2)盛土・軟弱地盤
2018/11/29
すべり破壊の原因究明のために既往の設計資料等を精査した。
乱さないサンプリング試料の一軸圧縮強度quから求めた非排水せん断強さ(Su=qu/2)は8~20kN/m2であり、盛土の安定計算(円弧すべり計算法)にも特に問題は見当たらなかった。
しかし、安定計算を見直し、すべり破壊が生じたときの安全率を1として表層粘性土層の粘着力c(=非排水せん断強さ)を逆算してみると、上記の土質試験結果の1/2~1/3程度であると推定された。
さらに、トラブルが発生した地点の表層の粘性土は、液性指数ILが0.8~1.4と高く、土の状態図(図3)1)で評価すると鋭敏な粘土であることが分かった。ここで、液性指数ILとは式(1)で示される値である。
なお、wpは塑性限界、wLは液性限界である(図4参照)。また、鋭敏粘土とは、乱さない土の一軸圧縮強さquと、練り返した土の一軸圧縮強さqurとの比(鋭敏比St=qu/qur)が4~8程度の粘性土のことである。なお、多くの粘土はStの値が2~4の間にあり、Stが8以上は超鋭敏粘土と呼ばれる。
そこで、旧堤体の掘削作業や、工事中の重機やダンプトラックの往来による振動などによって、表層地盤が乱れて、せん断強さが低下し、盛土のすべり破壊が生じたのであろうと判断した。
トラブル対策としては、崩壊箇所の盛土をいったん撤去し、軟弱地盤対策として深さ6m付近までの粘性土層に対してセメント系地盤改良(中層混合処理工法)を実施した(図5)。なお、地盤改良の範囲や改良率は、盛土の安定計算に基づいて適切に設定した。
同様な失敗をしないためには、本事例のような鋭敏な粘性土に対しては、施工手順も考慮したうえで、乱れによる強度低下の懸念がないか等を施工計画の作成段階で検討すべきである。また、周辺の類似工事の情報収集も、トラブル回避に役立つことが多いので積極的に行うことが望ましい。また、盛土の施工時には、動態観測を実施して、沈下と水平変位を測定し安定管理図(松尾・川村の方法等)2)で盛土の安全を確認しながら、状況に応じて盛立速度を適切にコントロールして工事を進める必要がある。
なお、本現場では、トラブル原因の推定結果を踏まえ、工事区間全体の盛土安定性を確認するために追加の土質調査を実施した。調査は、トラブル発生地点と同様に液性指数が高い場所を選定し(すべり破壊が起きた地点とは別の場所で)、乱れの少ない試料を採取し、乱さない試料と練返し試料の一軸圧縮試験を行なって鋭敏比などを確認した。その結果、乱さない試料の非排水せん断強さは設計値と同等であったが、乱した試料では0.2~3kN/m2と乱さない試料の1/4~1/10程度であった。ただし、一軸圧縮試験から求めた鋭敏比はデータ数も限られていたので、設計上のせん断強さの低下率は、前述した安定計算結果や土の状態図(図3)も活用して、過大設計とならないように配慮した。
1)三笠正人:土質試験法(第二回改訂版),6 編 3 章一軸圧縮試験,土質工学会,pp470-492,1979
2)公益社団法人日本道路協会:道路土工-軟弱地盤対策工指針(平成24年度版),平成24年8月
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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