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現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたくよう、実際の施工にあたっての失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考にしてください。

土工事2)盛土・軟弱地盤

補強⼟壁を採⽤した⾕埋め盛⼟に
⻲裂・沈下が発⽣

2018/08/30

工事の概要とトラブルの内容

⼟部と橋梁部に挟まれた盛⼟部(⽚切り⽚盛りの⾕埋め盛⼟)において施⼯された補強⼟壁の事例1)である。補強⼟壁は、壁⾯材として鋼製枠タイプ、補強材としてジオテキスタイル(アラミド繊維を⾼密度ポリエチレンで被覆)を⽤い、壁⾯⾼さは最⼤で15m、壁⾯勾配は1:0.3である。図1に代表断⾯を⽰す。補強材の敷設間隔は、下段部で50cm、中上段部では100cm、補強材⻑さは最上段で15mである。なお、壁⾯材背⾯にはこぼれ出し防⽌と緑化のために不織布と植⽣シートを設けている。

盛⼟材には切⼟部より採取した新第三紀の泥岩を⽤い、振動ローラー(200kN級)を⽤いて⼗分に締め固め、密度および空気間隙率の施⼯管理基準を満⾜していた。

補強⼟壁の竣⼯後、約1年が経過した頃に路床⾯の縦断⽅向に複数の⻲裂(最⼤で幅15cm, 深さ40cm)が発⽣した。路床⾯はセメント安定処理をされていたため、応急処置として⻲裂はアスファルト乳剤により補修し、シート養⽣することで表⾯⽔の浸⼊を防いだが、時間の経過とともに壁⾯の変状が進⾏し、変状の⼤きい箇所では壁⾯前⾯上部で約40cmの沈下と50cm を超える⽔平変位(はらみ出し)が確認された。

なお、この補強⼟壁の底⾯は置換えコンクリートまたはセメント改良による安定処理が⾏われており、基礎部の変状は認められない。

図1 補強⼟壁盛⼟の断⾯図図1 補強⼟壁盛⼟の断⾯図

原因と対処方法

変状後に⾏った調査結果から、図1中の点線で囲った着⾊した範囲において、弾性波速度が低下していることがわかった。また、それを裏付けるように密度の低下と含⽔⽐・飽和度の増加が確認された。この変状の原因は以下に⽰す3つの素因と誘因(降⾬)によるものと考えられた。

1)盛⼟材として使⽤したのはスレーキングを起こしやすい脆弱な岩

2)表流⽔が盛⼟に浸透しやすい状況

3)地⼭からの湧⽔の盛⼟内への浸透

1)に関しては、盛⼟材は新第三紀の泥岩であり、乾燥と湿潤の繰返しにより細粒化し、強度低下しやすいスレーキング性の材料であった。同様の性質をもった試料の乾湿繰返し状況を写真1に⽰す。吸⽔により岩があたかも溶けるようにして細粒化する状況が⾒て取れる。この現場では盛⼟材がスレーキングを起こし細粒化し、壁⾯の鋼製枠から細粒分が流出したことが確認されている(写真2)。

2)に関しては、⼯事中で未舗装であったこと、および路床⾯の路⾯排⽔勾配が補強⼟壁ののり肩に向かって下り勾配であったことが原因として考えられる(図2)。

3)に関しては、図2に⽰すように地⼭と盛⼟の境(切盛境)に地下排⽔⼯を設置していた。加えて盛⼟内の排⽔を促す⽔平排⽔材(幅30cm)を2m間隔で敷設していた。しかし⽔平排⽔材の端部と地下排⽔⼯をつなげて施⼯していたため、地⼭からの湧⽔が⽔平排⽔材に流れたことでスレーキングを助⻑したものと考えられた。これは⽔平排⽔材が敷設されていた箇所に付着した粘⼟化した泥岩の状況より判断できる(写真3)。

なお当該補強⼟壁は、壁⾯の変状がさらに進⾏する恐れがあったため、スレーキングの恐れのない材料を⽤いて再構築された。

  • 写真1 スレーキング状況

    写真1 スレーキング状況

  • 写真2 細粒分の壁⾯材からの流出状況<sup>1)</sup>

    写真2 細粒分の壁⾯材からの流出状況1)

図2 地下排⽔⼯および⽔平排⽔材の設置状況図2 地下排⽔⼯および⽔平排⽔材の設置状況

写真3 ⽔平排⽔材敷設位置の補強材に付着した細粒化した粘性⼟<sup>1)</sup>写真3 ⽔平排⽔材敷設位置の補強材に付着した細粒化した粘性⼟1)

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項

新第三紀の泥岩、⾴岩、凝灰岩等にはスレーキングが発⽣しやすい脆弱な岩がある。これらを盛⼟材として⽤いると、本事例のように、時間の経過とともに細粒化して、圧縮沈下を起こして路⾯に⻲裂等の変状が⽣じる場合がある。また強度低下が地震時の盛⼟崩壊を引き起こすことも懸念される。道路⼟⼯-盛⼟⼯指針2)によれば、スレーキング性の岩は、掘削時に⼩粒径になるように砕く、あるいは薄層に敷き均した後に破砕転圧をして空隙を⼩さくする⽅法が推奨されている。また、盛⼟内への表⾯⽔、地下⽔、湧⽔等の浸透を防ぐために、⼗分な排⽔施設を適切に設置することも求められる。加えて補強⼟の設計・施⼯マニュアルが改訂されて以降は、補強領域内の⽔平排⽔層は、地⼭からの湧⽔等を補強領域内に導⽔しないように、切盛境に設置する縦断排⽔溝とは接続してはならない3)ことが⽰されている。

ジオテキスタイルを⽤いた補強⼟の設計・施⼯マニュアル4)にはスレーキング性の材料の扱いについては、岩のスレーキング試験、岩の破砕試験等の⼟質試験を実施し、その適否を判断することが求められている。本事例のように変状が発⽣した場合、修復が困難であることから、スレーキングをおこしやすい材料は利⽤を控えるといった配慮も必要になろう。

参考文献

1)中村洋丈、横⽥聖哉、中澤正典、⻯⽥尚希、辻慎⼀朗:泥岩を⽤いたジオテキスタイル補強⼟壁の変状事例研究、地盤⼯学ジャーナル Vol.8, No.1,pp.35-51, 2013.

2)⽇本道路協会:道路⼟⼯ 盛⼟⼯指針(平成22 年度版)、pp.65-67.

3)⼟⽊研究センター:ジオテキスタイルを⽤いた補強⼟の設計・施⼯マニュアル第⼆回改訂版、pp.308,2013.

4)⼟⽊研究センター:ジオテキスタイルを⽤いた補強⼟の設計・施⼯マニュアル第⼆回改訂版、pp.69-70, 2013.

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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