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建設つれづれ窓 シビルエンジニアとして活躍する渡辺泰充氏による建設現場でのつれづれエッセイ

第5回 近視眼的リーダーシップ論

2016/08/30

前回テーマ「人を育てるということ」の続編を書こうと思う。人は組織で育つ。組織にはリーダーが必要である。そして、組織にいるメンバーには「フォロワーシップ」が必要である。多くの場合、人は時にフォロワーとなり、時にリーダーとなる。

私自身、組織の長となり部下の数が増えてくると、リーダーとしての理論武装が欲しくなった。頼るところは本であった。「組織」とか「リーダー」という言葉のある本は、手当たり次第に読んだ。写真は、その頃の本を試みに集めてみたものである。われながら数の多さに驚いたが、これだけの本を読んだ私の結論は、「本ではリーダーシップは身につかない」であった。

今、リーダーシップという言葉はあまりはやらないようである。が、われわれは人との関わりなしに仕事をすることはできない。はやりすたりに関係なく、リーダーシップ・フォロワーシップについて考えないわけにはゆかない。以下、すでにリーダーの方はもちろん、これからリーダーになる方に贈る、個人的体験に基づくリーダーシップ「私」論である。

第1回目で紹介したように、社会基盤学専攻の大学院生を相手に講義を行ったことがある。授業名は、「Engineering and Management in Infrastructure Development」。私の経験を題材にケースを作り、学生達に討議させるというのが基本スタイルであった。最終講義のテーマは「リーダーシップ」にした。受講生は半分留学生、半分日本人である。遅かれ早かれそれぞれの国のリーダーになってもらうべき人たちに、考える機会を与えたいというのが私の目論みであった。そこで、いろいろなスタイルのリーダーを紹介した。選定はまったく私の好みである。ご存知の方も多いと思うが、以下簡単に説明を加えておく。

鹿島守之助:鹿島建設中興の祖。社長就任時「事業成功の秘訣二十カ条」を制定し、再建にあたった。曰く、第一条「旧来の方法が一番いい」という考えを捨てよ、第二条 絶えず改良を試みよ、「できない」といわずにやってみよ、第三条 有能なる指導者をつくれ、・・・第二十条 仕事を道楽にせよ、まで。いわば、改革型リーダーである。

本田宗一郎:ホンダ創業者。「チャレンジしての失敗を恐れるな。何もしないことを恐れろ。失敗が人間を成長させると私は考えている。失敗のない人なんて本当に気の毒に思う。困れ。困らなきゃ何もできない。自分の力の足りなさを自覚し、知恵や力を貸してくれる他人の存在を知るのもいい経験である」。名参謀藤沢武夫の存在も併せて紹介した。

西岡常一:法隆寺大工。「建築は大勢の人間が寄らんとできんわな。そのためにも『木を組むには人の心を組め』というのが、まず棟梁の役割ですな。職人が50人おったら50人が私と同じ気持ちになってもらわんと建物はできません」。弟子には何も教えないが、弟子を思う気持ちが並大抵でなかったことを学生には伝えた。

清宮克幸:元早稲田大学ラグビー部監督(2001-2005)。当時長期低迷していた部を率い、就任二年目で大学日本一になった。「おまえらの欠点は、ここと、ここと、ここだ。だからこれができるまで練習しろ。とにかく俺の言うとおりやれ。そうすれば絶対勝つ」。

中竹竜二:元早稲田大学ラグビー部監督(2006-2010)。清宮監督の後任。「俺は、何もしない。自分で考えて、自分で練習しろ。俺のやることは、不満や愚痴を聞くことだけだ」「組織の中では圧倒的にフォロワーの人数が多い。だから、いかにフォロワーが組織の中で成長し、組織に貢献できるのかということを考えることである。フォロワーシップがしっかりしていれば、だれがリーダーであっても組織は機能し、進化し続ける」。彼も、就任二年目で大学日本一になった。

山田昭男:未来工業(株)創業者。同社は「日本でいちばん社員のやる気のある会社」として有名。ノルマなし、残業禁止、報・連・相禁止、年間休日140日+有休40日、定年70歳(給与は下げない)、女性社員は子どもを生んだら三年間の育児休暇などなど、社員がやる気を出すようにすれば経営は安定するという哲学である。創業以来赤字なし。

宮間あや:なでしこジャパンキャプテン(2012‐)。「自分の中で一番自信があるのはサボらずにやってきたこと」。2015年W杯準優勝の後、こう言った。「最高の結果は出せなかったが、やることはやったので本当に仲間を誇りに思う」。自身は120%の努力を重ね、仲間思いで隅々まで気配りの行き届いたキャプテンであった。

その上で、学生たちに、(1)どのリーダーの下で働きたいか、(2)どのタイプのリーダーになりたいか、を聞いた。学生たちの反応は興味深いものであった。(1)は、圧倒的に本田宗一郎と山田昭男に集中し、(2)はほぼ全員にばらけたが、一位山田昭男、以下、宮間あや、鹿島守之助、本田宗一郎と続いた。

私の伝えたかったのは、リーダーシップに決定的なものはない、世の中の状況、組織の成熟度・機能、メンバーの経験・能力などによって違ってしかるべきだということである。その上で、リーダーシップの源泉(=人はなぜリーダーに従うか)に関する「渡辺理論」を紹介した。もちろん理論的根拠は何もない。私の感覚である(図参照)。

地位の力でリーダーシップを発揮するのは「最低」、メンバーとコミュニケーションが取れて「普通」、あの人の言うことに間違いはないと思わせて「優」、さらに明確なビジョンを示して「秀」、最上位は人徳によるリーダーシップである。最上位には、(別の授業でも取り上げた)廣井勇、青山士、宮本武之輔、八田輿一らが位置する。これから世に出るシビルエンジニアの卵たちに、彼らを目指せというメッセージを贈ったつもりである。

さて、読者諸氏、どこを目指されるか?

図)リーダーシップの源泉とリーダーのレベル

図)リーダーシップの源泉とリーダーのレベル

著者プロフィール
渡辺泰充さん

渡辺泰充:1948年生まれ。1971年清水建設(株)入社。2000年土木技術本部長。2010年同社退職。ベトナム・南北高速道路ホーチミン-ゾウザイ間レジデントエンジニア、2014年東京大学大学院社会基盤学専攻特別顧問、2015年ベトナム・ベンルック-ロンタイン高速道路JICA区間プロジェクトマネージャー。同年末退職。

おもな著作:「疑問に答えるコンクリート工事のノウハウ」(共著、近代図書)、「つれづれ窓」(東京図書出版会)、「サイゴンつれづれ窓」(「橋梁と基礎」連載)、「土木工学実践講座」(非売品、東京大学コンクリート研究室)

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