打設準備(型枠・鉄筋組立等)
2019/03/29
海上に構築される代表的な港湾構造物の一つに桟橋がある。桟橋は、その前面に船舶を係留し、様々な物資等の荷役を行うための施設であり、鋼管杭等の基礎(下部工)と鉄筋コンクリート製の梁・床版(上部工)で構成される場合が多い。
梁・床版からなる桟橋上部工は、海面近くに設置される場合が多く、施工時はもちろんのこと、点検や補修・補強等の維持管理の際にも、その作業は潮位の影響を受けることになる。特に、桟橋下面の全面に足場を設置して作業をする場合には、満潮位(H.W.L.)よりも低い位置に足場を設置すると流木等の漂流物の影響を受ける懸念があるため、潮位を十分に考慮する必要がある。
今回の事例は、桟橋の供用条件の見直しによる上載荷重の増加に伴い、梁下面の増厚補強を実施した際に発生した、コンクリートの充填不良のトラブルである。梁の増厚補強の概要を図1に示す。1回に連続して打ち込む範囲は梁3本分(3スパン)であった。補強設計により、厚さ650mmの鉄筋コンクリートによる増厚が必要とされたため、逆打ち施工における充填性を考慮して高流動コンクリート(スランプフロー650mm、膨張材添加)を用いた。また、足場の設置位置は、H.W.L.から250mmの高さとした。
図1 梁の増厚補強の概要
コンクリートの打込み方法は、図2および図3に示すように、梁の側面中央部に投入口を、梁の両端と打込み範囲の端部に空気抜きホースを設けておき、投入口から高流動コンクリートを流し込んで、空気抜きホースからの流出(20cm程度の立ち上がり)を確認して打込み完了とする計画であった。なお、3本の梁の片側から順番に打ち込み、なるべく片押しになるように施工した。また、図4に示すように、既設部と型枠の間にはシール材として隙間テープを取り付けておいた。
しかし、打込み中において確認できた空気抜きホースの充填状況は、コンクリートが5~10cm程度しか立ち上がらず、時間とともに少し沈下するような箇所もあった。脱枠後に確認したところ、型枠側面の上部(型枠が既設部に接する面)には、写真1に示すように、完全に充填されていない箇所が発生していた。空隙の大きな箇所では、幅65cm、高さ3cm、奥行き20cmに及んでいた。
逆打ち部に今回のような空隙が発生した原因は、投入口や空気抜きホースからのヘッド圧が当該箇所に十分に作用していなかったことに加え、型枠のシールが局所的に不十分であったために、コンクリートの打込み中あるいは打込み終了後に部分的にコンクリート面が下がってしまった(空気が入り込んでしまった)ためと考えられた。
高流動コンクリートはセルフレベリング性が高いため、すでに既設部まで充填された範囲においても、打込み速度の変化や打込み作業の中断などの影響によりコンクリート面が下がろうとする(全体として平坦になろうとする)ことがある。その際にヘッド圧が十分に作用していればコンクリート面は下がらないが、ヘッド圧が十分に作用していない場合には、とくにシールが不十分な箇所の近傍でコンクリート面は下がりやすい(既設部の下面に空気が入り込みやすい)。また、打込み中や充填完了後に生じる型枠のたわみやコンクリートの沈下に対しても、空隙を生じやすかったものと考えられる。
ヘッド圧が十分に作用しなかったことに関しては、投入口の箇所数や高さ(今回は20cm)が不足していた可能性が考えられる。
一方、型枠のシールに関して、ここではスポンジ状の隙間テープをシール材として使用していたが、テープの取付け時か型枠の設置の際にテープがずれた可能性があり、型枠設置時のシールの確認も十分にできていなかった。
その背景としては、梁の下面で作業をするのに十分な高さに足場を設置できなかったことが挙げられる。具体的には、作業足場は前述したように潮位の影響を受けない高さに設置したが、増厚部の厚さが65cmもあったために、型枠の下部に十分な離隔を設けることができなかった(図1、写真2)。このことにより、作業に十分な照度を確保するのも難しくなり、作業エリアを移動するにも時間と労力が掛かるなど、作業性が極めて悪くなり、隙間テープの設置作業やその確認作業を確実に行うことが難しくなってしまったものと思われる。
さらには、通常のコンクリート工では逆打ち施工を行う機会が少なく、施工関係者がシール作業の重要性を十分に認識できていなかったことも原因の一つであり、施工上のポイントを十分に認識して作業員に教育・周知することが必要であった。
なお、発生した充填不良部は、可能な範囲で念のためにコンクリート上面のチッピングを行い(高流動コンクリートであるためレイタンス層はない)、ポリマーセメントモルタルを注入した。
高流動コンクリートを閉鎖空間へ打ち込む場合には片押しが基本であり、型枠内の空気を押し出すように、できるだけ片側からコンクリートを流動・充填させる方法を検討しておくことが重要である。
その上で、今回のようなトラブルの再発防止のためには、増厚コンクリートの全体に十分なヘッド圧がかかるような施工方法を検討する必要がある。投入口の高さ(ヘッド)をもう少し大きく、また投入箇所数をもう少し増やすなどの対策が考えられ、現場の施工条件に応じて事前実験などを実施することも重要と思われる。また、流し込み方式ではなく,圧入方式の採用も考えられる。
さらに、型枠のシール方法として、隙間テープだけではなく、型枠の端部に弾性シーリング材等を用いたシールを併用するなど(図5)、より確実な方法を採用すべきである。この型枠端部のシールは目視でも確認しやすく、管理が容易なシール方法である。今回の工事では、実際にこの方法でシール方法を改良したことで、同様の空隙(充填不良)が発生することはなくなった。
なお、桟橋下部での作業は、海上の狭隘な場所で行うことになるため、設計段階において施工性を考慮した補強断面(できるだけ増厚寸法を小さくすること)を検討するとともに、別の補強工法(例えば鋼板接着工法など)の採用等についても検討することが重要である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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