4)山留め他
2016/08/30
ある施設建設工事の山留め掘削(図1)において、1次掘削の途中で山留め壁の変形が弾塑性法による計算値よりもかなり大きくなっているのに気付いた。山留め壁の変位計測によると、現在の掘削面より下(GL-3m~-7.5m)の変位が進行しており、既に最大約15mmの変形が発生していた(図2)。切梁軸力も大きな値を示しており、山留め壁内側の地盤(受働側)の抵抗力が設計値に比べてかなり小さいのではないかと考えられた。このまま掘り進めれば山留め壁の過大な変形によって周辺の地盤沈下が発生する等の重大トラブルにつながることが懸念されたため、工事を中断せざるを得なかった。
なお、本工事では図1、図2に示すように山留め掘削に先行して基礎杭(場所打ち杭φ1m×長さ15m)が施工されていた。
原因究明のため、まず掘削時の状況をバックホウのオペレータ等に確認すると、場所打ち杭の空掘り部の埋戻し土が、原地盤に比べて軟弱であったということが判明した。
深さ約7.5mまでの基礎杭の空掘り部は、杭コンクリート打設後に良質な山砂で適切に埋戻すという施工手順になっていた。しかし現実には、杭孔を満たしている泥水(場所打ち杭の掘削安定液)の中に土砂を投入するため、埋戻し部分は緩んだ状態になりやすい。また、土砂の投入時に孔壁崩壊が発生すれば周辺地盤に緩みが生じることも考えられる。そこで、ポータブルコーン貫入試験機を用いて、杭孔埋戻し部の地盤強度を確認した。その結果、コーン指数が200kN/m2未満の土(泥土に区分されるような土)がかなり混在している状態であった。
以上の調査結果より、初期掘削の段階から土留め壁に過大な変形が発生した原因は、場所打ち杭空掘り部の埋戻し不良によって地盤が緩み、地盤抵抗が設計値よりも低下したためであると判断した。
対策としては、まず現状の山留め変形量に計算値が合うように地盤パラメーターを見直した上で、設計計算をやり直した。そして再計算した結果に基づき、2段目の切梁等のサイズを1ランク上げて、切梁プレロード荷重を増やすことで対応した。これらの対策を講じた後は、過大な変形の発生も抑えられて、床付け掘削まで無事に施工することができた。
空掘り部を有する杭の施工では、杭孔埋戻しの施工管理、品質管理を慎重に行う必要がある。工事監理者は、杭孔の埋戻しについても施工業者任せにすることなく、杭の支持層確認等と同様にきちんと立会って施工管理記録をしっかりと残しておくことが肝要である。
なお、杭孔埋戻し部の品質としては、一般に「原地盤と同等程度の強度を有すること」が求められる。しかし、前述したように均質な埋戻しを行うことは現実には難しい。本事例のような工事では、リスク管理の観点からも、ある程度余裕を持った山留め支保工を計画することが望ましい。
近年、既設構造物の解体撤去に伴って既存杭を撤去して埋め戻す工事(図3)も増えているが、その場合も本事例と同様に埋戻し部の施工には十分留意する必要がある1)。また、原地盤と同等程度の強度を確保するために流動化処理土2)を用いることもあるが、固化不良等による不具合事例も報告されているので1)、それらも参考にして施工リスクの低減に努めるとよい。
1) 崎浜博史,宮田勝利,川幡栄治:既存杭と干渉する位置における場所打ちコンクリート杭施工の留意点,基礎工,vol.44,No.3,総合土木研究所,pp.33~36
2) 流動化処理土利用技術マニュアル(平成19年,第2版),土木研究所・流動化処理工法総合監理編,技報堂出版,2008
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