打設後(養生)
2013/12/20
1月に東京の近郊の浄水場で、配水池の壁のコンクリートを打設した。今回の工事で最初の壁のコンクリートである。打設時期と壁の厚さが0.9mと厚いことから、高性能減水剤の使用により単位セメント量をできるだけ小さくするとともに、中庸熱コンクリートを採用した。15時に打設が完了後、壁全体をブルーシートで覆い、壁の中間部に練炭をぶらさげ、頂部には投光器を設置した。ただし、練炭および投光器による保温養生は一晩だけとした。
5日後、朝の気温が零度の寒い日だったが、ブルーシートをはずし、次に型枠材をはずした。その日は気がつかなかったが、翌朝コンクリートの壁には、鉛直方向に4m程度おきに規則正しく0.4mm前後のクラックが発生していた。(図1)
クラックの発生した原因として温度ひび割れが考えられたが、そのメカニズムには2つの可能性があった。一つは、冬場のコンクリートの養生の問題、二つ目はマスコンクリートとしての構造上の問題である。
1)養生の問題
壁のコンクリートの内部には水和熱によって上昇した温度が蓄えられている。ところが脱型により、コンクリート表面は急に冷たい外気にさらされ、熱がうばわれる。このため、コンクリートの表面と中心部でかなり大きな温度差が生じ、クラックが発生したと考えられた。
2)マスコンクリートと外部拘束
もう一つはマスコンクリートとしての問題である。壁はセメントの水和熱によるコンクリート温度の上昇が体積変化(膨張、収縮)を引き起こすが、下端はすでに固化している底版コンクリートに拘束されているため、壁コンクリートの内部に応力が生じる。この内部応力が部材の引張強度を超えることで、クラックが入ったというものである (図1) 。
3)対処方法
水を貯める構造物なので、漏水を起こさないように、クラックの補修を行った。クラックの形状は鉛直に近いといってもやや斜めに、一部枝分かれしている。決して、美観上優れたものではないが、クラックに沿ってVカットし、レジンモルタルでコーキングした。
2回目以降に打設する壁コンクリートに対しては、新たに次の対策を実行することにした。
養生を原因とするクラック対策として、脱型を1日伸ばし6日目とした。外気温とコンクリートの温度差を少なくするために養生期間を長く伸ばしたのである。さらに、型枠をはずした後、再度シートで覆うようにした。急激な温度変化を与えないためと脱型後も保温に努めるためである。
マスコンクリートを原因とする対策として、クラック発生位置を分散させ、それぞれのクラックを許容できる幅に狭めることを意図して@250mmで配置されたD25の壁鉄筋の間にD19を配筋した。
これらの対策を施した結果、次回以降の壁コンクリートにはクラックは発生しなかった。
今回のクラックは、発生状況からすると外部拘束による要因のほうが大きいようである。マスコンクリートの施工にあたっては「温度ひび割れ」現象が起こりやすく、1でのべたようなコンクリートの配合そのものに対する配慮が必要である。
特に、寒中のマスコンクリートは事前の温度解析を参考にしながら、コンクリート部材内外の温度差が大きくならないよう養生温度、養生期間を計画することが大切である。2で示した対策や熱伝導率の低い木製型枠の使用、保温性の高いシートの採用などの対策を準備すべきである。
施工に当たっては、一度は温度測定を行うことを奨める。熱伝対により壁中心部および表面付近のコンクリート温度、シート内の雰囲気温度を計測し、コンクリート温度をできるだけ緩やかに外気温に近づけるよう養生期間等を決定する。
「温度ひび割れ」の対策として、クラック誘発目地を設置することも有効である。わざとクラックを発生させ、そこだけを補修すれば良いようにして、補修の効率と見栄えを確保しようというものである。
なお、2012年制定のコンクリート示方書によると「断面欠損率は50%程度以上とすることで確実に誘発することができる場合が多い。」と書かれている。(図2)コンクリート表面に入れた切れ込み目地だけでは効果がなく、型枠の両面に付けた目地を結ぶ位置に鋼板や塩ビ製の板などを設置することでクラックを誘発する。(図3)
また、クラック誘発目地部分の補修としては、構造物の用途によってクラック部分にエポキシ樹脂を注入し弾性シーリング材でコーキングするなどが考えられる。
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