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現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたくよう、実際の施工にあたっての失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考にしてください。

土工事1)切土

冬期施工の切土法面にクラックが発生

2019/02/27

工事の概要とトラブルの内容

北地方北部での道路拡幅工事において、冬期施工中の切土法面(図1)で、小段部のU形排水溝(鉄筋コンクリート製、300B)が設置後に山側に大きく傾いた。そこで、変状調査を実施したところ、小段の部分が大きく盛り上がっていることが分かった(図2)。特に小段の法肩部の盛り上がりが25cmと大きく、小段の下の法面にクラックが発生していることも判明した。なお、切土法面の下部や法尻付近には変状がなく、地すべりの兆候は見当たらなかった。

図1 切土法面の断面図図1 切土法面の断面図

図2 切土法面の小段排水溝の変状等の概要図2 切土法面の小段排水溝の変状等の概要

原因と対処方法

法面の変状調査において、小段付近を踏査し注意深く観察した結果、クラックの開口部などでアイスレンズが確認された。また、切土斜面の地盤は礫混じり砂質土であると考えられていたが、小段付近には凍上を起こしやすい砂質シルトの地層が挟まれていることが分かった(図3参照)。以上より、小段U形排水溝の部分に発生した変状の原因は凍上現象であると判断した。

土の凍上は、地盤中の凍結面(0℃等温面)に土中の水分が移動して凍結し、アイスレンズと呼ばれる氷の層を形成することで発生する。土粒子表面から分離して成長したアイスレンズが土骨格を押し広げることで、地盤が持ち上げられて今回のようなトラブルが発生する。凍上の起こりやすさを土の粒径から判断すると、一般に礫や砂は凍上しないがシルト分を含む土が最も凍上しやすい。また、法面小段のU形排水溝には低温時の寒気が流れ込みやすいため、凍上には注意が必要である。そして、鉄筋コンクリート製のU形排水溝は凍上の影響を直接受けるため、浮き上がり、傾き、段差の発生や、融雪時の沈下などのトラブルが発生しやすくなる。

今回の切土法面の小段付近の凍上によるトラブル対策としては、凍上抑制に効果があるとされる以下の2つの工法を採用した(図3、図4)。

①U形排水溝周囲の土を粗粒材で置換
U形排水溝の埋戻し土とU形排水溝の下の砂質シルト層を、凍上が発生しにくい粗粒材(80mm切り込み砂利)で置換した。

②ふとんかご工
凍上の抑制効果があり施工実績も多い特殊ふとんかご(ドレンかご)1)~3)を斜面に設置した。今回は高さ25cmの特殊ふとんかごを、小段下の法面全体に設置するとともに、小段上の法面にも一段設置した。

なお、特殊ふとんかごとは、かごマット工の一種であるが、かごの形状が鉄線によって直方体にほぼ固定され、かご同士も鉄線で連結し、ずれ止めに長さ1m程度のアンカーピンを地盤に打ち込むものである。現場では、柔軟性に富んだひし形金網をパネル化したものを、幅1m×長さ2m×高さ20~30cmのかご状に組み立てて、金網内に80mm以下の砂利を詰める(図5、図6)。ふとんかごの効果としては、凍上しやすい土を凍上しない材料(砂礫材)に置換することの他に、透水性の高い砂礫材が春先の融雪水等を排水できること、凍結および凍結融解による法面の上下動に追随できること、が挙げられる。

これらの凍上対策工の実施後は、U形排水溝の浮き上がり等も発生せず、法面に変状が出ることもなく、無事に工事を終了することができた。

図3 凍上対策工の概要図3 凍上対策工の概要

図4 小段排水溝に対する凍上対策工図4 小段排水溝に対する凍上対策工

  • 図5 特殊ふとんかごの概要<sup>1)</sup>

    図5 特殊ふとんかごの概要1)

  • 図6 特殊ふとんかご工の例(単位mm)<sup>2)</sup>

    図6 特殊ふとんかご工の例(単位mm)2)

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

斜面等に凍上現象を発生させる要因は、土質、水分、温度の3要素であると言われるので、以下に示すような条件を満たすときには事前に凍上調査を実施すべきである。

まず、凍上性がある土質とは、凍結面付近でアイスレンズが発生し成長できる透水性と保水性を併せ持った土で、一般的にシルト分を多く含む土が最も凍上しやすい。水分については、アイスレンズの成長時に凍結面に供給できる水分が十分にあることが必要条件となる。具体的には、地下水位が高い場合だけでなく、地下水位が低くても保水性が高い地盤条件(シルト、火山灰質粘性土、細粒分質砂、等)の場合や、斜面の法肩などからの水の供給がある場合にも凍上が発生する可能性がある。温度については、地表面温度が0℃を下回る期間が長く続くことが凍上の発生条件である。ただし、地表面温度の下がり方や、地中の熱バランスなどが凍上に影響を及ぼすため、凍上現象を定量的に予測するのは難しい。

なお、寒冷地で凍上現象が起きやすいのは低温で雪が少ない地域で、積雪の多い地域では比較的凍上による被害は少ない傾向にある。これは、積雪は空気をたくさん含んでいるために断熱材の役割を果たして地中温度の低下を抑制するためだと考えられる。しかし、斜面上の積雪深は、斜面勾配や風による影響などを受けるため、平地での積雪深データを利用して想定することは困難である。したがって、積雪の断熱効果を期待した設計を行うことは危険だが、法面勾配を緩くすることで雪が積もりやすくなり凍上抑制効果が得られたという報告もある。

本事例も、切土法面の勾配は、1:1.5と標準よりも緩く、ある程度余裕を見込んだ設計となっていたため、特殊ふとんかごによる凍上対策工を施工する上でも好都合であった。
凍上調査の方法や代表的な凍上対策は、指針等1),2),4)でも紹介されているので参照するとよい。

参考文献

1)日本道路協会:道路土工-切土工・斜面安定工指針(平成21年度版),pp.181~190,2009.6.

2)地盤工学会北海道支部 斜面の凍上被害と対策に関する研究委員会:斜面の凍上被害と対策のガイドライン,2010.3.1.

3)日本じゃかご協会HP:http://jakago.jp

4)日本道路協会:道路土工要綱(平成21年度版),pp.194~232,2009.6.

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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