掘削層に比較的硬質の粘性土層が厚く堆積している場合など、地盤条件によって工法で定められた通常の施工方法では根固め部のソイルセメントが強度不足となるケースがある。
杭を施工する地盤を事前に確認し、施工実績が少ない地域や上記のような地層を対象とする場合では、根固め部の築造には十分な配慮が必要であり、強度低下が予想される場合には、根固め部の施工方法等を地盤に合わせて修正する必要がある。なお、地盤ごとの根固め部の良否の早期判断には、未固結試料を採取して強度調査する方法なども有効と考えられる。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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