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2021/03/30

『地域社会を支える建設業および建設技術者の現状と課題』に関する調査研究
~「働き方改革」「生産性革命」
「i-Construction」の推進の現状と課題~

コンコムを運営している一般財団法人 建設業技術者センターでは、良質な社会資本整備の前提条件である建設技術者の確保・育成に寄与することを目的に、建設技術者及び建設工事の施工管理に関する調査研究を行っています。この度、令和元年度から2年間にわたって行った「地域社会を支える建設業および建設技術者の現状と課題」に関する調査研究結果をとりまとめ、報告書を作成するとともにセンターのホームページに掲載しました。
現在、国土交通省を中心に喫緊の課題とされている「働き方改革」「生産性革命」「i-Construction」の推進。これらの改革が、地域社会を支える地方の建設企業や技術者において、どのような現状にあるのか?どのように捉えているのか?全国展開している総合建設会社の進捗との乖離はないのか?等、若手経営者や監理技術者に直接取材し、地方の建設企業の抱える課題を整理しています。

【調査の概要】
◎調査目的/「働き方改革」「生産性向上」「i-Construction」の推進、「新・担い手三法」への対応、「新3K」実現への取り組み等について、地方の建設企業と技術者が直面している課題を聴取し、現状を把握するとともに、課題の掘り起こしと今後の方向性を整理する
◎調査期間/令和元年12月~令和3年3月
◎調査対象県/新潟県、大分県、栃木県、高知県、静岡県、宮城県
◎取材対象者/各県の建設業協会から推薦された会員企業の若手経営者、監理技術者、若手・女性技術者
◎主な取材テーマ/週休2日制実施・長時間労働の現状と課題、担い手確保、建設業の魅力、ICTの活用、BIM/CIMの活用、施工時期の平準化、女性技術者の活躍 等

以下、当報告書にまとめた、各取材テーマでの主な意見と対応策の方向性を抜粋して掲載します。

【主な意見と対応策の方向性】

○週休2日制の実施(現状と課題)

  • ・週休2日制を実施できている企業は一握りである。ほとんどの企業が4週6休から先へ進むことに苦労している。
  • ・技能労働者は日給制が多く、必ずしも休日の増加を望んでいないことが多い。
  • ・発注者の調整未了などにより工期が短くなるため、週休2日のスケジュールを組めない。

●対応策の方向性

  • ・週休2日制に従事する技能労働者の給与を、4週4休や4週6休と同等の給与に維持するための適切な積算。
  • ・発注者による「工期に関する基準」遵守の徹底。
図1 休日形態(実態と望ましい休日形態)(出典)国土交通省 図1 休日形態(実態と望ましい休日形態)(出典)国土交通省

○長時間労働(現状と課題)

  • ・発注者への提出書類は減ったが、提示する書類が多く、書類作成に時間を取られている。
  • ・ASPや遠隔臨場は、書類持参時間や待ち時間が不要になり効果が高い。
  • ・令和6年度から建設事業にも適用される、罰則付き時間外労働上限規制に関して、特に監理技術者、若手技術者の認識が十分ではない。

●対応策の方向性

  • ・作成書類の簡素化。
  • ・監理技術者、若手技術者と現場監督員、監督補助員とが一体となった長時間労働の是正へ向けた取り組み。
  • ・ASPや電子小黒板、遠隔臨場等の長時間労働を是正できるツールの積極的な活用。

○担い手確保・建設業の魅力(現状と課題)

  • ・厚生労働省と国土交通省が連携して、若者や女性の建設業への入職や定着に取り組んでいると思う。
  • ・学生時代から週休2日制に慣れている若者は、建設業への入職を敬遠する傾向にある。
  • ・給与が低い、休日が少ないことが離職率を高めている。

●対応策の方向性

  • ・ICT活用の推進。労働生産性の向上とともに、担い手確保の方法としてのICT活用。
  • ・給与と休日の大幅な改善。
  • ・若手技術者の交流の場の設置。

○ICTの活用(現状と課題)

  • ・直轄工事を受注している企業と、主に地方公共団体の工事を受注している企業では、ICT活用の推進に差がある。
  • ・ICTを内製化している企業は少ない。
  • ・簡易型ICT活用工事制度は、ICTに取り組みやすくなることから好評である。
  • ・ICTに最初に取り組む時は、赤字になるリスクが大きいため、小規模な工事で実施する方が好ましい。

●対応策の方向性

  • ・小規模な工事でも受注者が適正な利益を得ることができる積算方法への改善、及びICT活用に適さない工事の整理。
  • ・ICT施工の導入に関する補助金、融資制度などのさらなる周知。
  • ・ICT活用工事の監督・検査を行う発注者職員のICT活用に関する研修の実施。
  • ・入札公告時からの3次元データによる契約図書の提示。
図2 平成29年度ICT土工対象工事 実施状況(出典)国土交通省 図2 平成29年度ICT土工対象工事 実施状況(出典)国土交通省

○BIM/CIMの活用(現状と課題)

  • ・現状、BIM/CIMに取り組んでいる企業はほとんどない。
  • ・国土交通省が示している「令和5年度(2023年度)以降、国直轄工事においては小規模なものを除き原則BIM/CIMを適用する」というスケジュールに対応しようとしている企業はほとんどない。

●対応策の方向性

  • ・計画段階、設計段階からのBIM/CIM適用の速やかな拡大、及びその実績の公表。
  • ・BIM/CIM活用工事の監督・検査を的確に行える発注者の育成。
  • ・受注者が準備すべきBIM/CIMソフトの仕様や具体の適用ソフトなどの明示。

○施工時期の平準化(現状と課題)

  • ・国、県とも施工時期の平準化に取り組んでいるが、市町村は進んでいない。
  • ・秋や年末に繰越を認めている県や、工期と発注時期の関係から、当初から年度をまたいだ工期発注を行っている県もある。

●対応策の方向性

  • ・契約上の工期ではなく、「工事着手できない時期を除いた実質的な工期」を基にした工期の算出。
  • ・舗装工事等の、年度末に工事が集中する工事に特化した平準化数値の算出。

○女性技術者の活躍(現状と課題)

  • ・育児などで休暇や時短勤務が発生する場合、監理技術者や現場代理人として現場で働くのは難しい。
  • ・トイレ、更衣室等の環境づくりは大事。
  • ・建設業協会において「女性技術者の会」の活動を支援する取り組みも行われている。

●対応策の方向性

  • ・女性技術者が現場に何を本当に望んでいるかをしっかりと聞く必要がある。
  • ・時短勤務でも現場で働けるような監理技術者等の制度改革や、会社からの手厚いサポートの実施。
  • ・結婚、出産、育児期間も含めた、女性が長く活躍できるビジョン、ロードマップの明示が必要。

○監理技術者の専任緩和と主任技術者の配置義務の合理化等(現状と課題)

  • ・制度(令和元年6月 建設業法改正)について、監理技術者が十分な理解をしていない。
  • ・経営者には好評だが、監理技術者には負担が増えるおそれが大きいとの意見が多数。
  • ・若手の育成につながるとの意見もある。

●対応策の方向性

  • ・企業の期待は高いものの、手探りの状態であるため、今後、効果を発揮した良い事例が広く周知されることが重要。
  • ・監理技術者の負担が大きくなり、長時間労働につながるリスクもあるため、会社のサポート状況や監理技術者の労働時間の把握なども含め、実績の調査分析が必要。

○雪国の現状と課題(現状と課題)

  • ・降雪量の少ない地域、特に都市部の企業は除雪業務に負担を感じている。
  • ・待機、拘束費用等の採算性や、厳しい労働環境・処遇による人員不足や高齢化等の課題から、除雪業務を維持できなくなると感じている企業も多い。

●対応策の方向性

  • ・除雪業務は昼夜関係なく長時間続くため、災害復旧と同じく、時間外労働上限規制の対象外とするための諸手続き等の簡素化。
  • ・降雪が続くことによる作業員確保の難しさを反映した、柔軟な工期の延伸、繰越手続き等の簡素化。

今回の調査研究を通じて、地方建設企業は、「働き方改革」「生産性向上」「i-Construction」の推進、「新・担い手三法」への対応、「新3K」実現への取り組みに関して、たくさんの課題を抱えていることがわかりました。一方、現地取材を通じて、こうした課題を克服し、積極的にICTの推進を図っている企業、週休2日制にチャレンジしている企業も少なからずあることもわかりました。
一般財団法人 建設業技術者センターのホームページに掲載している最終報告書には、地域社会を支える地方の建設企業の若手経営者や技術者の生の声を出来る限り具体的に掲載しています。
多くの皆様の参考となる意見、アイデアも掲載されていますので、ぜひご一読ください。

最後に、取材にご尽力いただいた各県の建設業協会、貴重なご意見をお聞かせいただいた皆様に厚く御礼を申し上げます。

 

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