現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

基礎工事

基礎工事

4)新工法・その他

2025/02/03

ニューマチックケーソンの不同沈下

工事の概要とトラブルの内容

梁下部工の工事において、橋脚のニューマチックケーソンを施工した。ケーソンの仕様は直径12.0mの円形、高さH=5.0m(刃口部H1=2.3m、天井部H2=2.7m)である。施工範囲の地層は、GL0.0m~-5.0m:シルト質砂(N=3~7)、GL-5.0m~-12.0m:砂(N=13~20)で構成され、地下水位はGL-3.0mであった。ケーソンの周囲は鋼矢板(L=8.0m)で仮締切を行い、仮締切内をGL-2.0mまで掘削して施工基面とした(図-1)。

GL0.0m~-5.0mのシルト質砂はN値が低く、ケーソン沈設の初期段階で過沈下の発生が懸念されたため、対策として施工基面(GL-2.0m)から地下水位(GL-3.0m)までのシルト質砂層を砕石で置換(t=1.0m)を行った。

ケーソン躯体の構築後、土砂セントルを掘削し艤装工および函内天井走行掘削機の設置完了後、作業室内の地山を掘削してケーソンの沈設を開始した。

沈設開始直後から、ケーソンのR側に比べてL側の沈降が遅れぎみであったため、ケーソンを水平に戻すためにL側の掘削を先行して沈降させた。この掘削により、ケーソンの傾斜が修正されて水平に戻った。再びL側の掘削を開始すると、施工基面から2.0mの深さで過沈下が発生し、ケーソンに約60cm(1/20)の傾斜が発生した (図-2)。

図-1 ケーソン概要図図-1 ケーソン概要図

図-2 過沈下の発生状況図-2 過沈下の発生状況

原因と対処方法

施工前のボーリング調査により、ケーソンの施工基面からGL-5.0mまでに軟弱なシルト質砂層の存在が事前に確認されていたため、過沈下対策として厚さt=1.0mの砕石置換を行っていたが、この軟弱層で沈設している段階で過沈下が発生した。

シルト質砂層におけるN値は3~7の間でばらつきがあり、N値が低い範囲ではケーソンの刃先部抵抗が小さく、過沈下が発生したと考えられる。

ケーソンの傾斜を修正する対策として、外部足場の一部を解体してボーリングマシンを設置し、薬液注入による地盤改良を行って刃先部直下の軟弱層の地耐力および刃先部抵抗を向上させた。また、ケーソン沈設時の傾斜の抑制および過沈下を防止するため、L側に鋼材を井桁状に組んだサンドルを設置し、ケーソンを支持する受圧面積を増加させてケーソンの安定を図った(図-3)。

薬液注入の完了後、R側を25cmずつ掘削して徐々にケーソンの傾斜を修正し、水平となった段階で沈設を再開した。

薬液注入の効果により、ケーソンの刃先部の地耐力を向上させるとともに、サンドルによりケーソンの沈下を防ぐことで、その後はケーソンの安定を確保した状態で沈設を行うことができた。

図-3 薬液注入・サンドル設置による対策図-3 薬液注入・サンドル設置による対策

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

ケーソンの沈下の関係は、以下の式で表される。

Wc+Ww>Rc+F+U

Wc:ケーソン本体の重量(kN)

Ww:ケーソンに載荷する水や土砂などの荷重(kN)

Rc:ケーソンの刃先抵抗力(kN)

F:ケーソン周面の摩擦摩擦力(kN)

U:作業気圧による揚圧力(kN)

ニューマチックケーソンの施工計画では、上記の式より沈下関係図を作成するが、沈設の初期段階は、ケーソン自重Wcが刃先部抵抗Rcに比べて大きく、揚圧力Uおよび周面摩擦抵抗Fがゼロに近い状態であるため、刃口部の土砂を掘り残し、その部分でケーソン重量を支持しながら沈下させる。掘り残し幅は沈下荷重と地山の支持力との関係から決定されるが、掘り残し幅以外の部分(開口部)は掘削作業を行うため、開口率は一般的に50%程度以上を確保する必要がある1)。言い換えると、開口率が50%程度以上確保できる地盤の支持力が必要である。

ケーソンを沈設する地盤において、地層構成のばらつきや傾斜により、地山の支持力が不均一な場合、ケーソンの傾斜や過沈下が生じる原因となる。今回のケースでは、砕石置換層の下の軟弱層において、過沈下が発生したケーソンL側の地山の支持力が不足していたことが原因と考えられた。

また、道路橋示方書では、「掘削及び沈設中のケーソンの移動、傾斜及び急激な沈下は地盤の破壊、地層の傾斜、偏土圧等が原因になって生じることが多い」とされており2)、この事例では「地盤の破壊」が該当すると考えられる。

このため、軟弱層によってケーソンの過沈下が懸念される場合、事前に砂・砕石置換等により地盤の支持力を増加させる等の対策を検討する。

また、刃先部抵抗を増加させるため、刃口に脱着式の付け刃口を設置する方法や、角材を井桁状に組んだサンドルを設置して受圧面積を増加させる方法がある。

ケーソンの沈設時、1サイクルの掘削深さを30cm以下として全体のバランスをとり、沈下計や傾斜計の計測値を常時確認してケーソンの移動や傾斜、回転及び急激な沈下が生じないように施工することが必要である。

参考文献

1) 日本圧気技術協会:大型・大深度地下構造物ケーソン設計マニュアル(令和4年5月)

2) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説 IV下部構造編 (平成29年11月)

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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