4)山留め他
2017/08/30
陥没箇所はすぐに山砂で埋め戻して十分に締め固めるとともに、他には地盤沈下等が生じている箇所がないことを確認した。そして、今後の対策を検討するため、アンカー施工業者から施工時の状況等を詳しく聞き取り調査した。その結果、2段目のアンカー削孔中に口元からの地下水流出量がかなり多くな ったということが分かった。このことより、地下水位がアンカーの口元よりも高いため、地下水と一緒に土砂が吸い出されて地盤が緩み、地表面の陥没に至ったものと考えられた。
対策として、アンカー施工時の口元管に「止水ボックス」を設置してアンカー削孔時の止水性を高めた(図2)。口元管はソイルセメント壁に貫入させて設置し、止水ボックスは削孔作業中にケーシングと山留め壁の隙間から地下水が流出するのを防止するために取り付けた。削孔時は、ゴムパッキンによってケーシングとの隙間を塞ぎ、吐出口のバルブの開閉状態を調整することで、地下水や土砂の過剰な流出を抑えて施工することができる。テンドン(アンカー体)の挿入後は、ケーシングを引き抜く時にシャッター板を押し込んで止水し、地下水や土砂の流出を一時的に止めた。
そして、止水ボックスを取外し、テンドンを挿入した後は、「口元パッカー」を設置して止水を行うともに、「フリーパッカー」を設置してアンカー定着部のグラウト材が漏出するのを防止した(図3)。口元パッカーおよびフリーパッカーはドーナツ状の袋体で、注入ホースでセメントミルクを圧入して膨らませることで止水性およびグラウトの充填性を高めることができる。なお、口元パッカーは、口元の閉塞のためにテンドンの挿入後に設置する。フリーパッカーは、地下水によるグラウト材の漏出防止対策を主目的に、テンドン挿入時にアンカー定着部上部に固定して設置する。
これらの対策を実施した後は、地下水の噴出も抑えられ、新たな陥没が発生することもなく無事にアンカーの施工を完了することができた。
山留め支保工にグラウンドアンカーを使用する場合、砂地盤で地下水位が高いと山留め掘削に伴って地下水が噴出する可能性が高くなるので注意が必要である。孔壁とケーシングの隙間を地下水が流れると孔壁の土砂が侵食されて孔壁崩壊が発生することもありうる。また、ケーシングの継足しや引抜き時に地下水や土砂がケーシング内を逆流することもある。これらの対策としては、二重管ケーシングの利用や、逆止弁のついた削孔ビットを使用することなどが考えられる。ただし、対策工の効果については不確定要素も多いため、同種の工事例の情報を収集するなど、地盤条件や施工条件に応じて十分に事前検討することが必要である。できれば、地下水位低下工法の併用も含めた複数の対策工を準備しておき、有効な対策を見極めながら組合せて用いることが望ましい。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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