2)盛土・軟弱地盤
2017/02/27
2011年3月11日の東日本大震災から約2年後に実施された点検調査によって、補強土壁に比較的大きな変状(壁面のズレや傾き)が発生している箇所が見つかった(図1)。ズレが生じていたのは横方向には壁材2枚分であったが、補強土壁の根元には背面土のこぼれ出し(土のう袋に半分程度)も認められた。補強土壁の背面は被災地の生活用道路として特に支障なく使用されていたが、舗装面の補強土壁側には軽微なひびわれも発生していた。
そこで、改めて詳細な現地調査を行うとともに工事記録も確認して、原因の究明と対策工法の検討を行った。なお、この補強土壁は震災の約3年前に施工されたものであるが、震災直後の目視点検では壁面の変状は観察されていなかった。
現地調査の結果、表面排水の側溝がかなり破損していることが判明した。この地域では広域に渡る多様な地震被害が発生したため、排水溝の補修工事等には手が回らず、適切に対処されないまま約2年間見過ごされていた。また、工事記録等を照査すると、盛土材料の一部にはスレーキングしやすい土が使用されていた。ここでスレーキングとは、新第三紀の泥岩、凝灰岩や頁岩、結晶片岩類などの岩石が乾湿繰返しによって鉱物間の結合力が失われて細粒化し崩壊する現象である。
このような状況から、既往事例(図2)も参考に、補強土壁変状の原因は、地震で側溝が壊れて雨水の排水機能が損なわれ、盛土内へ雨水が流入し続けたことよって土がスレーキングを起こして局所的に圧縮沈下したことが主要因(図2(b))であると推定された。この圧縮沈下に伴う補強土壁のはらみ出しによって補強土壁にズレや傾きが生じたと考えられる。
応急対策として、側溝の破損個所と道路表面のひびわれ等を確実に補修し、盛土内に雨水が侵入しないようにした。補修後3か月間は補強土壁面の水平変位と盛土沈下量(レベル)の測定を週1回実施したが、補強土壁の変位等の進展は観測されなかった。その後も月1回の定期点検を継続したが新たな問題は発生しなかった。なお、震災から5年後に実施された道路の大規模改修工事において、当該補強土壁の壁面変状が大きい部分については、背面盛土を掘り起こし良質な盛土材料を使用して補強土壁が再構築された。
今回の補強土壁の損傷は、地震によって盛土表面の排水設備が機能不全に陥ったことが直接の原因であった。しかし、不適切な盛土材料の使用が今回の不具合を引き起こしたともいえる。
同様のトラブルを避けるためには、盛土材料を適切に選定して締固め度等による施工管理を確実に行うことが大切であり、スレーキングする材料は極力使用しないことが望ましい。やむを得ず使用する場合には、盛土転圧時に岩石を破砕して細かくする等、施工管理・品質管理に十分留意する必要がある。また、表面排水工に落葉やゴミ等が溜まっていないか、目地が割れたり開いたりしていないか、といったチェックを日常点検として実施し適切に維持管理すると共に、地震や豪雨等の後には速やかに点検調査を行うことが肝要である。
なお、2012年の擁壁工指針の改訂1)では、補強土壁がコンクリート擁壁と同レベルに位置づけられ、東日本大震災を含む過去の大地震の教訓およびその他の不具合原因調査を基に内容が見直されている。排水対策の具体例なども示されており(図3)、盛土材料の締固め管理も厳密に実施することが求められている。指針改定に準拠するため、代表的な補強土壁工法のマニュアル類も改訂されて2)~4)、盛土材料の適用範囲なども示されている(表1)。しかし、古い基準で構築された補強土壁も多く存在するため、適切な維持管理が重要であることは言うまでもない。
1. 公益社団法人日本道路協会:道路土工-擁壁工指針(平成24年度版),2012.9
2. 一般財団法人土木研究センター:第2回改訂版 ジオテキスタイルを用いた補強土の設計・施工マニュアル,2013.12
3. 一般財団法人土木研究センター:第4回改訂版 補強土(テールアルメ)壁工法 設計・施工マニュアル,2014.8
4. 一般財団法人土木研究センター:第4版 多数アンカー式補強土壁工法 設計・施工マニュアル,2014.8
5. 一般財団法人土木研究センター:アデムウォール(補強土壁)工法 設計・施工マニュアル,2014.9
6. ジオテキスタイル補強土工法普及委員会:http://www.pwrc.or.jp/fukyuu/geotextile
7. 日本テールアルメ協会:震災における被災度調査報告,http://www.japan-ta.com/tecdoc.html
8. 多数アンカー式補強土壁協会:http://www.multi-anchor.jp/index.html
9. アデムウォール協会:http://www.adeamwall.jp/
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