打設中(コンクリートの特性とクラック)
2017/03/31
当該構造物の概要は、図-1に示すとおりであり、この上にはスコアボードが設置される構造形式となっている。構造物最上階の両端は片持ち梁形式で、それぞれ4m張り出した構造となっている。コンクリート躯体の施工は、地中梁、地下、1階、2階に分けて行った。ひび割れは、図中に示した2階部分張出し部の根元部に鉛直方向に発生した。
型枠支保工の構造は写真-1に示すとおりであり、張出し部分は枠組支保工5層、その上が鋼管パイプによる支保構造である。型枠支保工の高さは約10mであり、良く締め固まった地盤の上に組み立てられていた。コンクリートの配合は21-18-25Nであり、2階部分コンクリートの打込みは10月の初旬に、図-2に示すように次のような手順で行った。
①最初に、張出し部下端までの柱・壁部分を層状に打ち込んだ。
②次に、張出し部の中間高さ(スラブ上面)までの打込みを行った。
③最後に、天端までの打込みを行った。
このように、張出し部は2層に分けて打込み、その打重ね時間間隔は約1時間30分であった。
ひび割れは、図-2に示すように、張出し部の根元に鉛直方向に発生しており、その特徴は次のとおりであった。
●ひび割れは、張出し部側面の型枠を取り外した時に発見された。ただし、張出し部分の型枠支保工は存置しておりまだ撤去はしていない状況であった。
●ひび割れは、両張出し部の根元全4箇所において鉛直方向に発生していた。
●ひび割れは、張出し部の高さ方向には貫通しておらず、その上端は下層コンクリートと上層コンクリートの打重ね部にほぼ一致していた。
●ひび割れ幅はその上端で1~2mmと大きく、下方ほど狭くなっていた。
前述したひび割れ発生状況の特徴より、その発生原因を下記のように推定した。
①ひび割れ上端の幅が広く、下方ほど狭いということから、根元部に負の曲げモーメントが作用したことが推察できる。
②張出部側面の型枠を取り外した時に、既にひび割れが発生していたということより、若材齢時に何らかの力が作用して発生したものと推察できる。
③張出し部上層コンクリートにひび割れが発生していないことから,下層のひび割れは上層のコンクリートがまだフレッシュな状態の時に発生したものと推察できる。
以上より、張出し部下層コンクリートにひび割れが発生した原因としては、コンクリート打込み時にその自重により型枠支保工が変形あるいは沈下したためであると推定した。
ひび割れが発生したことによる悪影響については、耐久性、構造的安全性の両面から検討する必要がある。当該ひび割れの場合、次のような対策を行った。
耐久性に対しては、ひび割れ幅が最大で1~2mmと大きいことから、有害物質の侵入を防ぎ鉄筋腐食を生じさせないために、何らかの材料による注入・充てんを行うことが必要であると判断した。
一方、構造的安全性に対しては、張出し部上部の主鉄筋の位置にひび割れが発生していないことから、曲げ耐力に対しての影響はほとんどないものと判断した。しかし、張出し部根元(支点部)に鉛直方向にひび割れが発生していることから、せん断力に対する抵抗の低下が懸念された。そこで、コンクリートの一体化を図るため、エポキシ樹脂による注入補修を行うこととした。
張出し部の型枠支保工は、写真-1に示すように高さ約10mであり。枠組支保工5層、その上が鋼管パイプによる構造であった。この支保工が変形・沈下した主な原因としては、鋼管パイプ構造の部分が変形する可能性は小さいため、枠組支保工5層の部分が変形した影響が大きいと考えられた。
枠組み支保工自身が変形する原因およびその対策としては、下記三つが考えられる。
(1) 建枠脚柱の荷重分担が大きい場合には、その脚柱自身が変形することが考えられる。型枠支保工の設計時には、想定される鉛直荷重に対して、建枠が許容荷重以下となるよう照査するが、支保工が高い場合には脚柱自身の変形についても詳細な検討を行うことが望ましい。
(2) 枠組み支保工の層数が多い場合、上記の脚柱自身の変形に加えて、各層の脚柱継目部の僅かな隙間がコンクリート打込みに伴う鉛直荷重の増加に応じて狭くなり、支保工全体が変形することが考えられる。したがって、コンクリート打込み時には、型枠支保工の点検作業員を配置して、脚柱継目の隙間や支保工の沈下による影響を無くすため、適時ベースジャッキなどで高さを調整することが望ましい。
(3) 今回の工事では、写真-1、図-3に示したように、鋼管パイプ支保工からの鉛直荷重を、敷角を介して枠組み支保工の布板に荷重を伝達する構造としたために、布板にたわみが生じて支保工に大きな変形が生じたものと考えられた。建枠を型枠支保工として使用する場合には、一般的には図-4に示すように、型枠を支える根太、大引きを介して建枠脚柱に荷重を伝達する構造とする場合が多い。したがって、今回の工事においては、上部の鋼管パイプ支保工からの鉛直荷重を建枠脚柱に直接伝達するよう、適切な形状・寸法の建枠を選定・使用することが望ましかったといえる。
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