打設中(コンクリートの特性とクラック)
2018/12/25
プレキャストコンクリート製のアーチカルバートの天端に軸方向(トンネル軸方向)のひび割れが多数発生していることが発注者より指摘された。当該構造物は図-1に示すように、盛土にて高速道路インターチェンジを築造する工事のうち、延長約130mのアーチカルバートである。アーチカルバートの諸元は、内空高約9,500mm、製品長1,000mm、天端部の部材厚550mm、コンクリートの設計基準強度40N/mm2で、土被りは最大で約13mである。アーチカルバートは平成17年に建設され、その3年後にひび割れが発生していることを発注者より指摘された。
ひび割れは、アーチカルバートの天端軸方向に、図-1、図-2に示すような箇所に多く発生していた。円周方向には数本のひび割れが約250mmの等間隔で発生していた。ひび割れの幅は0.1~0.3mmで平均0.14mmであった。また、ひび割れの深さを超音波測定器にて測定したところ40~110mmであり、部材を貫通していないことが確認できた。内側の鉄筋かぶりを電磁誘導法によって測定したところ、設計値の43mmに対して若干大きい48~68mmであった。コンクリートの圧縮強度はテストハンマー(シュミットハンマー)を用いた反発硬度法で推定したところ52~57N/mm2であり、設計基準強度を満足していることが確認できた。
現地調査の結果、基礎地盤の沈下や盛土に変状は認められなかった。図-1に示すように、ひび割れの発生箇所が高盛土の部分と一致していることから、その発生原因は盛土の鉛直荷重によるものと推測した。アーチカルバートの設計計算書では、鉄筋に発生する引張応力は約130N/mm2、ひび割れ幅0.2mmであり、鉄筋の許容応力度180N/mm2、鋼材腐食に対する許容ひび割れ幅0.21mm(=0.005c=0.005×43、cはかぶり)を満足していることが確認できた。発生しているひび割れのほとんどがこの許容ひび割れ幅以下であることから、ひび割れは構造設計どおりに発生しており、鋼材腐食に対する許容ひび割れ幅より小さいことが分かった。また、ひび割れの経過観察では、経時的な変化が認められなかったことより、構造耐力に影響はないものと考えた。しかしながら、一部のひび割れには許容ひび割れ幅より大きいものがあった。これは実際のかぶりが設計値より若干大きくなっていることが原因と考えられたので、構造物の安全性を考慮して0.2mm以下のひび割れは表面処理工法、0.2mmを超えるひび割れは低圧・低速型のエポキシ樹脂注入工法にて補修することを提案し、発注者の承認を得て対処した。
プレキャストコンクリート製のアーチカルバートに発生したひび割れは盛土の鉛直荷重によるものであり、発生したひび割れも設計計算とほぼ一致しているので構造的には問題ないと判断された。今回のケースは設計上あるいは施工上の「失敗」には該当しないと考えられるが、プレキャストコンクリート製のアーチカルバートにひび割れが発生したとの同様なクレーム事例が幾つか報告されている。基礎地盤の沈下、盛土の手順ミス、重機の走行などを除くと、多くは設計思想の認識が発注者、設計者および施工者で異なっているためと考えられる。すなわち、構造物に設計荷重が作用すれば、天端部に曲げモーメントによるひび割れが発生することの認識を各者が共有することが重要であると考えられる。当該構造物は許容応力度法で設計したものであり、ひび割れの発生を少なくしたい、あるいはその幅を小さくしたい場合には、鉄筋の許容応力度を小さく設定するか、許容ひび割れ幅を小さく設定して設計するなどの対処を事前に実施していれば今回のようなトラブルは生じなかったものといえる。
一方、現在の性能照査型の設計では、耐久性に関するひび割れ幅の限界値および使用性に関するひび割れの設計限界値を設定して照査することになっており、それら設定値を事前に協議しておくことが望ましい。
ただし、プレキャストコンクリートの鉄筋かぶりを設計通りに確保しなければならないのは当然である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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