打設後(養生)
2016/12/26
宅地造成地内にL字状に建設された片持ちばり式擁壁の隅角部に、1.0~2.0mm幅の斜めひびわれが発見された。発見時期は、盛土の施工がほぼ完了した時点である。隅角部の擁壁高さは7.0mで、さらに高さ2.5mの背面盛土を擁している。L字状の擁壁は延長が80mおよび100mであり、隅角部より7.0mの位置とその先20.0mの間隔に伸縮目地が設けられている。また、隅角部ブロックの伸縮目地は、目違い防止のためにたて壁をスリップバーにて連結している。尚、盛土の施工では、擁壁背面の裏込め土に現場発生材であるローム(火山灰質粘性土)を用い、30cmごとに振動ローラー及びタンパーによる転圧を行った。
隅角部の擁壁の断面形状、平面形状ならびに収縮目地の詳細を図1~図3に、ひびわれ発生状況図を図4に示した。また、たて壁の構造仕様は下記のとおりである。
コンクリート | 設計基準強度:24N/mm2 |
---|---|
鉄 筋 | 材 質 SD345 |
主 筋 D22@250(前面)、D29@125(背面) | |
配力筋 D16@250(前面)、D19@250(背面) |
片持ちばり式擁壁は、一般に主働状態の壁面土圧を面外荷重として受ける単位幅の片持ちばりとして設計される。本擁壁においても、隅角部も含め同様の方法にて構造計算されていた。しかし、隅角部には、この荷重に加えて、直交する擁壁に作用する土圧が設計対象となるたて壁に面内方向の荷重として作用し、図5に示すような面内応力が発生する。このため、本事例においては、面内力を受ける面部材としてのせん断耐力が不足しひびわれを生じさせたものといえる。また、片持ちばりとしての設計では通常配力筋の量が比較的少なく設定されるため、せん断耐力に寄与する鉄筋量が不足していた点も指摘できる。加えて、隅角部ブロックのたて壁がスリップバーにより隣接壁体と一体化されていたことで、より広範囲の土圧がたて壁に作用した可能性も挙げられる。
なお、ひびわれ箇所の処置に関しては、追跡調査によってひびわれの幅および長さに進展がないことを確認できたため、エポキシ樹脂を用いた低圧注入工法による補修を行った。
擁壁の設計は、通常一方向からの荷重を受ける片持ちばりとして設計されるが、比較的高さの低い擁壁においては、本事例のように隅角部においてせん断ひびわれが発生する可能性は低い。しかし、擁壁高さが高い場合や背面に高い盛土のある擁壁では、直交する擁壁からの土圧によりせん断ひびわれが発生する可能性がある。このため、施工者側としては当該部分の設計計算書の確認、伸縮目地の位置・構造などについてあらかじめ照査しておくことが重要である。また、事前の対応策としては、配力筋の量を増加させる方法、控え壁により面内荷重を負担させる方法(図6)などが考えられる。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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