3)既製杭
2015/04/23
水処理施設を新しく築造する工事で、中堀り根固め工法によりPHC杭を施工した。杭の仕様は杭径φ800mm(杭内径φ580)、杭長L=32.0m(下杭11m、中杭11m、上杭10m)、沈設長Ld=36.0mである。なお、中堀りオーガスクリュー外径はφ520である。施工地盤は、GL-5.0mまで盛土、GL-25.0mまではN値2~4のシルト層、GL-35.0mまではN値18~20の細砂層、それ以深はN≧50の支持層(砂層)となっていた。地下水位はGL-4.0mであった(図-1)。
上杭を継ぎ、盛土下のシルト層と細砂層の境界であるGL-25.0m付近を沈設中に杭体下方からコンクリートが破裂したような音が響いた。このため、杭体破損の可能性があるものと判断し杭を引き上げ確認したところ、下杭に長さ4m程度の縦ひび割れ(最大ひび割れ幅15mm)が生じていた(図-2)。なお、杭体の引き上げは、油圧拡大方式の掘削先端ビットを杭径と等しくなるまで拡翼し、杭を下から支えながら持ち上げる方法をとった。
引き上げた杭体からスパイラルオーガを引き抜いて調べた結果、掘削土砂が先端付近から2.5m程度の長さで付着し、目詰まりを起こしていた。粘性の高いシルトがスパイラルオーガに除々に付着し、土砂が適切に上方へ排出されず、目詰まりを起こした状態で沈設を行ってしまったことで、杭体内部で大きな圧力が発生して縦ひび割れが生じたものと考えられた。
これを裏付けるように、オーガ駆動装置の負荷電流は、下杭・中杭沈設時は100~150A前後であったが、上杭を継ぎ沈設を再開してから負荷電流値が上昇し、300Aを超えていたことが判明した。軟弱なシルト地盤での施工で、適切な沈設速度も設定せず、掘削抵抗の変化についても十分確認せず施工してしまったことがトラブルの主要因であった。
その後の杭の施工は、掘削ビット先端から当初の圧縮空気に加えて水を吐出することで、シルト層の粘性を弱めることにした。水の吐出量は毎分100ℓ程度とした。さらに杭の沈設速度の上限値を0.8m/分に設定し、土砂の排出状況を確認しながら施工を行うことにした。掘削沈設中のオーガ駆動装置の電流値を確認したところ、常時100A程度で安定していた。掘削土砂も泥土化して、確実な排土を行うことができた。この結果、オーガや杭体内への土砂の付着が無くなり無事に施工を完了できた。
今回のトラブルは、地盤のN値が小さかったために中堀り沈設を安易に考え、掘削中の負荷電流値の増加をすぐに把握せず、沈設を続けたことに起因するものであり、十分な施工管理を行っていれば杭体の破損は防げた可能性が高い。施工中の負荷電流値の管理方法や、負荷電流が所定の大きさを超えた場合の対処方法等(水注入や沈設速度低減等)を事前に設定しておき、それに基づいて適切な施工管理を行うことが重要である。
粘性土については、地盤N値の大小だけでなく、コンシステンシーによる粘性の判断等も沈設の施工管理上重要な要素になる。さらに、土質柱状図はあくまでそのボーリング位置における調査結果であり、少ない調査結果に過度に依存し全体を見誤る場合もあるので、注意しておく必要がある。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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