2015/08/27
平成27年6月、荒川下流のタイムライン(事前防災行動計画)が策定され、全国で初めて、鉄道の事前運休や区をまたがる広域避難が盛り込まれた。台風などで荒川が氾濫した場合を想定して作られたもので、東京・銀座が冠水したり、地下鉄が運行できないなどの甚大な被害が想定されている。東京・北区の堤防が決壊した場合、東京の広い範囲が浸水し、内閣府の試算では、死者およそ1000人、鉄道も地下鉄など17路線97駅が浸水するとみられている。台風や昨今の集中豪雨に対して、今後タイムラインは全国に拡大していく予定であるが、東京メトロにも大きく関わる問題である。
前回の耐震対策に引き続き、浸水対策を中心に、東京メトロの危機管理について詳述する。
従前からの浸水対策設備として防水壁、防水ゲート、換気口における浸水防止機、防水扉、止水板がある。
【防水壁】
坑口の左右に設置された鉄筋コンクリート製の壁で、外側からの浸水を防ぐ。写真は、千代田線北千住坑口の防水壁。
【防水ゲート】
トンネル内及び坑口にゲートを設置し、都心側への浸水を防ぐ。左上の写真は丸ノ内線御茶ノ水~淡路町駅間の坑口に設置されている防水ゲートで、線路下を流れる神田川の増水の際にこれを閉扉する。
【浸水防止機】
地上の換気口からの浸水を防ぐもので、一部の換気口を除き浸水防止機が設置されている。大雨洪水警報の発令により、総合指令所から駅や関係区にこれを閉扉する指令が出され、年間ではそれなりの頻度になる。
【防水扉】
防水扉は隅田川以東の低地にある駅出入口に設置されている。道路より階段を上り、その後改札口に下るという設計がされている。階段である程度の浸水を防ぐが、それ以上に達した場合には防水扉を閉めることにより完全止水する。
【止水板】
最も簡易な設備で、出入り口に堰を作り浸水を防ぐ。平常時は出入口付近に格納されている。
新たな浸水対策の前提は、2010年4月に最終報告がなされた中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」のシミュレーションと東京都建設局河川部の「洪水ハザードマップ」の2つを兼ねあわせ、どちらか高い方の浸水想定に対応できる対策を取ることとしている。
中央防災会議では、荒川堤防決壊時を想定しており、東京メトロの路線に最大の被害を及ぼすのは北区志茂付近で決壊するケースで、千代田線・日比谷線北千住や南北線の志茂付近では浸水が最大5mを超えるという想定で、その浸水高、水圧に耐えられる新たな浸水防止設備の検討をしている。
東京都のハザードマップでは、通常山の手と呼ばれる高台の地域でもかなりの浸水がある可能性を示唆しており、中央防災会議の被害想定と併せ、両面から浸水対策を検討している。
図5は、浸水対策の模式図である。地下鉄には地上から浸水する経路が図に示すようにあり、その全てに浸水対策を計画している。駅については、自社の出入口が607箇所、また他社の請願ビル入口が329箇所あるが、そのうち浸水対策が新たに必要なものが自社の出入口で248箇所、他社の請願ビル入口で164箇所、合計412箇所となっている。出入口以外にも建物接続口、他社ビル接続口、非常口、連絡口、換気塔、換気口、坑口など浸水経路は多岐にわたる。
地上部の変電所や通信室などにある電気設備が浸水すると電車の運行自体に大きな影響が出るので、これらの施設の浸水対策も実施している。
(1)東京メトロ浸水対策で優先すべき路線/区間として、路線の構造的な特徴もふまえて検討している路線は以下の通りである。
1. 主要なオフィス・商業地域を繋ぐ「銀座線」「丸ノ内線」
2. 上記2路線を環状的に補完する「副都心線」
3. 郊外からの輸送を確保する放射区間
オリンピック開催を見据え、上記区間に加えて各種競技施設等に近接する「東西線」「有楽町線」の整備が望ましい。
(2)トンネル間浸水が起こると折返し区間が限定される。「日比谷線」「半蔵門線」は勾配差が小さく、トンネル間浸水が広域に渡り、折返し区間を確保することが困難な状況である。しかし「千代田線」「有楽町線」「南北線」は浸水対策区間を設けることで相当の折返し区間を確保することが可能となるため、重点的に整備をすすめる予定である。
(3)整備計画(Stepとネットワーク構成)
Step 1(〜2015) :他工事に合わせて整備している箇所
「東西線」中野〜高田馬場 「有楽町線」和光〜池袋
Step 2(〜2018) :浸水高の高い駅+「銀座線」+「丸ノ内線」を整備
Step 1+「銀座線」、「丸ノ内線全線」、「千代田線」綾瀬〜湯島
Step 3(〜2019) :「副都心線」+オリンピック重要区間
Step 2+「東西線全線」、「有楽町線」
Step 4(〜2022) :「千代田線」/「南北線」の放射区間+残りの駅
全線完了
(4)新たな止水設備の開発
浸水高1.5m以下では止水板の重量や持ち運びの課題、1.5m超えでは視認性や道路占用面積拡張などの課題があり、新たな止水設備の開発を行った。結果、浸水高1.5m以下では軽量型の止水板を採用。1.5m超えでは、新たな設備の特徴をふまえ、現場状況に合わせて採用していく予定である。
(5)ソフト対策
・避難誘導の円滑化
浸水の恐れがある場合、迅速かつ確実な避難行動が可能になるよう、関係する規則の制定や改正を行った。全駅において、平成25年7月に改正された水防法に対応するため、避難確保・浸水防止計画を策定中である。
・体制の維持・強化
火災や地震等に加え、水害を想定した避難誘導等に関する教育・訓練の実施。
・駅出入口の海抜表示
乗客に日頃から水害時における行動について意識してもらうため、駅の出入口にその地点の海抜値の表示を開始。現在他業者が管理する出入口へ表示するための協議を進めている。
2003年2月18日に発生した韓国大邱(テグ)市の地下鉄放火事件を受けて改正された火災対策基準に基づき、大火源火災への対策として、
(1)二方向の避難経路の確保
(2)排煙機の容量増量
(3)二段落しシャッターの設置
(4)蓄光式の非常口表示(床に埋め込等)
(5)車両客室天井材の耐燃性・耐溶融滴下性
(6)車両貫通扉の設置による延焼防⽌
等の追加設備により安全性向上に努めている。((1)(2)については基本的に完了)
・セキュリティカメラの設置
2007年度より整備をスタート、2010年度に他社管理駅を除き6,542台を設置完了。カメラはネットワーク化され、本社対策本部室及び総合指令所で映像が確認できる。画像は約1ヶ月間記録可能。カメラはセキュリティ対策として有効であると共に、乗降時の安全確認の面で大きな効果を発揮している。
・巡回警備の強化
サミット開催時には「見せる警備」として社員、警備員の配置を行った。オリンピックに向けたテロ防止対策については、「テロ」という言葉を前面に打ち出し難い日本の風土の中でどのように行うか、目下検討中である。
・透明ゴミ箱の設置
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