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【コンコム/防災を考える〜第六回】地下街の防災対策について

【コンコム/防災を考える〜第六回】
地下街の防災対策について(1)
地下街の震災対策

2017/02/27

日本の災害とこれからの防災について官民の専門家が集まって意見交換を行う場「これからの日本の防災を考える懇談会」が防災をテーマに開催されています。『コンコム/防災を考える』では、懇談会において取り上げられたテーマのうち、建設技術者の業務に関わる話題について内容を再編集して掲載します。

今回は、懇談会において国土交通省 都市局 街路交通施設課 街路事業調整官 三浦良平氏が発表された「地下街の防災対策」の中で、都市局街路交通施設課が力点を置いて行っている「地下街の安心避難対策」とこれらの前提となる関連法制度、被災事例、地下街老朽化対策等について再編集してお届けします。

1. 地下街とは

 

地下街の定義については、「公共の用に供される地下歩道(地下駅の改札口外の通路、コンコース等を含む)と当該地下歩道に面して設けられる店舗、事務所その他これらに類する施設と一体になった地下施設であり、公共の用に供されている道路または駅前広場の区域に係るもの」とされている。

「地下街」の適正な管理を規定した法令はなく、関連法規等で規制されている。

図1)地下街と関連法規図1)地下街と関連法規

地下街の建設は、1930年(昭和5年)頃から行われ、高度経済成長期にあわせるように1955年(昭和30年)頃から増加していった。

図2)地下街の建設経緯(国土交通省)図2)地下街の建設経緯(国土交通省)

2016年(平成28年)3月現在、全国には80箇所の地下街があり、管理主体は民間会社48、第3セクター30、公営地下街2となっている。都道府県別では、東京都と愛知県が最大の17、次いで大阪府14、神奈川県7、兵庫県7、福岡県4等、大都市に集中している。

地下街の8割以上が開設から30年以上経過し、設備の老朽化が進んでいる。施設の適正な管理や安全対策の推進が求められている。

  • 図3)地下街の形態・所在地図3)地下街の形態・所在地
  • 図4)地下街の開設経過年数図4)地下街の開設経過年数
図5)耐震診断・耐震改修の実施状況図5)耐震診断・耐震改修の実施状況

2013年(平成25年)3月、78地下街(当時)を対象に「耐震診断の実施」についてヒアリング調査を実施した結果、半数が耐震診断未実施であると判明した。耐震診断を受けている38地下街のうち、改修不要が19、改修済が12、未改修が4、一次診断のみが3という現状が把握できた。

2. 災害と地下街の取り扱いの変遷

1972年(昭和47年)5月に、大阪千日前デパートの大規模火災が発生し、死者118人、負傷者81人という日本のビル火災史上最悪の大惨事となった。この事故を契機として、1973年(昭和48年)7月に4省庁通達(建設省・消防庁・警察庁・運輸省)による「地下街の取り扱いについて」が出され、それ以降の地下街の新設・増設は厳しく抑制された。あわせて、地下街中央連絡協議会の設置等が定められ、1974年(昭和49年)6月に協議会から「地下街に関する基本方針」が出された。

1980年(昭和55年)8月に静岡駅前ゴールデン街(準地下街)のガス爆発事故が起こり、これを契機に同年10月には5省庁通達(4省庁+資源エネルギー庁)「地下街の取り扱いについて」が出され、1981年(昭和56年)4月には「地下街に関する基本方針」も改正が行われ、ガス保安対策等防災面の強化が図られた。

1986年(昭和61年)10月、利便性向上や経済活性化の推進から「地下街の取り扱いについて」が改正され、厳しく制限されていた地下街の新設・増設が『駅前広場やそれに近接する区域で、市街地としての連続性を確保する目的で機能更新を図る場合』や、『降雪寒冷地帯等の拠点区域で気象等の自然条件を克服して都市活動の快適性・安全性の向上を図る場合』には認められることとなった。

2000年(平成12年)4月「地方分権一括法」が施行され、これに基づき2001年(平成13年)6月に地下街中央連絡協議会は廃止、「地下街に関する基本方針」「地下街の取り扱いについて」も廃止されている。

3. 阪神・淡路大震災と地下街

地震に関していえば、地下構造物は地盤とともに動くために、地上の構造物ほど揺れの影響を受け難く、地震の影響は少ないと言われている。1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災において震度7以上の分布域に位置し、とくに大きな地震動を受けた神戸市内にある3つの地下街での事例がある。

「さんちか」「メトロこうべ」「デュオこうべ(山の手・浜の手)」の構造物は、大きな損傷を受けていない。デュオこうべ浜の手を除いた3地下街はともに、昭和40年代の開業で、現在の耐震設計に準じた耐震性能の照査まで行っていないにもかかわらず、部分的なひび割れ程度の軽微な被害で、崩壊するような大きな被害は発生しなかった。

図6)阪神・淡路大震災での地下街の被害状況図6)阪神・淡路大震災での地下街の被害状況

日本の地下空間での唯一といえる大規模な被害例としては、阪神・淡路大震災での地下鉄神戸高速鉄道 東西線大開駅の天井が沈下するという例がある。この沈下のため、その上の国道28号線において陥没が発生した。ボックス型の中央の柱がせん断破壊を起こし、上部の荷重を支えられなくなり崩壊した。地震発生が早朝だったため、幸いにも乗客の被害はなかった。

図7)阪神・淡路大震災後の地下鉄大開駅の被害状況 (出典:阪神・淡路大震災調査報告書 土木学会)図7)阪神・淡路大震災後の地下鉄大開駅の被害状況 (出典:阪神・淡路大震災調査報告書 土木学会)

しかし、地下街は地下施設だからといって地震に強く安全であるとは言えない。適切に設計され、対策を行った地下施設が安全なのである。「地下は安全」という「安全神話」に頼らず、必要な防災対策を適切に講じていくことが重要である。

4. 東日本大震災と地下街

東日本大震災では、茨城空港ターミナル、東京九段会館、宮城県栗原市の中学校体育館、茨城県水戸市の高等学校体育館など吊り天井が数多く落下した。吊り天井の危険性が指摘されて、文部科学省では学校体育館の吊り天井構造の再点検が指示された。

地下街でも吊り天井方式が多く用いられており、震災時に落下する懸念がある。

東日本大震災を受け、2012年から2013年にかけて、南海トラフ巨大地震および首都直下地震の被害想定が公表された。いずれにおいても地下街における地震時の被害様相が含まれ、防災・減災対策の必要性が示されている。

また、被害拡大をもたらすその他の事象として、「地下街やターミナル駅が崩壊した場合には、局所的に膨大な要救助者が発生し、救助人員の確保が困難となる」と更に厳しい被害様相に言及している。

  • 写真1)吊り天井の脱落被害状況写真1)吊り天井の脱落被害状況
  • 図8)地下街・ターミナル駅での地震発生直後の被害様相(一部抜粋)図8)地下街・ターミナル駅での地震発生直後の被害様相(一部抜粋)

被害想定の中には、揺れによる非構造部材の被害(天井のパネル、壁面、ガラス、吊りもの等の落下)によって施設利用者が死傷するということも含まれている。 地下街の断面図を見ると、両側は店舗の空間で中央が通路という配置となっている。天井には、案内板や証明器具、天井板などがあり、その天井板の裏側に排気ダスト、天井板の吊り材、設備ダクト、バスダクト・ケーブルラック、ファンコイル、スプリンクラー等が収納されており、これらは全て吊り下げられている。

2013年(平成25年)度に全国の地下街全てにおいてサンプル点検・調査を実施した結果、一部の地下街に漏水による部材の不具合がみられ、部材の破断が起きて強度に問題が出る結果となっていた。天井材、設備類、ハンガー等は、東日本大震災でも脱落が起きており、分電盤取付けの安定性不足についても点検・調査で発見された。意識の高い地下街管理会社では、自主的に点検がされていることも判明したが、一部では不具合が生じていることも知らずに放置されている状況も現実にあった。

  • 図9)地下街の断面図図9)地下街の断面図
  • 写真2)不具合の様子写真2)不具合の様子

5. 「地下街の安心避難対策ガイドライン」

地下街については、大規模地震発生時に利用者等が混乱状態となることが懸念される。天井等設備の老朽化等も進んでいることから、地下街の防災・安全対策を進めるため、国土交通省では「地下街の安心避難対策ガイドライン」を2014年(平成26年)4月に策定した。

地下街が有する交通施設としての都市機能を継続的に確保していくために必要な耐震対策等地下施設の整備・更新にあたって必要な考え方を、技術的な助言として取りまとめられており、「非構造部材の落下対策として、非構造部材の点検要領を策定」したこと、「様々な状況を想定した避難対策として、避難シミュレーションを活用した避難経路の検証方法や対応方策の検討方法等を提示」したことがポイントである。

また、「地下街安心避難対策ガイドライン」を基に、地下街管理会社等に対して、地下街の安全点検や、「地下街防災推進計画」の策定を支援するとともに、計画に基づく避難通路や地下街設備の改修、避難啓蒙活動等も支援している。

誘導設備等の活用について、国土交通省では2014年(平成26年)度に予算的支援を検討し、「地下街防災推進事業」を創設した。補助対象者は地下街管理会社、地方公共団体との協調補助で補助率は1/3である。

  • 図10)地下街防災推進事業図10)地下街防災推進事業
  • 写真3)地下街防災対策の内容写真3)地下街防災対策の内容

さらに「地下街の安心避難対策ガイドライン」には、避難シミュレーションを活用した避難経路の検証方法や対応方策の検討方法等が明記されている。
① 落下物や地上の混雑等に依って一部の階段が使えなくなった。
② 地下街に接続する地下駅等から大量の避難者が流入した。
③ 工事で閉鎖している階段があった。
④ 避難の際に車椅子の方がいる。
⑤ イベント等で通常より多くの在館者がいる。
⑥ 店舗前に山積みされた段ボールが散乱している。
このような場合の対処も総合的に検討していく必要があるが、シミュレーション技術の導入によって、経験者の判断を待たずに、避難経路の変更等の指示が可能となる。

避難シミュレーション報告(国土交通省HP内)
http://www.mlit.go.jp/common/001024824.pdf

図11)安心して避難するための誘導設備等の活用図11)安心して避難するための誘導設備等の活用

また、近隣施設と連繋し、避難者の流入や流出を想定した避難誘導担当のルール化も重要である。地方自治体等が参加する協議会を設置し検討した事例もある。地下街では、消防法に基づき定期的に避難訓練を実施していると想定されるが、安心して避難するための誘導設備等の整備と活用も必要である。

都市の根幹部、交通網の要に位置する地下街には、大規模災害時の都市の安全確保にも重要な役割を付与されている。東日本大震災時における帰宅困難者数は、首都圏全体で約300万人と推定されている。新宿や丸の内の地下街にも多くの帰宅困難者が滞留した。

国土交通省では東日本大震災の事例も踏まえ、2012年(平成24年)年度に「都市安全確保促進事業(エリア防災促進事業)」を創設した後、制度を拡充している。都市再生緊急整備地域内及び主要駅(1日あたりの乗降客数が30万人以上の駅)周辺の滞在者等の安全確保と都市機能の継続を図るため、官民連携による一体的・計画的なソフト・ハード両面の対策支援を実施している。

都市再生安全確保計画制度(国土交通省ホームページ)
http://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_machi_tk_000049.html

地下街はまず、地震や内水氾濫等による被災を防ぐ安全性の高い構造とすることが重要である。加えて避難者動態の把握と誘導システムの整備、滞留者支援施設としての機能の見直しや支援物資の備蓄等、被災者保護の観点から安全都市への展開を求められていることも忘れてはならない。

次回の地下街と防災対策では浸水対策についてお伝えします。

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