現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

コンクリート工事

コンクリート工事

1)打設中(コンクリートの特性とクラック)

2025/04/01

鋼板巻立て工法で施工した補強鋼板の一部に発生した浮きへの対応

工事の概要とトラブルの内容

筋コンクリート製の道路橋橋脚の耐震補強(曲げ補強)として、鋼板巻立て補強工事を実施した。

鋼板巻立てによる曲げ補強は、橋脚躯体を鋼板で巻き立て、エポキシ樹脂や無収縮モルタル等により一体化させるとともに、アンカー筋を通じて鋼板をフーチングに定着させる。この補強工法では、図-1のように、鋼板によって軸方向鉄筋の段落し部を補強するとともに、橋脚の曲げ耐力とじん性の両者の向上を図っている1)。また、この補強工法には、アンカー筋による鋼板のフーチングへの定着による曲げ耐力の向上、鋼板下端とフーチング上面の間に間隙を設けることによるじん性向上、鋼板下端に取り付ける形鋼による拘束補強などの特徴がある。

図-1 橋脚の鋼板巻立て補強(曲げ補強)の概念1),2)図-1 橋脚の鋼板巻立て補強(曲げ補強)の概念1),2)

今回報告する橋脚は矩形断面で、2.4m×2.4m×8.0m(高さ)であった。補強鋼板は厚さ6mmで、橋脚側面に対して30mmの離隔で設置された。鋼板は、500mmピッチで設置された固定アンカーとボルトにより橋脚に固定されている。

橋脚と鋼板との離隔には流動性の高いモルタル(無収縮グラウト材)を注入して、躯体と補強鋼板を一体化した。注入はポンプによる下方からの圧入による打上げ方式とし、高さ2m毎に設けた注入孔から順次注入した。

施工時期は3月で、モルタルの品質は問題なく(J14ロート値:6±2秒)、注入作業は施工手順どおりに実施され、注入途中にも打音により充填を確認しており、問題なく終了した。しかし、約2か月後に打音検査にて補強鋼板の状況を確認したところ、全体の1割程度の範囲に空隙音(浮き)が確認された。ただし、施工時に充填されていることは確認されており、未充填ではない。なお、空隙音(浮き)の分布には特徴的な傾向はなく、高さ方向や断面方向の様々な位置に確認され、固定ボルトを含む範囲にも確認されていた。

原因と対処方法

耐震補強工事の施工は道路を供用しながら実施されており、また施工後は気温の変化(日射の影響や昼夜の気温差)が激しかったこともあり、この浮きの原因は、モルタル注入後の道路交通による微振動の影響、および気温変化による鋼板の伸縮の影響によるものと考えられた。ただし、この原因分析に関して、これらの原因の影響程度は不明確であり、これらを列記したうえで複合的に作用したと考えるのが妥当と考えられた。

過去にも同様の現象が現場で確認されており、鋼板と無収縮モルタルの間に剥離が生じる主な原因は、施工時の交通振動による要因と施工後の温度変化や乾燥収縮による要因が考えられる、とされている3)。そして、このような鋼板と無収縮モルタル間の剥離を長期にわたって完全に防止するように管理することは困難とされているものの、このような剥離は剥離幅としてはわずかなものと考えられ、あくまで力学的な付着が確保できていないだけの状態と考えることができる。一般に、“肌すき”と表現されるような状態と考えられる。

さらに、図-2~3に示す既往の実験データ4)によると、供試体No.3,4(橋脚の上・下半分の面積が剥離しているケース)の曲げ載荷試験の結果が示すように、半分の面積が剥離していても全面付着(No.0の完全補強のケース)と同等の曲げ耐力および変形性能を発揮している。これを踏まえて、鋼板の浮きが全体の50%以下であれば耐震設計上は支障がない、との考えが示されている3)。もちろん、剥離(肌すき)がなるべく生じないことが望ましく、施工時においては確実に注入モルタルが充填されるように、十分に施工管理をする必要があるのは言うまでもない。

図-2 実験における鋼板の剥離条件3),4)図-2 実験における鋼板の剥離条件3),4)

図-3 橋脚基部の曲げモーメント-水平変位の関係3),4)図-3 橋脚基部の曲げモーメント-水平変位の関係3),4)

この状況について発注者と協議し、この耐震補強工事においては浮きの面積が全体の1割程度であったことから、浮き部に対する再注入等の処置は不要と判断された。

ただし、補強鋼板の上端から雨水等が浸入することによる鋼板の腐食が懸念された。そこで、本工事ではウレタン樹脂による端部シールが実施されていたものの、端部シールが確実に実施されていることを再確認するよう指示された。再確認の結果では、端部シールはその機能を十分に維持していた。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

鋼板巻立て補強における注入モルタル(無収縮グラウト材)の施工管理としては、鋼板の剥離(肌すき)の観点からは、以下の点に配慮することが重要と考えられる3)

① モルタルの注入に当たっては、注入モルタルが鋼板とコンクリート躯体の間に確実に充填され、空気が残らないように配慮する。注入方法には、今回の圧入方式のほか、上部からの流し込み方式などがあるが、いずれの方法においても十分な施工管理が必要である5)。また、注入圧によって鋼板が変形しないように治具等を適切に設置しておく必要がある。)

② 鋼板とコンクリート躯体の間に注入モルタルが充填されており、注入モルタルの施工後に交通振動や温度変化等の影響で生じた鋼板の剥離(肌すき)が付着面の50%程度以下であれば耐震設計上は支障ない、と考えることができる。よって、施工時において適切な注入材料を用い、確実に充填しておくことが重要である。

③ 鋼板端部では、雨水等の浸入による鋼板の腐食を防止するために、端部シールを確実に実施しておく。

なお、参考までに、図-2~3の供試体No.5の曲げ載荷試験の結果を紹介しておく。供試体No.5は、全面で剥離しているものの、実施工で用いられている鋼板の橋脚側面への固定アンカーをモデル化したケースである(供試体No.0とNo.2~4では固定アンカーは使用されていない)。供試体No.5については、仮に鋼板全面で付着が剥がれていても、補強効果が確保されていた。鋼板の取り付け時に用いられる固定アンカーがコンクリート躯体に生じる軸ひずみを鋼板に伝達する機能の一助となったためと考えられ、鋼板の固定アンカーを適切な間隔で設けておくことが望ましいとされている3)。ただし、本稿で対象にしている鋼板巻立て補強工法は、十分な施工管理によって注入モルタルが確実に充填されることが前提であり、固定アンカーを設置しておけば注入モルタルの充填が不十分でもよいということではないので、注意が必要である。

参考文献

1) 建設省土木研究所:曲げ耐力制御式鋼板巻き立て工法による鉄筋コンクリート橋脚の耐震補強、土木研究所資料第3444号、p.3、平成8年5月

2) ショーボンド建設株式会社HP:鋼板巻き立て工法、
https://www.sho-bond.co.jp/method/049.html

3) 建設省土木研究所:鋼板巻立て補強工法における鋼板とコンクリートの一体性、土木研究所資料第3758号、中国地建における一日土研資料、pp.121-128、平成12年10月

4) 前川順道ら:曲げ耐力補強橋脚に対する鋼板剥離の影響の実験、橋梁と基礎、Vol.32、No.10、pp.35-40、1998年10月

5) 樅山好幸ら:橋脚の耐震補強(鋼板巻立て)におけるセメント系充填材の評価、コンクリート工学論文集、第13巻、第2号、pp.47-56、2002年5月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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