4)山留め他
2017/05/30
掘削に伴い湧水量が増加した原因としては、以下のような理由により、ソイルセメント山留め壁の施工不良箇所からの漏水が疑われた。
①ソイルセメント山留め壁は透水性の低い比較的固結したシルト層に根入れされており、掘削深さも浅い現状で、山留め壁を回り込んで地下水が多量に湧出するとは考えにくい。
②現場は河川からも近く、周辺は傾斜のある地形であることから、山留め壁の中間深さの砂礫層には多量の地下水が供給され伏流水が存在している可能性がある。そして、伏流水の流速が大きいと、ソイルセメント山留め壁の施工中(セメントスラリーの混合撹拌中)にセメント分が流出して欠陥が発生する可能性が高くなる(図2)。また、伏流水のある砂礫層では山留め壁施工中に溝壁崩壊が起こりやい。
これらを確認するために、まず周辺の類似工事例などを詳しく調べてみた。その結果、地下水の流向・流速調査を行った工事の報文が見つかり、問題の砂礫層にはやはり伏流水が存在するという情報を得ることができた。そこで、ソイルセメント壁体のオールコアボーリングを4本(伏流水の上流側の壁、下流側の壁、および左右の壁から各1本ずつ)実施し品質調査を行った(図3)。
伏流水上流側の山留め壁の砂礫層深さから採取されたコア試料は、固化が不十分な部分を多く含んでおり、フェノールフタレイン溶液を噴霧した時の呈色反応からも他の深度の試料と比べてセメント分がかなり少ないことが分かった。
これらの調査結果より、山留め壁の漏水対策としては、伏流水上流側の山留め壁の外周部に薬液注入を実施した(図4)。薬液注入工の完了後、山留め掘削を再開したところ、漏水量も大幅に減少し、無事に工事を完了することができた。
今回のトラブルは、伏流水の存在する砂礫層におけるソイルセメント山留め壁の造成不良が原因で、一歩間違えれば大きな出水事故につながる可能性もあった。
山留め工事では地下水に起因するトラブルが多い。今回の事例のように、山裾などでは伏流水の通り道になっている砂礫層が存在することが多いので特に注意が必要である。ただし、地下水の流向・流速測定などを設計段階で実施することは少ないので、周辺の地盤の情報や工事記録などを事前に調べて確認しておくことが望ましい。伏流水によってソイルセメント山留め壁の確実な造成が困難と懸念される場合には施工方法等について十分に検討する必要がある。
参考までに、中掘り杭工法のセメントミルク噴出攪拌方式の施工要領1)では、支持層の地下水流速が2~3m/min 程度を超える場合には、根固め部の確実な施工は困難であるとしている。また、セメントミルクが流出するかどうかの判断材料として、地下水流の流速0.8m/minを一つの目安値として示した例もある2),3)。なお、地下水流の流速が0.8m/min を超える場合でも、セメントミルクに増粘剤を加えて対処した事例もあるが、セメントミルクの圧送抵抗やソイルセメントの撹拌混合性および強度等に関して検討する必要がある。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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