現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事

土工事

1 切土

2025/09/01

地質が影響した切土のり面の表層崩壊:2年連続の発生

1. 変状の概要

開通後約20年が経過した道路の切土のり面において、連続する2年間にわたり降雨に起因する表層崩壊が発生した。両崩壊箇所は近接しており、いずれも3段構成の切土の最下段に位置している。

初年度に発生した崩壊箇所(No.1)は、幅約10m、高さ約6m、厚さ約0.5mの表層崩壊であり、推定崩壊土砂量は約30 m3であった。崩壊当日の連続雨量は80 mmと中程度であったが、崩壊直前には時間雨量40 ㎜/hの強雨が観測された。

図-1 No.1崩壊箇所 断面図

図-2 崩壊箇所 平面図

  • 翌年に発生した崩壊箇所(No.2)も同様に表層崩壊であり、幅約10m、高さ約6m、厚さ約0.35m、推定崩壊土砂量は約20m3であった。崩壊当日の連続雨量は150㎜、直前の時間雨量は50㎜/hと、より強い降雨条件下であった。
    対象のり面の勾配は1:1.2であり、地質構成は下部2段が新生代第三紀中新世中期に形成された砂礫層および粘土層から成り、最上段は段丘礫層で構成されている(図-1、図-2、写真-1参照)。

  • 写真-1 No.2 2年目の崩壊状況

    写真-1 No.2 2年目の崩壊状況

2. 崩壊原因の推定および対策工の検討

のり面崩壊の原因を推定するとともに、適切な復旧・対策工法の検討を行った。

①切土部の地質は、砂礫層と粘土層が互層を成しており、段丘礫層および砂礫層から浸透した水が粘土層により遮断され、地下水として流出した可能性が高い。実際、崩落箇所には明瞭な湧水の発生が確認された。

②現地踏査により、湧水孔の存在、シールコンクリートの亀裂および沈下、のり面の緩み、水路とシールコンクリートの目地の開き等、複数の変状が確認された。

③当該箇所と同一の地質構成と思われる区域において過去ののり面災害履歴を整理した結果、のり面保護施設が植生またはプレキャストコンクリートのり枠系(開放型)で構成されている場合に、のり面崩壊や倒木等の変状が多く発生していることが判明した。一方、ふとんかご、切土補強土、吹付けのり枠を用いた場合には、災害の発生頻度が著しく低い傾向が認められた。

④対策の範囲や規模を設定するために風化や地山の緩み深さを推定する必要があった。そのため崩壊箇所近傍にて、原位置試験(動的コーン貫入試験によるNd値の把握)および物理探査(弾性波探査による地層境界の把握)を実施した。その結果、S波速度とNd値には相関が認められ、S波の低速度域とNd値<10の深さが一致しており、今回の崩壊深さと概ね一致した。この強度低下は、湧水による地盤の風化が主因であると推定された。

⑤以上の知見に基づき、S波速度が低いNd値<10が表層に認められる箇所をメインにのり面強化対策を実施した。崩落したのり面には透水性に優れたかご枠を採用し、湧水の多い箇所には水抜きボーリングを併設することとした。また未崩落ののり面において孕み出しが認められる箇所には、地山の風化や緩みの進行を抑えるためモルタル吹付工を施工することとし、併せて水路の復旧も実施した。(図-3参照)

⑥ 崩壊箇所(No.2)ののり面は当初、追加対策工の対象外であったが、1年後に崩落が発生したため、同様のかご枠工による復旧を行った。

図-3 のり面復旧工種 平面図

図-3 のり面復旧工種 平面図

3. 同様の災害を防止するための方策

本事例を踏まえ、今後同様ののり面崩壊を防止するための技術的方策について考察した。

① 対象地の地質構成は、上部から段丘礫層および砂礫層と粘土層の互層で構成されている。このような地質では、透水性の高い砂礫層および段丘礫層に対し、粘土層は難透水性であるため、湧水が粘土層上に集中しやすい。また、粘土層は風化の影響を受けやすく、のり面の変状を誘発する要因となる。実際、建設中および供用後においても、のり面の変状が確認されていた。

② のり面勾配は1:1.2と標準的であり、当初設計では植生工による保護施設で十分と判断された可能性がある。しかしながら、地質条件や湧水の存在を考慮すると、植生工のみでは十分な安定性を確保できない場合がある。

③ 湧水の集中および風化の影響を受けやすい地質条件下では、のり面保護施設として、コンクリート吹付などの密閉型構造が有効である。これにより、水の浸透を抑制し、地盤の風化進行を防止することが可能となる。

④ 崩壊箇所(No.2)は、風化層の厚さが0.35mと比較的薄く、当初の強化対策の対象から除外されていた。しかしながら、結果として同様の表層崩壊が発生した。工期やコストの制約から対策範囲の選定は困難な判断を伴うが、今回のように「補強対策済の隣接部の未補強箇所が崩落する」という事例は過去にも多く報告されており、対策範囲の設定には十分な検討が必要である。

⑤ 今回の事例から、対策工の実施に際しては、局所的な施工に留まらず、ある程度広範囲にわたる対策を講じることで、類似の災害を未然に防止できる可能性があると考えられる。

まとめると、のり面保護施設の選定にあたっては、のり面の長期的な安定を最優先に考慮し、現地の諸条件や地質環境を十分に把握したうえで、かつ各工法の特徴(機能)を理解し、経済性や施工性、施工後の維持管理も含めて総合的に判断することが望ましいといえる1)

さらには、施工段階においても設計時に意図している対策が現場の状況と乖離がないかを常に確認し、必要に応じてのり面保護施設の見直しを行うことも重要である。

参考文献
  • 1) 日本道路協会:道路土工 切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)、p.193

「現場の失敗と対策」編集委員会

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