2)盛土・軟弱地盤
2018/05/30
軟弱地盤上に施工した道路盛土で、竣工後1年間で最大20cm程度の不陸が発生した。盛土の沈下による不陸は、盛土内を横断する水路ボックスカルバート付近の短い区間で局所的に発生したため(図1~図3)、車の走行性等に支障があった。軟弱地盤は腐植土及び粘性土からなり層厚は約15mである(図3)。道路盛土の一般部についてはサーチャージ盛土(厚さ1m)による残留沈下低減対策を実施していた。
ボックスカルバート部の軟弱地盤対策としては、土量計画や工程の制約から、深層混合処理工法による地盤改良コラムが施工されていた(図2~図4)。
ボックスカルバートは、N値が30~50の砂質土層に定着させた地盤改良柱体で支持されているため、盛土による沈下はほとんど発生しない。そして、ボックスカルバートに隣接する盛土に関しては、サーチャージ盛土によって圧密沈下を促進させ、大きな不陸が発生しないよう考慮されているはずであった。
しかし、全体工期や施工ヤードの制約等から、ボックスカルバートの近接部は図5のような断面形状でサーチャージ盛土を実施せずに施工を進めた。そして、一般部のサーチャージ盛土の撤去と並行して、ボックスカルバート周囲の盛土を比較的急速に(平均15cm/day程度で)立ち上げたために、局所的な残留沈下が発生したと考えられる。また、ボックスカルバート近傍の盛土の法尻付近では、施工速度が速かったために軟弱層が地中で水平方向にはらみ出すようにせん断変形し(図6)、圧密による地盤の強度増加も十分でなかったために、残留沈下が大きくなったと考えられた。さらに、カルバート周辺盛土の締固め不足によって盛土自体の残留沈下量が大きくなった可能性もある。
対処方法としては、沈下による不陸の発生範囲が比較的局所的であることから、舗装のオーバーレイによる不陸修正工を実施した。なお、舗装厚を増加させると荷重増加による沈下の発生という悪循環に陥る懸念があったので、当該区間の沈下量の長期観測を継続した。その結果、沈下は既に収束傾向に入っていて、追加の補修工事等は当面必要がないと判断された。
道路土工指針1),2)等では、カルバートが軟弱地盤上に設置される場合には、プレロード工法によりあらかじめ地盤を沈下させ、有害な残留沈下が発生しないようにして、直接基礎とするのが望ましいとされている。また、地盤改良柱体や杭基礎で支持する場合には、盛土区間とのすり付け対策に十分に配慮する必要がある。
今回の事例は、これらの留意点を設計面では考慮していたが、施工工程等を充分に考慮した計画となっていなかったため、部分的にプレロードが不足し、トラブル発生につながった。したがって、同様の失敗をしないためには、具体的な施工手順に適した軟弱地盤対策を選定することが重要である。また、泥炭や腐植土等の有機質土は、一般に層厚や物性のばらつきも大きく、圧密沈下量の予測が難しいため、工期にある程度余裕を見込んだ計画とし、動態観測工を適切に計画し実施することが求められる。今回の事例では、必要最⼩限の沈下板や変位杭等を設置し動態観測を実施していた。しかし、盛土法尻部の地中変位計測は実施しておらず、図6に⽰したような軟弱地盤の地中での動きを把握していなかった点が問題発⽣の⼀要因ともいえるだろう3)。
なお、盛土の沈下対策の一つとして、不同沈下量を予め見越した「上げ越し」による対処方法(図7)4)も指針等に示されているので、施工条件によってはこれらの対策も検討すべきである。
1) 公益社団法人日本道路協会:道路土工-カルバート工指針(平成21年度版), 平成22年3月
2) 公益社団法人日本道路協会:道路土工-軟弱地盤対策工指針(平成24年度版),平成24年8月
3) 川井田実:地盤は患者,君は医者,地盤工学会誌,Vol.59,No.6,pp.4~7,2011
4) 東・中・西日本高速道路株式会社:設計要領第一集 土工 , 平成28年8月
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