4)山留め他
2018/02/27
建建築工事において、基礎地中梁部分の掘削中に基礎杭の杭頭周辺からガスが漏出した(図1)。ガスが勢いよく漏出したのは掘削直後の一時的な現象であったが、杭頭周囲の砂が高さ50cmぐらいまで噴出したので、バックホウの運転手が気付いて元請の監督員に報告した。
掘削工事を中断してガス検知器によって杭頭周囲を測定した結果、杭外周部からメタンガス(CH4)の漏出が認められ、無風状態だと空気中のガス濃度が2~4%であった。
基礎杭は、直径φ600mm、杭長22mのPHC杭で、杭周固定液を使用しないプレボーリング先端根固め工法で施工された。地盤はGL-11mまでがN値2~15の砂層で地下水位がGL-3m付近にあり、GL-11m~-16mがN値2~6の粘性土、GL-16m~-22.5mまではN値5~10のシルト質砂で、その下の支持層はN値≧50の軟岩である(図2)。
杭外周部から漏出したメタンガスは地中に存在した天然ガスで、プレボーリング工法によって乱された土の間隙を通って地表に出てきたと考えられた。たとえば、関東地方では上総層群(かずさそうぐん)と呼ばれる海成堆積層(砂岩、泥岩等)には天然ガスが存在するところが多く確認されている1),2)。この上総層群の天然ガスが透水層や断層等を通って上昇した場合、本工事のような地層構成だと粘性土層に上昇を阻まれ、その下面の砂質土層にガスが滞留することになる(図3)。そこに杭を打ち込んで隙間ができれば、ガスが地表に漏出する1)。
メタンガスは無色、無臭、無毒で、空気より軽いため大気中に拡散しやすいが、可燃性なので火災の発生等に十分に注意する必要がある。しかも空気中の濃度が約5%~15%で火源があると爆発する危険がある。今回はメタンガスの濃度も低かったこともあり、以下のような対策を実施して工事を継続した。
・掘削工事中は監視員を付け、ガスの漏出が認められればガス検知器で測定を行う。
・火気使用を抑制するとともに、メタンガスの濃度が5%を超える場合には送風を行う。
・掘削後の均しコンクリートの施工では、杭周囲に隙間ができないように留意する。
・杭頭鉄筋の溶接作業等、火気を使用する場合には、必ず事前にガス検知器でガスの有無を確認し、必要に応じて送風等の対策を講じる。
これらの対策を行った結果、火災等のトラブルも発生することなく無事に工事を完了することができた。なお、最初のガス漏出以降、他の杭ではほとんどガスの漏出がなかったが、念のために地下構造物周辺のガス滞留防止対策(ガス抜き管の設置)を行った。また、施主に対しては、竣工後も定期的に施設内の天然ガス濃度の計測を行うよう提案した。
今回の事例では、メタンガスの漏出量も少なかったので比較的簡易な対策で対処できた。しかし、地質調査のボーリング中にメタンガスと共に多量の土砂が数mも噴出した事例3)や、漏出ガスによる大きな火災事故等も報告されている4)。また、中掘り杭工法の施工時に杭の中空部を通ってガスが漏出した事例や、継ぎ杭の溶接作業時にメタンガスに引火するトラブルも発生している。したがって、ガス漏出が予想される地域では建物の設計段階から検討・準備することが望まれる。
杭の施工方法では,杭周固定液等を使用する工法であれば,杭周囲が固められるため本事例のような心配は比較的少なくなる。場所打ちコンクリート杭も同様である。また、既成杭の継ぎ手溶接は、送風等を行いながら施工することも可能ではあるが、火気の使用を抑えるためには、機械式継ぎ手の採用等も検討すべきである。
なお、天然ガスの漏出に関しては、位置が少し異なれば漏出量も異なり、気圧によっても変動し、時間とともに変化することもある。したがって、事前調査結果を過度に信頼することなく、施工中はガスの測定を継続して、必要に応じて設計を見直すことも必要であろう。
1)施設整備・管理のための天然ガス対策ガイドブック,営繕工事における天然ガス対応のための関係官公庁連絡会議編, 2007.3.1,http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000616915.pdf
2)東京都地質調査業協会:技術ノート(No.47)特集:東京の天然(地中)ガス,2014.11,
http://www.tokyo-geo.or.jp/tech-note-pdf/No47.pdf
3)稲垣太浩ほか:高速道路盛土による洪積粘性土層の圧密沈下,第5回地質リスクマネジメント事例研究発表会講演論文集,地質リスク学会,pp.106-110,2014.10.31
4)たとえば、「ボーリング現場で発生した天然ガス火災」,近代消防,pp.65-67,2014.5
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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