4)山留め他
2016/11/29
出水原因としては、山留め壁の品質不良(欠損)の他に、山留め壁の根入れ不足(土丹層の不陸、想定外の透水層の存在等)が考えられた。そこで、必要に応じて止水対策の薬液注入工法が施工できるように段取りした上で、合計7本のボーリング調査(No.5~No.11)を実施した。その結果、設計時点のボーリング調査(敷地四隅のNo.1~No.4)では土丹層はほぼ水平であると判断していたが、実は敷地南側では土丹層に凹状の不陸があることが確認された(図3)。また、オールコアサンプリングした土丹には薄い砂層が挟在していて亀裂も多く存在することが分かった。出水の原因は、これらの要因によって山留め壁に沿ったパイピング現象が発生したためであると推測された(図4)。
対策工としては、まず南側山留め壁の外側で実施したボーリング孔No.6を利用して、水ガラス系の薬液注入を行った。そして、ボーリング孔No.6の両側に2m間隔で1本ずつ薬液注入工を追加した。(2mピッチで合計3本の薬液注入を施工した。)
今回の出水トラブルは、山留め壁根入れ部の土丹層に想定外の不陸が存在したことが原因であった。 近年、支持層傾斜の見落としによる基礎杭の支持力不足が社会問題化したこともあり、事前に複数のボーリング土質調査を行う事例も増えてきている。しかし、施工段階で局所的に傾斜角が45°を超えるような地層の不陸が見つかることもあり、敷地の四隅で調査を実施したからといって安心してはならない。標準貫入試験の調査不足を補うために、比較的安価でありながら支持層確認ができる動的コーン貫入試験(JIS化に向けた作業中)等のサウンディングを追加で実施することも考えられる。なお、周辺の工事記録等も施工前に調査しておくことが望ましい。
そして、山留め壁の施工時には地層の変化等を見落とさないよう細心の注意を払うことが大切である。具体的には、掘削機の施工管理データ(回転トルクや電流値等)や排土の性状、そして施工時の異常(たとえば転石や地中障害物によると思われる音、衝撃、振動等)の発生位置は克明に記録しておく。
土丹層については、難透水性層として扱われることもあるが、亀裂、挟在砂層、被圧地下水の存在が確認されることもあるので掘削工事では注意する必要がある。
止水対策として用いた薬液注入工法では、注入圧の設定に留意する。通常のグラウト工事等ではかなり高い圧力(例えば1 MPa≒10 kgf/cm2程度)で薬液注入が行われるが、それではかえって「みずみち」が拡がって漏水がひどくなることもある。うまく止水できたとしても、山留め壁に過大な圧力がかかり、場合によっては切梁の座屈を招きかねない。山留め壁の漏水対策としての注入圧力は、その深度での注入が可能となる圧力+0.2 MPa(≒2 kgf/cm2)程度がよいといわれているが、できれば計測管理も行いながら、現場状況に応じて適切な圧力を設定すべきである。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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