2)その他の場所打杭
2016/07/28
建築構造物の基礎として、アースドリル工法による場所打ち杭を施工した。杭の仕様は軸径φ1500mm、拡底径φ2200mm、L=25.0m(掘削長:27.0m)×12本である(図1)。施工地盤は、GL-4.0mまで盛土、GL-18.5mまではN値18~30の細砂層、GL-24.5mまではN値12のシルト、それ以深はN≧50の支持層(細砂層)となっていた。地下水位はGL-5mであった。
基礎フーチングの施工にあたり床付けレベル(GL-2.4m)まで掘削を行ったところ、杭頭周囲が欠けた杭が2本あることが判明した。さらに掘り下げ、杭径が確保できる健全なコンクリートが出現するまで調査したところ、欠損部は床付けから最大50cm下であった(図2)。
当該杭の施工管理記録をもとに、以下の管理項目を対象とした要因分析を行った。
①打設したコンクリートのスランプ試験結果は、全て21±1.5cmの規格値に収まっていた。しかし、当該杭の打設当日は外気温33~35℃、コンクリート温度29~31℃であった。
このため、温度条件の影響を受けてトレミー管から流出した時点で経時変化により性状悪化していた可能性がある。
②地質条件としては、GL-4~18.5mまでは細砂層が続いており、安定液中に砂分が浮遊しやすい地層であった。
③主鉄筋はシングル配筋で純間隔は112mmあり、コンクリートの充填には問題ないものであった。
④コンクリート打設前の安定液は、比重1.03~1.04、粘性(ファンネル粘度計による)24~27秒、砂分2.2~2.6%であり、安定液は良好に管理されていたものと判断された。
⑤杭頭コンクリート打設時のトレミー管のコンクリートへの挿入長さは4mであった。
⑥余盛り高さは800mmを確保する前提であったが、表層ケーシング引抜き後、杭頭部のコンクリート天端が数十cm下がり、適切な余盛り高さが確保できていなかった。
上記のなかから良好と判断される管理項目を消去した結果、トラブルの要因としては、②、⑤、⑥が考えられた。そのほかに①の可能性も予想された。
対処方法としては、設計監理者の承諾を得て、不良部分をはつり取り型枠を設置して、杭と同等の仕様のコンクリートを打ち足した。
アースドリル杭において砂層が卓越している場合、コンクリート打設前の安定液中の砂分率を3%以下として管理しても、杭頭付近では浮遊した砂分が多量にコンクリート天端に堆積する。これによりコンクリートの流動性が低下し、杭頭部に欠損を生ずる場合がある。砂層が卓越している地盤においては、杭頭周囲の打ち上がりコンクリートの天端高さを鉄筋かごの外側を含めてこまめに測定し、打設完了とする必要がある。なお、表層ケーシング引抜き時の沈下も含め、余盛り高さが標準(一般に孔内水がある場合で0.8m)では不足する場合もあるので、余盛り高さを数十cm高くする対策も考えられる。
また、トレミー管の挿入長さが長すぎると、新鮮なコンクリートが杭頭部に上がらず、流動性が低下して杭径不足につながることがある。そのため、杭頭付近では2m~1mの調整用トレミー管を準備しておき、トレミー管をこまめに切断できるように計画しておくことも重要である。
一方で、場所打ち杭の杭体形状不良トラブルの約1/3は、スランプ不良が要因となっている。今回の例のように、気温が高い時期の場所打ち杭の施工においては、スランプの経時変化についても十分注意しておき、遅延材を添加して流動性を確保するなどの対策を講じることも考えられる。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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