2016/08/30
日本の災害とこれからの防災について官民の専門家が集って意見交換を行う場「これからの日本を考える懇談会」が防災をテーマに開催されています。『コンコム/防災を考える』では、懇談会において取り上げられたテーマのうち、建設技術者の業務に関わるであろう話題について内容を再編集して掲載します。
今回は、懇談会において埼玉県下水道局事業課長(前国土交通省水管理・国土保全局 下水道部下水道事業課 企画専門官) 本田康秀氏が発表された標題の内「施設維持と関連法規」を再編集してお届けします。
下水道法は、1958年(昭和33年)、経済発展に伴う急速な都市への人口流入が始まったことにより制定された。その後、イタイイタイ病や水俣病など、公共用水域での水質汚濁による公害が顕著となり、1970年(昭和45年)に改正された。この法改正以降、下水道整備に着手した都市では、主に雨水と汚水を別々の管渠で収集する分流式下水道が採用され、下水道管理者には、終末処理場の維持管理、放流水の水質検査が義務づけられた。
多発する浸水被害(ゲリラ豪雨)に対処する住民避難のソフト対策とともに、全国に張り巡らされた延長約46万kmの下水道管理の適切化を目的に、2015年(平成27年)に下水道法、水防法等が改正された。1970年(昭和45年)の下水道法改正は下水道処理施設整備促進の契機となったが、2015年(平成27年)の改正は「点検・調査などの適切な維持管理」に力点が置かれている。
土木学会では、コンクリート構造物の耐用年数は50年と言われている。現在50年を経過した管が約1万kmあり、20年後には耐用年数を超える管が約11万kmになる。設備の更新需要は確実に増加しており、道路や河川と比較すると後発であるが、本法改正も踏まえ、今後急激に増加していくものと思われる。
年 | 1958(S33)年 | 1970(S45)年 | 2015(H27)年 |
---|---|---|---|
関連法規 | 下水道法 | 下水道法・水質汚濁防止法 | 下水道法・水防法・下水道事業団法 |
背景 | 経済発展・都市部への人口流入 | 公害国会・環境庁(省)創設 | ゲリラ豪雨/浸水被害対策 |
防災 | ― | ― | 浸水想定区域を最大降雨前提に拡充 内水・高潮時の避難確保/ソフト対策 下水道管理者が水防活動に協力 雨水貯留施設管理協定制度創設 |
施設 | 汚水・雨水合流式 | 汚水・雨水分離 下水道処理施設建設ラッシュ | 雨水排除に特化した公共下水道 |
管理領域 | 自治体別 | 流域別下水道整備総合計画策定の義務化と流域下水道事業創設 | 下水道管理広域化(含民間施設) |
維持管理 | ― | 終末処理場の維持管理義務化 | 維持管理推進 / 維持修繕基準を創設(予防保全,点検方法,頻度規定) 下水道事業団が下水道管理者権限代行 |
水質 | 河川・湖沼・海域の水質汚濁 (イタイイタイ病・水俣病等) |
水質汚濁防止法制定 放流水水質検査・記録を規定 |
― |
資源活用 | 汚泥は産業廃棄物として埋立 | 発生汚泥の脱水・焼却・再生利用 | 肥料,再生可能エネルギー活用推進 下水管路に熱交換器設置等 |
下水道事業費を見ると、平成年代に入ると補正予算を除き3兆円で推移していたが、現在の事業費は約1.5兆円となっている。下水道施設の改築・更新費用は、平成25年度で0.6兆円程度、10年後は0.8兆円、20年後は1.0兆円程度と推計している。事業予算が現状の1.5兆円で推移するならば、20年後は2/3が改築の費用と見込まれることとなる。
管渠が適切に維持管理された場合、使用年数は50年から平均70年超に伸びると試算しているが、これは現状の技術水準における低コスト化の手法を採用した場合を前提としている。
下水道管路は、点検率約90%の政令指定都市から約15%の1万人未満の中小の地方公共団体まで含め、計画的な点検をしている地方公共団体の割合は約2割である。やはり職員の少ない地方公共団体ほど的確な点検がなされていないケースが多い。中には、管渠は維持管理をしなくても良いと考えている地方公共団体も少なからず存在することが、法律改正時の地方公共団体職員との意見交換などで判明した。下水処理場に関しては水質検査などが法律で規定されているために維持管理もされているが、下水道管路については後手になっている地方公共団体が存在するのが現状である。
下水道管路の点検・調査には、地方公共団体の職員が直接実施する場合と、民間事業者に委託する場合があり、マンホールの蓋を取り、人が入って目視で点検・調査するものと、機械で点検・調査するものがある。管路の点検・調査には、以下の方法がある。
① 目視:マンホールの蓋をあけ、内部を目視により調査する。
② 管口カメラ:直径80cm未満などの小口径の管路には、調査員が地上から管口カメラを挿入し、管口内の状況を約15m〜20mにわたり確認する。
③ テレビカメラ調査:劣化の程度について詳細な調査を行う場合に、テレビカメラを操作して調査する。
毎年、下水道を原因とする道路の陥没事故が4,000件ほど発生している。発生する部位は、取付管(本管まで各家庭から繋ぐ管)での事故が約7割、本管(公道に埋められている管)での事故が約3割となっている。本管の陥没の原因は、老朽化と腐食がある。水道は浄水場で加圧され、管中を満水で通っているが、下水道は勾配がある管渠中を管渠のの断面積の1/4~1/2程度で自然流下していく。地形によって勾配が著しく変化する箇所や下水の流路の高低差が激しい所などでは溜まった汚水を一度汲み上げてから再び流すが、生活排水が溜まった箇所には「硫化水素」が発生し水と混ざり「硫酸」が発生する。このような場所で下水管のコンクリートが腐食し、道路舗装の砂が腐食した箇所から落ちて陥没が発生する。下水道が原因の道路の陥没により、歩行者の転倒、転落、汚水の溢水、車の脱輪、車両の底部破損等、人身・物損の事故が発生している。改正下水道法では腐食の恐れが多い箇所について5年に1回以上の定期的な点検を実施することが義務づけられている。
本管の多くはコンクリートで作られていたが、最近は強化プラスチックや塩化ビニール、耐酸性に優れたコンクリートに、取付管は陶器製のものから、強化プラスチックや塩化ビニールに順次交換している状況である。
2015年度版の「下水道事業のストックマネジメント実施に関するガイドライン」では、腐食する恐れが大きいものとして法令で定める排水施設の対象箇所の選定方法について、「段差・落差の大きい箇所の気相部」「圧送管吐出し先部の気相部」「伏越し部の下流吐出し部の気相部」「その他腐食する恐れの大きい箇所」の4箇所を挙げている。
国土交通省では、維持管理の経験に乏しい地方公共団体などを対象とした同ガイドラインを配布している。施設の点検・調査の方法・頻度、保全区分(状態監視保全・時間計画保全、事後保全)の考え方などが記載されている。
今後の下水道管路管理の目指す方向性は、「点検・調査の効率化」「管路施設全体のマネジメント」である。
管路の老朽化が進んでいく中、全国の管路を効率的に点検できる技術には、まだまだ改良・進歩のニーズがある。テレビカメラを使った管内作業の無人化は大きな技術革新であるが、このカメラを使うためには地上でカメラを操作する人が必要になり、その労働時間が8時間/日と限られている。現在1日300mともいわれている日進量をさらに向上させるには、マシンの性能を上げるか、無人化ロボットの技術開発に期待がかかるところである。
点検・調査などの技術力を資格制度を通じて向上させることも有効である。管内での作業やカメラの操作は簡単ではない。民間事業者に点検・調査技術の資格を取得してもらい、業務のクオリティを上げることが有効と考えられる。
また、管理点検・調査に係わる技術開発として、B-DASHプロジェクトがある。今までは民間業者の技術開発に基づいて点検・調査を行っていたが、従来より迅速かつ安価に管内の点検・調査を行うため、国土交通省支援により民間事業者が下記の技術開発を行っている。
① 画像認識型カメラ:機械の学習機能を用いて不具合状況を自動検出する。
② 高い操作性能を有するカメラ:管内に蓄積している堆積物を乗り越えて稼動する。
③ 広角展開カメラ:前方に2個、横方向に2個のカメラを装備し同時に前・横の点検、調査ができる。
④衝撃弾性波による調査:管内を軽く打撃して発生した震動を受信することで小口径管路を無人で診断する。
また、維持管理の履歴を含めた施設情報のデータベース化が重要と考える。日本下水道事業団が、地方公共団体の管網データベースを一元管理し、効率的に管理するための資産台帳システム「アセットマネジメントデータベース/AMDB」を展開している。AMDBには、下記の情報が収録される。
① 資産(設備)台帳:資産名称、設置年月日、取得金額、仕様、添付資料等
② 工事(契約)台帳・保全台帳:工事名、契約金額、工期、年割情報、工事概要等
③ 団体情報・処理区情報・施設情報:PI/CI情報、経営情報、設計情報、維持管理データ、将来情報(水量)等
④ 保全情報:
1) 通常保全履歴:通常の補修・保守履歴(金額、内容、年月日、写真、報告書等)
2) アセット保全履歴:アセット点検結果履歴(金額、内容、年月日、写真、報告書、健全度)
平成27年11月24日の「第19回経済財政諮問会議」において、社会資本整備分野における経済・財政一体改革の具体化に向けた取り組みを「安全・安心の確保を前提に、生産性を向上させるストック効果が高い社会資本整備が必要であり、限られた予算を最も効果的に活用する「賢く投資・賢く使う」インフラマネジメント戦略への転換」が必要であるとされた。これは「メンテナンスをビジネスチャンスに変えていこう」という趣旨である。下水道熱の再生可能エネルギーへの転換など、民間業界の雇用創出も国土交通省としての課題であると考えている。
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