2015/02/26
集合住宅建設における工事監理者の業務を主体とした「現場監理の達人 集合住宅編」では、全37回にわたり工種ごとの工事監理のポイントについて、専門用語の解説や事例写真を使いわかり易く解説しています。工種別のチェックリストもPDF形式でダウンロードできますので、ぜひ業務に活用ください。
工事監理の役割は「工事と設計図書の照合及び確認」ですが、設計図書の配置と設計GLを現地で確認することは、最も重要な工事監理の1つになっています。特に設計図書と現地に差異があった場合には、現地で位置を決定しなければなりません。建築基準法を満たすだけでなく、隣地や道路との関係、敷地の高低差、排水勾配など、総合的に判断しなければなりません。
建設業者は現地にて、敷地境界線からの建物の位置を出し、設計GL及び建物のレベルを決め、工事監理者から承認をもらい着工します。杭工事や根切工事が始まってから位置の修正は困難になります。また、工事中に定めた墨が移動してしまう危険があるので、再確認ができるように逃げ墨を設定します。工事監理者も逃げ墨が正しく設定できたか確認しておくようにします。
解体工事がある場合には、解体が終わり更地になった状況で建物の配置を出します。この段階ではミリ単位の精度は求めずに、ひもや糸を使って建物の輪郭を示します。設計図書とおりに配置されているか、近隣や道路付きなどを見て、配置上の問題がないか確認します。
縄張りは「地縄」ともいい、もともとは縄を張って建物の配置を示したところからきています。縄張りは自分の領分を示す言葉にも使われています。
縄張りは、鉄筋や木杭を地面に打ち込み、ビニールひもや水糸を張って、建物の輪郭を示し、敷地との関係を確認します。
相隣関係の民法の規定は、工事監理者として理解しておくことが必要です。隣地からの離れについては民法で50cm以上の距離が定められています。ただし、防火区域の耐火建築物のように、境界ぎりぎりまで建築が認められている地区もあり、慣習に従うという条文もあります。
隣地へのプライバシーの配慮についても民法に定めがあり、他人の宅地を見通すことができる窓やバルコニーについて、1メートル未満の距離においては目隠しが求められています。ただし、マンションのように高層になって、上方から角度的に覗けない状況であれば目隠しは必要ありません。不透明なガラスを使った場合は、引き戸では開ければ覗けるので不可で、固定式のフィックス窓であれば可です。
地縄を工事監理者と施工業者で確認しています。
境界から地縄までの距離を確認しています。
施工者が境界を間違えないように、工事監理者は現地で境界石を一緒に確認します。境界石によって敷地が確 定していることが必要です。境界石はさまざまの形状があり、次にそのいくつかを例示します。
矢印で位置を示している
鋲で位置を示している
十字の中央が境界の位置
プレートを張って位置を示している
境界石の確認は設計段階で実施し、確認申請時には敷地面積を確定しています。しかし、境界石が不明なまま暫定的に進めてしまった場合には、施工段階で境界査定が必要になる場合もあります。
境界石の位置は財産に係ることなので、土地家屋調査士などの第三者に依頼し、権利関係者の立会い、了解のもとに境界石を入れる必要があります。境界が確定することで、地積測量図が作成でき法務局に登録できます。
なお、権利者の了解をとらずに境界石を勝手に移動したりすると、刑法上の違反になります。
隣地との敷地関係を確認します。高低差がある場合には、その納め方を検討しておきます。また、雨水は低い方へ流れていきますので、隣地へ迷惑をかけないような配慮が必要です。
斜線制限に合わせて、建物をセットバック(斜めに後退)しています
敷地のレベル測量の結果から、設計図書で設計GLが定められています。工事監理者は施工者と一緒に、現地で設計GLの位置を確認します。設計GLと建物の1階床レベルの関係は、道路からのアプローチの高低差、建物からの排水勾配などに関係しますので、問題がないことを現地で確認し、工事監理者が承認します。
また、建築基準法上の斜線制限や高さ制限がぎりぎりの設計では、設計GLと建物の1階床レベル差を大きくするなどの変更をした場合に法的確認が必要です。
ぎりぎりの設計の場合に、配置やレベルの移動で斜線制限にかかってしまうと、法的にアウトになってしまいます。
設計GLは道路境界の縁石上や道路上などに設定されますが、そのようなものは工事中に動いたり壊れたりする可能性があります。そこでレベル墨や通り芯墨の適正が確認できるように、動かない場所にベンチマークを設定します。
ベンチマークはレベル墨の場合には、動かない電柱やビルの基礎などに印をつけて、確認が必要な場合に使います。あまり大きく墨付けすると、クレームにつながるので注意が必要です。
工事監理者、施工者でベンチマークを確認しています。
マンホールの中央を設計GL-300としました。
ベンチマークを、動かない電柱に移しました。
設計GL+1300のレベル墨を確認しました。
遣方は、現地に建築物を建てるために、ミリ単位の精度で位置を出します。隣地境界線からの離れも、正確な寸法が出ます。設計図書の配置図の寸法を確認します。工事監理者の承認で建物の配置が確定し、その位置に建物が造られますので、この段階で問題がないように慎重に確認しなければなりません。
遣方の通り芯の墨についても、掘削工事などで不明にならないように、逃げ墨を出しておきます。道路に鋲を打ったり、不動なものに印を付けたりします。そのようなものがない場合には、杭を打って釘で位置を示し周りを囲って保護したりします。
工事監理者と建設業者で遣方の確認をしています。
境界からの離れは600であることを確認しました。
誤って動かすことがないように、周囲をモルタルで囲って管理している例です。
道路に鋲を打って、通り芯の逃げ墨にしています。
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