2)盛土・軟弱地盤
2014/08/28
のり面勾配1:1.8、4段程度の段数で高さ約20mの道路の下部路体の盛土工事を計画した。計画に基づき下部路体の盛土を施工していたが、盛土高さ約14mの時点で小段排水のシールコンクリートにクラックを発見した。動態観測を行いながら引き続き施工を続け、その後変位は認められなかったが、さらに約3m盛土して盛土高さが約17mになったところで盛土天端部の縦断方向に無数のクラック(最大幅40mm、推定深さ50cm、最大長さ15m)が発生した(図1)。また盛土のり面の斜め方向にも数本のクラック(最大幅10mm、推定深さ30cm、最大長さは5m)を確認した。盛土の変状を調査したところ、小段側溝位置で水平方向に最大450mmのはらみ出し、最大245mmの沈下を確認した。さらに小段側溝目地も最大25mm開いていた。また盛土内水位は通常の水位と比べて約3.0m上昇していた。一方で、盛土周辺では隆起等の現象は見られず盛土基礎地盤の変状は認められなかった。
なおクラック発生の前には目立った降雨はなく、降雨が盛土変状の直接的な原因とは考えられない。
当該箇所の盛土の主材料は、細粒分質(砂質土、シルト)であり、事前に行った土質試験結果からは三軸圧縮強度(UU試験)でc=30kN/m2、φ=6°を得ており、一般的にかなりの強度不足と判断される。これは軟弱粘性土の有する強度とほぼ同等であり、圧密による強度増加を考慮しなければ強度的にも小さい。そのため、盛土内の排水に留意して水平排水層(岩ズリ(購入材))を設置し、さらに盛土の変位と盛土内部の間隙水圧を測定しながら細心の注意をはらって観測施工を実施していた。しかしながら、盛土内の水位上昇を防ぐことができず、施工による過剰間隙水圧の上昇が影響した可能性が高いと判断された。
以上のことから、今回の変状発生の原因は盛土内部のすべりと考えられ、すべりが起こった原因は、盛土高さが20mを有した高盛土であることから、自重に対する抵抗力不足および盛土内の過剰間隙水圧上昇による有効応力の減少が原因と考えられた。
対策方法を検討するため、安定解析に必要な土質定数を求めるために追加の土質調査を行い、必要な対策工を検討した。得られた土質定数を用い安定解析を行い、その結果、図2に示すような盛土の排水対策とのり尻部の補強を行うこととした。具体的には盛土内に20m間隔で地下排水工(暗渠φ150mm)を設置し、のり尻部2段の盛土について約100mの区間 を岩ズリ(購入材)に置換え、無事施工を完了した。なお対策後の盛土水位はほぼ一定の水位(通常の水位)に落ち着いている。
今回使用した盛土材は、均等な粒度で粒度分布が悪い土であることから締め固まりにくい。さらに細粒分が多いため一度保水すると水が抜けづらい性質を持つものである。このような材料は盛土材として使用は控えるべきであるが、この事例のように土量配分計画上、使用せざるを得ない場合も多い。このような場合、当然、通常の施工管理に加えて、盛土の変位測定、基礎地盤の地表面変位測定、盛土内の水位観測など、十分な動態観測を行うことが重要である。加えて周辺の既存工事や住民からの情報も収集した上で、場合によっては盛土の試験施工を実施して、施工上の問題点を事前に把握しておくことも有効な手段である。
道路土工 盛土工指針 平成22年度版(p.8)によれば、「高含水比粘性土によって急速施工を行う盛土では、盛土内に過剰間隙水圧が発生し、のり面の変状(はらみ出し)や崩壊を生じることがある。」とあり、火山灰質粘性土(ローム)等の高含水比粘性土の施工について配慮するよう求めている。今回の細粒分質土は、高含水比粘性土には該当しないものの盛土内の過剰間隙水圧発生が盛土の変状につながった事例である。
今回の事例のように通常みられない間隙水圧の上昇の兆候がみられたら、施工を一時中断して、間隙水圧の消散とそれに伴う盛土の強度増加を待ってから施工を再開することが肝要である。
また、もともと強度が高くない地盤材料を用いた盛土では施工後の豪雨や地震により変状をきたす恐れがあるため、観測を継続することも肝要である。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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