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【コンコム/防災を考える~第二回】3.11後の東京都の防災対策について―東京都における低地河川の防災対策―(2)

【コンコム/防災を考える〜第三回】
3.11後の東京都の防災対策について
―ゼロメートル都市:江⼾川区の防災まちづくり―
東京都江⼾川区⻑ 多田 正⾒ 氏

2015/06/29

はじめに

江⼾川区は、三方を海や川に囲まれており、江⼾時代の水運ルートであった古川親水公園なども存在する水との関わりが深い地域である。しかし、全区域の大半がゼロメートル地帯であり、洪水を含む防災が大きな課題となっている。区⺠の間では、「マンションの3階以上の方と仲良くし、河川氾濫時は避難させてもらえ」という話も出ている。江⼾川区の水害克服に向けた対策について詳述する。

1. 江⼾川区の地勢特性 負の遺産「地盤沈下」

図1)江⼾川区の70%がゼロメートル地帯図1)江⼾川区の70%がゼロメートル地帯 写真1)沈下した区役所の正面玄関写真1)沈下した区役所の正面玄関

江⼾川区は、江⼾川と荒川という大河川が低地帯を流れ、海(東京湾)にも面した素晴らしい水環境を形成、水の恵みを享受している地域である。しかし、陸域の44%(17.0km2)が満潮面以下、26%(10.4km2)が干潮面以下、合わせると陸域の70%がゼロメートル地帯となり(図1)、清新町・臨海町、⼩松川地区を除く全区域で高潮や洪水により被害を受ける恐れがある。

江⼾川区は、元来、川・沼・池の錯綜する広大な湿地帯地域で、江⼾期から湿地帯や河口の中州・砂地の埋め⽴てによる新⽥開発が進んだ。大正から昭和にかけては、工業活動による地下水の汲み上げや、天然ガスの大量採取によって地盤沈下が進んでいった。

1964(昭和39)年8月から工業用水法に基づく揚水規制等によって、地盤沈下は急速に沈静化していったが、1962(昭和37)年に完成した江⼾川区役所は、竣工時に道路面とフラットであった正面⽞関部分の道路側全体が、階段が必要なほど沈下するなど(写真1)、影響は大きかった。

2. 水害の歴史と治水対策

江⼾川区に関わる大水害の歴史は、江⼾時代から記録に残るだけで250回を超える。

近代には1910(明治43)年の東京大水害、1917(大正6)年の高潮大水害などがある。昭和に入ると、1947(昭和22)年9月のカスリーン台風では、記録的な豪⾬により、利根川の右岸堤防(埼⽟県北埼⽟郡東村〈現在の加須市〉)が決壊し、その濁流が3日後には下流の葛飾区・江⼾川区にまで達した。江⼾川区内の浸水家屋は3万⼾、区内の被災者数は13万人であった。1949(昭和24)年8月のキティ台風では、高潮で防潮堤が崩壊し、江⼾川区、江東区、墨⽥区などが甚大な被害を受けた。江⼾川区内の浸水家屋は約12,500⼾、被災者数は約62,300人であった。

1938(昭和13)年7月に東京東部で起こった6万⼾に及ぶ浸水被害を機に、1939(昭和14)年4月に中川開削・改修を目的に東京府中川改修事務所が設置されたが、戦争激化のために計画は中断、事務所も廃止となった。しかし、カスリーン台風で再度東京東部が浸水したことから中川改修が再検討され、1949(昭和24)年11月に中川改修事務所は再開。中川放水路の開削が本格的に進み、1963(昭和38)年3月に完成、1965(昭和40)年3月に一級河川に指定され「新中川」と改称された。

写真2)旧中川の親水整備写真2)旧中川の親水整備

また、1971(昭和46)年には、東京都主体で江東内部河川(※)の防災対策に着手、約40年かけて河川整備を⾏った。3〜4m地盤沈下した地域で、天井川になっていた内陸河川の水位低下を図り、北⼗間川樋門や扇橋閘門から環境維持用水として隅⽥川の水を取り入れて、旧中川から荒川に排出している。これで安全性を向上させるとともに、あわせて川とまちを分断してきたコンクリート護岸を取払い、水辺をより⾃然に近づける親水整備も⾏った。現在では区⺠の多くの方が憩いの場として利用している(写真2)。

※江東内部河川とは、荒川と隅⽥川に挟まれた江東三角地帯を流れる荒川水系の10の一級河川(旧中川、⼩名⽊川、横⼗間川、北⼗間川、大横川、仙台堀川、平久川、竪川、大島川⻄⽀川、大横川南⽀川)と、独⽴水系の⼆級河川である越中島川の総称である。多くは江⼾時代に開削された運河で、直線的な流れになっているが、荒川の開削以前に中川の一部であった旧中川は、蛇⾏した流れになっている。

3. 高潮対策・防潮堤整備

写真3)高潮対策事業写真3)高潮対策事業

写真4)葛⻄臨海公園(防潮堤)写真4)葛⻄臨海公園(防潮堤)

1949(昭和24)年のキティ台風を契機に、第一次高潮対策事業(1949〜1957年)を実施、防潮堤のかさ上げ(対策潮位AP+3.15m)を⾏った。その後1959(昭和34)年の伊勢湾台風を受け、高潮防御施設整備事業(1963〜1967年/対策潮位AP+5.1m)の計画改訂で、堤防を更に高くした。背景に、史上最大規模といわれる伊勢湾台風の異常潮位への考慮がある(写真3)。

葛⻄臨海公園も防潮堤である。高潮防潮堤の建設に伴い、1985(昭和60)年1月から、葛⻄沖開発⼟地区画整備事業の一環で、緑と水と人のふれあうウォーターフロントとして葛⻄臨海公園の建設に着手、1989(平成元)年6月にその一部がオープン、以降1994(平成6)年、1995(平成7)年、2001(平成13)年と次々に新しい施設が誕生している(写真4)。

従来の防潮堤の建設は、災害防止策とはいえ、結果的に区⺠から海を失わせたが、葛⻄臨海公園の建設では、港湾施設ではない⾃然公園として再生する方針をとった。人工の砂浜もあり、区⺠が海を再認識できる場になった。

4. スーパー堤防とまちづくり

スーパー堤防は、「人命を守る」ことを最重視し、決壊しない堤防を整備する国の施策である。江⼾川・荒川のスーパー堤防は、堤防の高さの約30倍の幅をもつ強固な堤防である。また、このスーパー堤防は防災拠点としても機能するもので、高台であることから水害時の有効な避難場所にもなる。2006(平成18)年12月「江⼾川区スーパー堤防整備方針」を定め、下項に配慮して、まちづくりとともに順次整備を進めている。

  • 1. 地盤が軟弱、低地などの水害の危険度が高い
  • 2. ⽊造密集市街地などで、災害危険度が高い
  • 3. まちづくり事業の計画がある
  • 4. 水害に強い高台の避難場所が必要

荒川右岸⼩松川地区のスーパー堤防は、荒川と旧中川に挟まれた地区で、1979(昭和54)年から開始された再開発・防災拠点整備と一体で進められている。⼩松川地区は、低地で軟弱な地盤のうえ、住宅、商業、工業地が混在し、防災上課題が多かったが、スーパー堤防、再開発、千本桜の各事業を一体化して進め、ほぼ完了している。東京都、公団、⺠間等と連携し整備したことに対して高い評価を得た。(写真5、写真6)

⼩松川地区のスーパー堤防は延⻑約2.4km、堤防幅は約80〜150m、面積は約25haである。⼩松川千本桜整備も⾏われ、春には多くの人々が花⾒に訪れる美しい景観をつくり出している。

  • 写真5)荒川右岸スーパー堤防・小松川地区 再開発・防災拠点(施工前)
  • 写真6)荒川右岸スーパー堤防・小松川地区 再開発・防災拠点(施工後)

写真5・6)荒川右岸スーパー堤防・小松川地区 再開発・防災拠点(左:施工前 右:施工後)

5. 今後の課題とハザードマップの活用

図2)江⼾川区洪水ハザードマップ図2)江⼾川区洪水ハザードマップ

江⼾川区の水害克服対策を⾒てきたが、今後は水害単体だけでなく、地震と高潮・洪水による複合災害を想定する必要がある。地震によって堤防や防潮堤が損傷し、修復前に高潮・洪水が到来することも想定される。避難以外に選択肢はないが、住⺠にどう伝えるかも課題である。台風の場合には逃げるという選択ができるが、震災後であれば橋や高速がどこまで使えるかなども把握しておく必要がある。

また江⼾川区においても、区⺠に水害に関する情報を提供し、事前に役⽴ててもらうことを目的に、浸水の予想される区域や浸水の程度、避難などの情報を記載した「江⼾川区洪水ハザードマップ」(図2)を作成し、ソフト面での防災も充実させている。

水害などの⾃然災害に対しては、緊急時に対する日頃からの備えが重要である。家族間で⾃宅周辺の地理や避難場所の確認、避難時の⾏動の話し合いに活用して欲しい。

寄稿
資料・画像提供
取材協力

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