3)既製杭
2016/04/27
擁壁の基礎で、中堀り拡大根固め工法による既製コンクリート杭が採用されていた。杭径はφ800mm、杭長34mのPHC杭(下杭12mA種、中杭12mA種、上杭10mC種)である。施工地盤は、上部15mはN値0~1の軟弱沖積粘性土層、N値が8~10の中位の砂・シルト層20mを経て、支持層はN値≧50の砂層であった(図1)。地表面下10mは土質調査においてN値0でモンケンが自沈するくらいの特に軟弱な粘性土層で、三点式杭打機の安定性が懸念されたため、セメント系固化材による深さ1.0mの浅層地盤改良を行った後、杭の打設を開始した。
工事は1期(杭本数60本)と2期(杭本数45本)の分割施工となっており、第1期工事の杭打設完了後に擁壁の底版の施工のため掘削を行ったところ、杭芯のずれが管理基準値100mmを超過する杭が全体の25%に及ぶことが判明した。
中堀り杭の施工管理データを確認したところ、上部の軟弱沖積粘性土層における杭の沈設速度が速く、排土が十分に行われず、地盤が側方に押し出され施工済みの杭を水平移動させた可能性が高いことが判明した。また、軟弱地盤では杭の自沈もあったとのことで、自沈時に地盤が側方に押し出されて杭の水平移動を増大させたものと想定された。
また、杭打機の設置位置や施工手順から、杭打機の自重や掘削残土の仮置き荷重による地盤の側圧の発生による影響もあったものと考えられた。
さらに初歩的なミスではあるが、杭芯位置を表示する鉄筋棒が杭打機等の重機の移動の際に動き、移動に気付かないまま杭を打設してしまった可能性もある。
トラブルの対処については、以下のように行った。
① 杭の出来形を調査して、杭芯位置の水平移動と杭の傾斜を考慮した擁壁の構造計算を実施し、構造物の安全性を確認した。その結果、一部基礎コンクリートの増打ちや配筋の変更が必要であった。
② 管理基準値を超過した杭については、杭体の健全性を確認するため、インティグリティ(IT)試験注1)を実施し、杭体に機能上問題となるクラックが無いことを確認した。
次に2期工事における杭芯ずれの防止対策は、次のようにした。
① 上部15mまでの掘削沈設は、1.0m/分以下の掘削速度とし、排土を十分に行うこととした。
② 杭頭部に自沈防止キャップ(図2)を取り付けて、軟弱層での杭の自沈を防止した。
③ 地盤改良の仕様の再検討を行い、杭打機や掘削残土の仮置き荷重による地盤変位を抑制するために、改良深さを1.5mとし、セメント系固化材の添加量も変更した(70→100kg/m3)。
④ 杭打機の杭芯セット作業完了後、杭打設開始直前に再度トランシットにて杭芯位置を確認した。
⑤ 杭頭部に固定できるヤットコを数本準備して、杭とヤットコを固定することで、杭打設直後からの杭芯の移動を杭打設工事終了まで随時追跡確認できるようにした。
以上の結果、2期工事では、全ての杭芯位置を管理基準値内に収めることができた。
軟弱地盤における既製杭の打設においては、杭打ち機の重量の載荷や移動時の偏荷重で測量済みの杭芯を示す鉄筋棒や打設済みの杭が移動することがある。このため、杭打ち機の杭芯セット時に杭芯位置の再確認を行うことや、打設後にも杭の位置をチェックできるようにしておくことが必要である。また、中堀り杭打設時の排土が不十分であると、施工済みの周囲の杭に偏土圧が作用して偏位することがある。このため、事前に杭打設に際しての適切なサイクルタイムを設定しておき、杭の時間あたり沈設量や排土量を適切に管理して杭の施工を行うことが重要である。
杭芯位置がずれた場合、杭の撤去や再打設を要する場合も考えられ、多大な費用と時間が必要になる。このようなことにならないよう、事前に十分な施工検討を行い、適切な施工管理を行うよう留意しておく。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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