現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

1)オールケーシング

2024/08/01

軟弱地盤における杭頭不具合

工事の概要とトラブルの内容

梁下部工の工事において、全周回転式オールケーシング工法による場所打ち杭を施工した。場所打ち杭は杭径φ1,200mm、掘削長ℓ=15.0m、杭長L=12.0m、橋脚1基あたり20本(橋軸方向4列×横断方向5列)の施工を行った。
橋台の施工範囲の地層は、GL0.0~-2.5m:埋土層(N=2~4)、GL-2.5~-5.5m:有機質シルト層(N=1~3)、GL-5.5~-11.0m:シルト・砂質シルト層(N=2~8)、GL-11.0~-14.0m:細砂(N=23~36)、GL-14.0m~:固結シルト(N=60~180)で構成され、地下水位はGL-1.0mである。
 場所打ち杭の施工完了後、橋台の床付面(GL-3.4m)まで掘削し、杭の出来形を測定した結果、20本のうち10本で杭頭部の出来形が設計杭径φ1,200mmに対して20~80mm不足していることが判明した(図-1)。

図-1 場所打ち杭の杭径不足発生の概要図図-1 場所打ち杭の杭径不足発生の概要図

杭径不足の発生原因を特定するため、施工範囲の地層構成、場所打ち杭の外観・出来形および強度確認、鉄筋かごの配筋およびコンクリートの施工記録、杭施工時の状況について調査を行った。

(1)地層構成

杭径不足の発生原因が地層構成にあると考えられたため、構造物の床付以深のシルト層まで掘削して杭径を確認した。その結果、杭径不足の発生は有機質シルト層の範囲に集中し、有機質シルト層以深のシルト・砂質シルト層では杭径φ1,200mmが確保されていた。

(2)杭の外観検査・強度確認

杭径不足の発生範囲において、場所打ち杭の外観検査を行った結果、コンクリートの充填不足は確認されず、仕上り状況は良好であった。調査時点で全ての杭が打設完了から28日以上経過していたため、杭表面のコンクリート強度をテストハンマーにより、杭1本あたり25箇所で測定した結果、全ての測定値が設計基準強度30N/mm2を満たしていることが確認された。

(3)場所打ち杭の鉄筋かご

鉄筋かごは一重配筋、軸方向鉄筋はD35@125.6mm、鉄筋のあきは125.6mm-35mm=90.6mmとなっており、「道路橋示方書・同解説 IV下部構造編」1)に示された鉄筋の純間隔(あき)の最小値である鉄筋径の2倍(35mm×2=70mm)は確保されていた1)2)が、鉄筋かごの外側へのコンクリート充填のために確保することが望ましいとされている100mm3)は下回っていた(図-2)。

図-2 鉄筋かごの配筋と杭頭断面図図-2 鉄筋かごの配筋と杭頭断面図

(4)コンクリートの施工記録

場所打ち杭のコンクリート打設記録を確認すると、コンクリートのスランプ18cmに対し、全てのコンクリートがスランプの品質管理基準4)である±2.5cm以内であり、+0〜1.5cmの18~19.5cmで打設されていた。

杭のコンクリートの余盛は設計の50cmに対し、コンクリートの充填性を考慮して鉄筋かご天端までコンクリートを打設し、余盛は2.0mとしていた。

杭長がL=12.0mであり、コンクリートは練混ぜから1時間程度で打設が完了していため、コンクリートの流動性は打設完了まで確保されているものと考えられた。

(5)施工状況

場所打ち杭は、敷鉄板を1枚設置して施工基面を補強し、全周回転掘削機および80tクローラクレーンを使用して施工されていた。

原因と対処方法

(1)原因

調査結果により、杭径不足の発生原因は、鉄筋かごのあき、軟弱層を含む地層構成と施工機械の上載荷重によるものと考えられた。

ファーストケーシング(φ1,180mm)の先端にはフリクションカッター(t=10mm)が設置され、フリクションカッターの周囲でφ1,200mmとなっている。打設したコンクリートは十分な流動性が確保され、余盛も十分に行っていたが、鉄筋かごの軸方向鉄筋のあきが100mm以下であったため、流動性が阻害されて充填に時間がかかる状況であった。

また、ケーシングには地盤の土圧に加えて全周回転掘削機(約30t)・クローラクレーン(約80t)の自重による土圧が作用し、コンクリートの自重による杭内部からの圧力より大きな土圧が生じている状況であった。

このため、コンクリート打設後にケーシングを引抜いた際、ファーストケーシングの板厚部(t=45mm)に相当する空隙部にコンクリートが充填されるより早く周囲の軟弱な有機質シルトが入り込んだため、杭径が細くなったと考えられる(図-3)。

図-3 杭径不足の発生原因図-3 杭径不足の発生原因

(2)対処方法

場所打ち杭径の出来形管理基準は設計値-30mm4)であり、杭径φ1,200mmの場合、1,170mm以上であれば管理基準を満たす。このため、杭径1,170mm未満の杭を対象として補修を実施した。

前述のように杭のコンクリートは十分強度が発現しているため、サンドブラストにより杭のコンクリート表面の下地処理を行ってポリマーセメントによる断面修復を行い、所定の杭径を確保した。

杭径確認のために掘削した床付以深の有機質シルト層は、構造物床付まで切込砕石により置換を行い、復旧を行った。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

ケーシング引抜き時、コンクリートの自重により発生する内部圧力は、杭上部では杭下部に比べてケーシング内のコンクリート量が少なくなるため、低下する。このため、杭頭付近に軟弱層を含む地盤上で場所打ち杭を施工する場合、施工基面を補強して施工機械の自重による土圧の軽減が必要である。施工ヤードの浅層混合改良や良質土による置換、敷き鉄板の2枚敷き等により支持力を増加させて荷重分散を図る対策が考えられる。

また、鉄筋かごにおいては、軸方向鉄筋のあきを100mm以上の寸法を確保する対策があげられる。鉄筋量が多くあきの確保が困難な場合は、束ね筋(2本の軸方向鉄筋を束ねて配筋し、あきを広げる)の検討や、鉄筋径を太くして鉄筋本数を減らす等の対策が考えられる5)

コンクリートの確実な充填のため、スランプは18~21cmとして可能な限り大きくし、余盛を十分に確保してコンクリートの内圧を増加させ、ケーシング引き抜き時に周囲の軟弱層が入り込むより早くコンクリートを充填できるようにするのも有効な対策である。

参考文献

1)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 IV下部構造編 (平成29年11月)

2)日本道路協会:杭基礎設計便覧 令和2年度改訂版

3)地盤工学会:杭基礎のトラブルとその対策(第一回改訂版)2014年11月

4)国土交通省:土木工事施工管理基準及び規格値(平成29年4月)

5) (一社)日本建設業連合会 地盤基礎専門部会 場所打ちコンクリート杭の品質管理の現状と課題WG:場所打ちコンクリート杭の品質管理のポイント(平成29年6月)

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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