2017/03/31
日本の災害とこれからの防災について官民の専門家が集まって意見交換を行う場「これからの日本の防災を考える懇談会」が防災をテーマに開催されています。『コンコム/防災を考える』では、懇談会において取り上げられたテーマのうち、建設技術者の業務に関わる話題について内容を再編集して掲載します。
今回は、懇談会において国土交通省水管理・国土保全局下水道部 流域管理官付課長補佐 岩井聖氏が発表された「地下街における浸水対策〜下水道の取組」および、東京都都市整備局都市基盤部 施設計画担当課長 秋山真氏が発表された「東京都における豪雨対策と大規模地下街等における浸水対策の取組について」を再編集してお届けします。
地下街のほか、地下鉄駅、デパートの地下売場、これらと地下で接続しているビルの地下フロア等を「地下街等」と呼ぶ。従業者以外の不特定多数の存在を前提として予め必要な措置を講じなければ、浸水が発生した場合に利用者を円滑に避難させることが困難であり、大きな被害の発生が想定されるような地下部分をいう。
地下街等における過去の浸水被害を見ると、1999年(平成11年)6月の「福岡水害」では、福岡市を貫流する御笠川の氾濫による大量の水が博多駅周辺の地下街や地下鉄、ビルの地下室に流れ込み、地下室に閉じ込められた1人が死亡するという結果になった。
2000年(平成12年)9月の「東海豪雨」では、内水氾濫により名古屋市の地下鉄が浸水、最大2日間運転が停止し、約47万人に影響が出た。
2003(平成15年)年7月には再び「福岡水害」が起こり、御笠川の氾濫で地下鉄などの地下空間が浸水した。
2016年(平成28年)も、前線や台風等による大雨により、各地で内水浸水被害が発生している。6月及び7月は、梅雨前線等の影響により各地で被害が発生。8月には台風第7号、第9号、第10号、第11号の影響で、東日本から北日本を中心に記録的な大雨となり被害が発生。9月にも台風第12号、第13号、第16号等の影響で、西日本から東日本を中心に記録的な大雨となり、仙台駅前地下通路が浸水している。
地下空間に水が流入すると水が引き難く、様々な箇所から水が伝わって来るなど影響が非常に大きくなり、対策にも関係機関の複合的な連携が必要となる。大規模浸水を想定した被害最小化対策が求められる。地下街等が広域に発達している大都市圏で大規模水害が発生した場合、甚大な人的被害の発生や公共交通機関の運休に伴う経済社会的な影響が懸念される。
特に、東京湾、伊勢湾、大阪湾沿岸の「ゼロメートル地帯」における地下街の安全確保、浸水後の排水には課題が残されている。人口・資産が集中したゼロメートル地帯の大規模な浸水対策には日本の存立が懸っている。
地下街等には「水害防御と的確な避難誘導体制の構築」という課題があった。そこで2001年(平成13年)に水防法が改正され、「浸水想定区域内に不特定かつ多数の者が利用する地下街に設けられた施設がある場合には、利用者の円滑かつ迅速な避難の確保が図られるよう、市町村地域防災計画において洪水予報の伝達方法を決める」とされた。地下空間に対する的確な洪水予報の伝達を掲げたものである。
しかし、洪水予報が地下街に伝達されても、個々の利用者に的確に伝達されないなど、円滑で迅速な避難の確保を図ることができないことから、2005年(平成17年)には市町村地域防災計画に位置付けた浸水想定区域内の地下施設に「避難確保計画」の作成を求める改正を行った。
さらに2013年(平成25年)には、地下街等利用者の安全確保をより一層促進するため、「避難確保計画」に加えて「浸水防止計画の作成及び自衛水防組織の設置並びに訓練の実施」が義務化されることとなった。
2015年(平成27年)には、新たに内水(雨水出水)及び高潮に係る浸水想定区域制度を設け、さらに想定しうる最大規模の降雨・高潮を前提とした区域を公表することとなった。内水については、相当な損害を生ずるおそれがあるもの、例えば地下街等が発達している区域に存在する公共下水道を中心に指定が進むと想定される。
2016年(平成28年)3月の統計では、市町村地域防災計画に定められた地下街等1117のうち、上記計画を作成済みの地下街等は743で、全体の2/3程度となっている。地下空間は、浸水に対して非常にリスクが高い空間であり、
・地上部の状況把握が困難
・避難時間の猶予が少ない
・避難経路が限定される
といった特性があるため、一刻も早い対応が求められる。
また、地下で接続しているビル等が、浸水経路や地下街等利用者の避難経路となることも想定されるため、2015年(平成27年)の改正にて避難確保・浸水防止計画作成時には、接続ビル管理者等の意見を聴く努力義務が定められた。地下空間への水の侵入防御対策等、地下街と接続ビル管理者等の連携が求められたのである。
【コンコム/防災を考える~第5回】において、下水道法等の一部改正(2015年11月施行)に基づく浸水対策を紹介した。地下空間浸水への下水道の取り組みとしては、民間の再開発にあわせて官民連携による浸水対策を実施することが効率的な区域を条例で指定できる「浸水被害対策区域」制度の創設や、下水道内の水位を監視し地下街管理者等へ通知する「水位周知下水道」制度の創設等がある。
東京都では平成25年度に「渋谷・新宿駅東口・西口・歌舞伎町・京王新宿名店街・池袋東口・西口・八重洲・新橋駅東口」の9つの大規模地下街において「浸水対策計画」の策定が完了した。平成27年度、地下鉄駅・隣接ビルなどが3者以上連担した地下空間を加え、地下街を中心とする地下施設所有者・管理者や水防管理者である地元自治体等との連携および情報の共有化を行い、利用者の安心・安全の確保を行うことを目的に、「東京都地下街等浸水対策協議会」が設置された。
協議会の下には「幹事会」及び各地区における「部会」が設置され、「幹事会」では地下浸水防止と避難確保のための最新情報や他地区での取組の紹介や情報共有等を行い、浸水対策を強化。各「部会」では各地区の浸水対策計画の運用、訓練を通した検証・更新を実施している。
地下接続状況及び浸水防止用資機材の準備状況は、部会構成員内で情報共有が行われている。地下街では他施設への接続状況を知ることが大切で、接続先施設・接続階・接続通路の通行可能時間などを知らないと、避難しても命の危険にさらされることもある。また、浸水防止用資機材の準備状況についても、何が、どのくらいの数量でどこに整備されているかを一覧表にしている。
地下街は一律に平らではない。地下埋設物が輻輳する都内では、これを避けるために高低差を生じることがある。高低差のある所を可視化して危険性を認識してもらい、浸水の危険性が高い要注意区域を選定して、避難経路図の設定に活用している。
避難経路を選定するにあたり留意すべき点として、
・基本的には、最寄りの出入口を経由して地上に避難することを前提
・要注意区域(構造的に水が貯まりやすい箇所)を避けて避難
・特定の出入口への集中は混乱等を回避するため、区割りごとに最低2方向の出入口を設定
・エレベーターやエスカレーターなどの電気施設の利用は想定しない
また、階段が途中で折り曲がるケースや通路の途中に扉があるケースは避難経避として避けた方が良いということなどを協議会のメンバーに理解してもらっている。
連絡体制は3段階にわけて行うことを提案している。
「注意体制(第1段階)」は、気象庁から「大雨・洪水注意報」発令された場合。
「警戒体制(第2段階)」は、「大雨警報・洪水警報」が発令された場合や、施設周辺の道路等に冠水が確認された場合。
「非常体制(第3段階)」は、「大雨特別警報」「氾濫危険情報」が発表された場合や地下街等において浸水の危険性ある、浸水が発生した場合としている。
第3段階の非常体制に移行する際には、連絡網を用いて電話連絡をすること。非常体制時にはメール・FAXの一斉送信で情報共有することとしている。
「情報伝達訓練」を実際に行った結果、いくつかの問題点が出てきた。第1訓練ではほとんどの参加者が確認できていたが、インターネットがない場合に備えテレビやラジオ等の複数のツールを用意する必要があることが判明した。
次に第2訓練の電話伝達では、情報伝達ができていないところが出てきた。その一因として、協議会等への出席者以外の人達への周知がされていなかったことがある。防災担当者がいるときに災害が起こるとは限らないので、職員全員が対応できるように防災連絡網の周知・教育と緊急時の体制確立の必要性が判明した。
そして第3訓練では、FAXだけでは送受信に時間がかかることから伝達ツールとしての検討が必要なことが判明した。
平成28年5月30日に国土交通省関東地方整備局より「荒川水系荒川洪水浸水想定区域図」が発表された。これによると、荒川の洪水浸水想定区域に、新橋地区、大手町地区、丸の内地区、有楽町地区、銀座地区、八重洲地区、上野・御徒町地区、浅草地区が該当していることがわかる。
荒川洪水浸水想定区域図を見ると、地下街の出入口、地下鉄の出入口、階段等からも浸水し、同時に換気口などの開口部からも浸水する可能性があるという認識が必要になるため、それぞれの地区へ伝えているところである。
協議会では、上野・御徒町地区の情報伝達訓練を平成29年2月までに行う予定である。また、平成29年4月〜5月にかけて全ての地区で「情報伝達訓練」を行うこととしている。春の人事異動による新体制での情報伝達と雨期前の意識啓発を図るとともに、前回訓練の反省を踏まえた今後の実効性を高めていく。
東京都は、地下街等管理者の浸水対策の取組を下支えするコーディネーターである。各地区の安全を確保するためには、地下街等管理者の理解と協力、連携が不可欠である。これまで、幹事会及び各地区部会の回を重ねた結果、ご当地に合った提案がなされるようになったことに敬意を表する。
今後も、各地区による自発的な取組を進めていただき、浸水対策計画のさらなる充実や避難誘導体制の強化など、防災力の向上を図っていく。
土木遺産を訪ねて
2024/11/01
今回の歩いて学ぶ土木遺産は、JR男鹿駅から船川港にある選奨土木遺産「第一船入場防波堤」と「第二船入場防波堤」をめざす行程です。出発点となるJR男鹿駅(2018年新設)の駅舎は...
現場の失敗と対策
コラム
働き方改革
2024/11/01
もちろん、業務上必要な残業は、36協定の範囲内で命じることができます。そもそも36協定(時間外・休日労働に関する協定届)とは...
トピックス
2024/11/01
公益社団法人土木学会は、令和6年度の「選奨土木遺産」に認定した14件を発表しました。今回は、廃川敷に計画された「甲子園開発」の先駆けとして...
今月の一冊
2024/11/01
最先端のデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)、女性や高齢者、外国人などが活躍できる多様性の実現、働き方改革など、従来のイメージを変革するさまざまな...
Copyright © 2013 一般財団法人 建設業技術者センター All rights reserved.