2)盛土・軟弱地盤
2017/11/29
山岳部の道路工事(幅員8m)で、アスファルト舗装の施工が完了してから約半年後に、舗装面にひび割れ(写真1)が多く発生している区間が見つかった。ひび割れ箇所には目視でも路面の膨れ上がりが確認できた。
そこで、今回の道路工事区間(延長約1km)に対して路面の変状調査を実施した。調査の結果、路面ひび割れの発生は特定の盛土区間(約40m)に集中しており、ひび割れの幅は最大で13mm程度で、主要なひび割れから枝分かれするように細かいひび割れが入っているパターンが多く見られた(図1)。また、ひび割れ発生箇所の膨れ上がり高さは施工完了時の路面から1~4cmであった。なお、道路の側溝や盛土のり面には地滑り性崩壊の兆候を示すような変状は見当たらなかった。
アスファルト路面にひび割れを発生させた盤膨れの原因として、盛土材料の中にベントナイト注1)等の膨潤性の粘土鉱物が含まれていたのではないかと疑われた。そこで、原因究明のため、路面ひび割れの発生位置でコアボーリング(φ66mm、深さ5.0m=鋪装0.4m+盛土2.5m+原地盤2.1m)を実施した(図1)。鋪装部分(アスファルト厚5cm、路盤厚35cm)には特に異常は観察されなかったので、採取した盛土材料と基礎地盤の土に対してX線回折分析を実施した。その結果、盛土材料の中に、スメクタイト注2)を多く含む風化凝灰岩が一部混入していることが判明した。また、盛土区間が谷部で降雨時には水が集まりやすい場所であったこともトラブル発生の要因であった。
対策としては、路面の隆起が発生している区間の盛土材を撤去し、良質な土砂に入れ替えて施工し直した。なお、周辺の原地盤では膨潤性を示す地層が確認されていないため、おそらく他現場から受け入れた建設発生土の中に膨潤性の岩石が混入していたのではないかと考えられた。
比較的小規模な盛土工事であっても、盛土材料の調査、選定には細心の注意を払う必要がある。
道路土工要綱1)や盛土工指針2)では、問題となりやすい岩質として「膨潤性の岩石」が示されており(表1)、ベントナイト、変質の著しい岩、風化の進んだ蛇紋岩、温泉余土等は、盛土完成後の圧縮性・膨張性が大きいため、そのまま盛土材としては使用せずに土質改良などの対策を検討すべきであると述べられている。ただし、施工中の現場で膨潤土を見分けるのは意外と難しい。たとえば、新第三紀層の泥岩、頁岩、凝灰岩等には、モンモリナイトを含んでいても膨潤ではなくスレーキング現象注3)が生じる脆弱岩もある。スレーキング性の材料であれば、細かく破砕して空隙が少なくなるように転圧する等、施工方法を適切に検討すれば盛土材料として使用することも可能であるとされている2)。したがって、「特に注意の必要な盛土材料」については、その特性に応じた適切な土質試験を実施する等、特に慎重に調査を行う必要がある。
なお、道路面等に盤膨れのトラブルが生じる原因としては、以下のような例もあるので参考にされたい。
注1)ベントナイトとは、粘土鉱物モンモリロナイトを主成分とする粘土の一種で、水を吸着して膨潤する性質を持つ。モンモリロナイトの含有量を調べる試験としては、日本ベントナイト工業会(現在は解散)が定めたメチレンブルー吸着量測定方法(JBAS-107-91)がある(図2)。モンモリロナイト等の粘土鉱物がメチレンブルー(MB)を吸着することを利用したものであるが、測定手順に曖昧な部分もあり試験者による差が生じやすいとも言われている。また、膨潤性を評価する試験としては、地盤工学会が提案している膨潤圧試験4)(図3)があるが、試験装置の違いなどによって試験結果にばらつきが生じると言われている5)。
注2)スメクタイトとは、水を吸って膨潤する粘土鉱物の総称で、モンモリナイトやサポナイト等がある。
注3)スレーキングとは、軟岩等が乾燥、吸水を繰り返すことによって細かくばらばらに崩壊する現象をいう。膨潤と反対の過程が進行し、不同沈下の原因となり得る。なお、スレーキングを起こしやすい岩にはモンモリロナイトなどの膨潤性を有する粘土鉱物が含まれていることが多いと言われている。
1) 日本道路協会:道路土工要綱(平成21年度版),p.51,2009
2) 日本道路協会:道路土工-盛土工指針(平成22年度版),pp.53~67,2010
3) 鐵鋼スラグ協会:鉄鋼スラグ製品のご紹介/道路用,
http://www.slg.jp/slag/product/road.html (2017.11.8閲覧)
4) 地盤工学会:岩石の吸水膨張試験(JGS2121-2009),地盤材料試験の方法と解説,pp.271~284,1989
5) 田中幸久:ベントナイトの吸水膨潤モデルによる膨潤圧試験における試験条件の影響評価,土木学会論文集C(地圏工学),Vol. 67,No. 4,pp. 513~531,2011
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