2)その他の場所打杭
2018/04/26
ビルを新設する工事で、アースドリル工法による場所打ち杭を施工した。杭の仕様は杭径φ1.4m、杭長38.0m、掘削深度は40.1mである。施工地盤は、地表より8.0mまでは緩い砂質土、12.5mまでが緩い礫混じり砂層で、その下は支持層(砂礫:N≧50)に達するまで洪積層(シルト・細中砂)になっていた(図-1)。
当該杭は、長さ9mの表層ケーシング(φ1.6m)を建込んで、1日目にGL-40.1mまで掘削を行い、2日目にコンクリートを打設する予定であった。1日目の掘削完了後、ベントナイト安定液の逸水量を測定したところ、時間当たり0.5m3の逸水があった。このため、翌日まで水道水で孔内水の補給を行った。2日目のコンクリート打設に先立ち検尺を行ったところ、掘削長に異常は認められなかった。その後、沈降したスライムを取るために底ざらいバケットで底ざらいを行い、バケットを引き上げたところ、上部のケーシング内のベントナイト安定液がGL-2.0mからGL-5.0mまで数秒で低下した。このため掘削長の再確認を行ったところ、掘削深度が4m程度浅くなっていることが確認され、孔壁が一部崩壊したものと想定された。超音波測定器(図-2)で孔壁を測定したところ、ケーシング下端からのGL-9m~-12.5m間の礫混じり砂層で最大幅40cm程度の孔壁の崩壊が確認された(図-1)。
杭の孔壁崩壊の原因としては、以下の項目が考えられた。
①現地の地盤は、表層部から深度12.5mまで緩い砂層や(緩い)礫混じり砂層が続いており、長さ9mの長尺表層ケーシングを使用したが、ケーシング下端以深にも崩壊する危険性の高い地層が存在していた。
②安定液の性状は、掘削中は比重が1.06、ファンネル粘性が30秒と適正な値であった。しかし、ベントナイト安定液を補給するプラントの安定液保有量が不足していた。このため、夜間の逸水に対して水道水を給水してしまい、孔内上部より徐々に安定液の比重・粘性が低下して孔壁の安定性が低下した。
③底ざらいバケットの引き上げ速度が速すぎて、バケットと孔壁の間に下向きに安定液の速い流れが発生し、孔壁崩壊につながった(図-3)。
対処方法は、当該杭については、安定液の性状を管理範囲内の適正なレベル(比重1.08~1.10、ファンネル粘性30~35秒)とし、さらに逸水防止材を添加して孔壁の安定を確認した後、(発注者との協議・了承を受けて)杭先端部にたまった孔壁崩壊土砂の再掘削を行い、コンクリートを打設して、所定の場所打ち杭の施工を完了した。
また、以降の杭については、表層ケーシングをシルト層上部の深度13mまで建込むとともに、夜間のベントナイト安定液の補給にも対応できるようにプラント設備を増強した。
孔壁崩壊の危険性がある緩い砂・砂礫層を有する地盤におけるアースドリル杭の孔壁崩壊の防止対策としては、以下のような項目があげられる。
①表層ケーシングを、崩壊の危険性の少ない深度まで建込む。
②ベントナイト安定液の粘性を適切に管理する(例:比重1.05~1.15、ファンネル粘性30~35秒)とともに、崩壊の危険性が高い場合には逸水防止剤(テルストップ、KSファイバー、マッドシール等)を添加する。
③掘削土量が多く、その日のうちに掘削からコンクリート打設まで行うことが難しい場合は、夜間の孔内水位低下に備えて、掘削した孔壁の安定を保つために補給プラントの能力を大きくするとともに、自動給水制御装置を設置して孔内泥水の水頭を保持できるようにする。
④砂分が多い地盤で逸水の可能性が考えられる場合には、掘削途中に適宜施工を止めて、安定液の逸水がないことを確認する。
⑤緩い砂質地盤や(緩い)砂礫地盤の場合は、バケットの昇降速度を遅くして安定液の速い流れによる孔壁への影響が出ないようにする。
また、以下のように現地の状況で地下水位の変動が予測される場合についても、注意が必要である。
①潮の干満による影響を受ける海岸に近接した敷地では、地下水位の変動を事前に調査しておいて安定液の孔内水位に反映させる。
②遮水壁(山留め壁)で囲まれた場所で杭を施工する現場では、降雨が地盤に浸透し、場内の地下水位が急激に上昇して孔壁が崩壊した事例がある。このような場合は、場内に観測井を設けて地下水位を監視し、事前にディープウェル等で場内水位を低下させておく。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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