現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

コンクリート工事

1)打設中(コンクリートの特性とクラック)

2020/03/30

竣工後にボックスカルバートの頂版にひび割れが発生!

工事の概要とトラブルの内容

路盛土部に施工した鉄筋コンクリート製のボックスカルバートにおいて、施工完了から約2.5年、工事竣工から約1.5年が経過した時点でひび割れが確認された、と発注者から指摘を受けた。ひび割れは、頂版コンクリートの中央付近に複数本、軸方向に発生していた。竣工時点ではこのようなひび割れは確認されていなかった。

ボックスカルバートは、延長約56mが5ブロックで構成されており、最大土被り厚は約11mである(図1)。また、ボックスカルバートの諸元は、内空高4,500mm、内空幅3,500mm、頂版・側壁厚650mm、底版厚700mm、1ブロック当たりの長さ11~12m、ブロック間の目地の幅は20mm、コンクリートの設計基準強度は30N/mm2である(図2)。

ひび割れ発生状況を詳細に調査したところ、いずれのブロックも頂版のみに、頂版幅の中央付近に軸方向のひび割れが発生していた(図3)。ひび割れ幅は0.3mm以下(ほとんどが幅0.2mm未満)で、ひび割れが最も多く発生していたのは3ブロックであった。ひび割れ幅の大きかった目地付近において部分的に鉄筋をはつり出して調査したが、鉄筋の腐食はなく、ひび割れ深さも30~50mm程度で、鉄筋かぶり厚さ80mm程度に比べて小さかった。また、夏季から冬季にかけてひび割れの経過観察をしたが、ひび割れの進行はほぼ収束していた。

なお、ボックスカルバート下部の盛土には特に地盤改良等の対策は取っていないが、上部の盛土の施工完了時にはボックスカルバートの沈下は収束していた。この時点で目地部の開きは若干確認されたものの、コンクリートの変状は確認されていない。

図1 ボックスカルバートの縦断図

図1 ボックスカルバートの縦断図

図2 ボックスカルバートの断面図

図2 ボックスカルバートの断面図

図3 ボックスカルバートの内面に発生したひび割れの展開図

図3 ボックスカルバートの内面に発生したひび割れの展開図

原因と対処方法

「コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針1)」を参考にしてひび割れの発生原因の推定を試みたところ、ひび割れのパターンによる分類からは、乾燥収縮や外部からの荷重の影響が考えられた。

外部からの荷重としては、今回は上載荷重が該当する。コンクリート標準示方書[設計編]2)に示されている曲げひび割れ幅の算定式を参照して、ボックスカルバートの断面に対して、上載荷重による頂版の曲げひび割れ幅を推定したところ、盛土(高さ11m)の上載荷重によるひび割れ幅は0.38mmであった。しかし、前述のように、工事竣工時にはこの盛土荷重によるひび割れは発生していなかった。

そこで、発注者に竣工後の状況等を確認すると、当該工事の竣工後、約半年が経過した頃から断続的に約1年の間、ボックスカルバート上部の路床上を他工事の工事車両(大型ダンプトラック)が多数通行したとのことであった。

これらのことから、主として盛土荷重による引張ひずみに加えて工事車両の荷重の影響が付加されてひび割れの発生に至ったものと考えられる。このことは、盛土高さの大きい2~4ブロックに多くのひび割れが発生していたことや、より乾燥の影響を受けやすい両端部(1ブロックと5ブロック)でひび割れがほとんど発生していなかったこととも一致する。つまり、設計段階においても想定することができた典型的な曲げひび割れであったとのことで、発注者の理解が得られた。

さらに、コンクリート標準示方書[設計編]3)に示される鋼材腐食に対するひび割れ幅の限界値0.005c(cはかぶり)は、頂版に関しては0.41mmと算定された。発生しているひび割れのすべてがこの限界値以下であり、補修は不要との判断で、こちらも発注者に了解された。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

今回発生したひび割れの幅は耐久性上の限界値よりも小さかったため、コンクリート内部の鋼材腐食に至る可能性は小さく、補修等は実施していない。今回のひび割れは設計上の想定範囲内のもの(主として上載荷重によるRC頂版の曲げひび割れ)であり、「失敗」に該当するものではない。しかし、コンクリートの使用材料や配合、施工状況(鉄筋かぶりが設計値よりも大きくなった場合や,コンクリートの締固めが不十分であった場合等)、風等の環境要因が重なり、ひび割れ幅を増大させていたら、補修が必要になり、施工上の不具合(失敗)として評価されたりすることも考えられる。

よって、発注者・設計者・施工者の間での無用なトラブル回避のためには、施工計画段階で発生するひび割れの幅を適切に予測し、施工に不備がなくてもひび割れが発生する可能性があることを共有しておく必要がある。さらに、ひび割れが発生した場合の対処法について事前に発注者と協議しておくことが望ましい。また、施工に当たってはひび割れの発生要因を極力無くすような対策と施工管理を実施することが重要である。

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

新着記事

現場探訪

2024/04/01

島根県の建設業の未来を創る。担い手確保と育成へ向けた、島根県土木部の取り組み。

日本における少子高齢化は、統計上も今後もさらに加速することが予想されており、これに伴う生産年齢人口の減少も、今後ますます...

現場の失敗と対策

2024/04/01
コンクリート工事 4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他) 水中コンクリートの打込み中に型枠がはらみ出し!

現場の失敗と対策

2024/04/01
コンクリート工事 4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他) 中掘り拡大根固め工法での既製コンクリート杭の低止まり

今月の一冊

2024/04/01

『現場代理人の育成ガイドブック【知識と実践】』

現場代理人の〝腕〟次第で、工事の生産性や安全性だけでなく、企業の利益や信用にも影響がおよぶ。だからこそ、現場代理人の確保と育成は、建設会社の発展のための...

建設ディレクター

2024/04/01

現場をバックオフィスで支える“救世主”~第一回 建設ディレクター協会・新井恭子理事長

罰則付き時間外労働の上限規制の適用が、建設業にも開始されました。まだ長時間労働の削減に取り組めずにいるのであれば、...

トピックス

2024/04/01

建設業の働き方改革に向けた近畿地方整備局の取り組み ~「受発注者コミュニケーションガイド」等の作成~

国土交通省近畿地方整備局は、今年(2024年)4月から「罰則付き時間外労働の上限規制」が適用されることを踏まえ、働き方の改革を促進するための「土木工事書類作成スリム化ガイド」...