
2026/01/05
新潟県新潟市に本社を置く水倉組は、大正2年の創業以来、「今日を築き、明日を拓く」をモットーに、県下全域で主に元請けとして、土木建築、舗装事業に取り組んでいます。土木部、建築部、舗道部で100名超の技術者を擁する同社でも、現場技術者の長時間労働の削減、DX推進による生産性向上は喫緊の課題となっていました。令和6年(2024年)当時、同県と同県建設業協会が全国に先駆けて建設ディレクターの資格取得に向けた補助制度を設けていたことが追い風となり、県内の建設ディレクター認定者数は全国第4位とトップクラス(建設ディレクター協会調べ)。業務改善へ陣頭指揮を執る小林秀一建設本部長も他社の導入事例を目の当たりにし、「とにかく早く」と建設ディレクター導入を決めたそうです。
そのタイミングで、市発注の橋梁(跨線橋)補修工事(後に国土交通省「働き方改革の促進モデル事業」に採択)を元請けとして受注。橋梁補修工事は、補修箇所の図面作成、工事数量表、写真台帳の作成に膨大な時間がかかることから、建設ディレクター協会との業務連携プログラム「TEAM SWITCH」を導入し、同工事をもって建設ディレクター活用が本格的にスタートしました。書類の一部を建設ディレクターに移管したことで、技術者の残業時間を1日あたり2時間程度削減したほか、ディレクターと現場間のコミュニケーションのオンライン化により現場技術者一人で1回あたり往復2時間の移動時間を削減。その時間を新人教育や変更協議のための書類作成等、高付加価値な業務にあてることができました。
同工事を契機に2024年7月に新設した「建設ディレクター・DX推進部」では、現在、現場技術者としての豊富な経験を生かしながらコーチ的役割を担う小柳昇次長のもと、4名の建設ディレクターがバックオフィス業務に従事しています。今回は、小柳次長、建設ディレクター第一号となった長井佳歩さん、清田周さん、小林紗菜さんのほか、土木部の小林龍平さんにもお話を聞きましました。
長井:県外にある文系の四年制大学を卒業し、「地域の人に役立つ仕事がしたい」との思いで就職活動をしていました。生活全般に直結し、直接的に地域の方々と関われる建設業界が「ベストな選択」だと思い、県内の別の建設会社に就職。土木部の一員として、施工管理に携わっていました。公共工事の受注から竣工までの流れを学びつつ、基本的な測量や写真の撮り方を身に着け、工事書類を見て勉強しました。その後、道路改良、河川・海岸、農地整備など多様な工事の施工実績がある当社で働いてみたいと思い、2022年に中途入社。入社後は土木部に配属され、1年半ほどの期間でしたが、工種によってどのような丁張をかければ作業できるかを考えて測量の準備ができるようになり、基本的な提出書類も一通り作れるようになりました。令和6年(2024年)の1月に建設ディレクターの資格を取得。同年7月に「建設ディレクター・DX推進部」に異動になりました。ほぼ同時期に一級土木施工管理技士の資格も取得しました。
清田:当社に入社して12年になりますが、2024年8月に建設ディレクターの資格を取得するまでは、阿賀営業所(新潟県阿賀町)で事務を担当し、現場技術者がいかに膨大な仕事を抱えているかを痛感する毎日でした。「なんとかしたい」と思っていても、私にできることが少なく、できる範囲内のお手伝いしかできませんでした。ところがこの数年で、徐々に事務系の仕事が電子化され、手が空く時間が増えました。特に負担の大きかった請求書作成の業務が一気に削減されましたが、今度は現場がその請求書の業務を担うことに。私がサポートできていたものがなくなってしまい、上司に「仕事をください」と相談していたところ、小林本部長からお声がけをいただきました。
小林(紗):今春、大学を卒業して、新卒で入社しました。地元で働きたいとの思いが強く、地域貢献できるかどうかを就職活動の主軸にして、インフラ関係の建設会社を訪ねました。当初は経理、総務の事務職を希望して当社の面接を受けましたが、最終面接で「建設ディレクターはどうですか」と小林本部長にお話をいただき、バックオフィスから現場を支えるという業務内容に興味をもちました。もちろん、「ぜひお願いします」と返事をしました。
長井:「建設ディレクター・DX推進部」に異動後は、施工計画書、施工体制台帳の作成のほか、変更図面の対応やドローン測量、ドローンを活用した点群データからの横断図作成なども担当しています。社内のDXを推進するため、様々な講習会や研修会に出席しながら、現場に導入できるDXツールはないか、常にアンテナを張っています。2024年10月からはSNS(交流サイト)を活用した情報発信も開始し、建設ディレクター全員持ちまわりで、日々の活動報告や各工事現場の工事概要などを投稿しています。
清田:阿賀営業所の事務職と兼務で建設ディレクター・DX推進部に所属しています。建設ディレクターとしては施工体制台帳の作成が主です。労務安全書類作成サービス「グリーンサイト」の入力のほか、建設キャリアアップシステム(CCUS)を使用する現場を開設する際に現場・契約情報の登録もします。今夏、無人航空機操縦士資格を取得したため、現場で長井さんの指導を受けつつドローン測量にも取り組んでいます。
小林(紗):施工体制台帳の作成、舗道部の写真整理やアルバムづくりを担当しています。現場で舗装工事を一から見て、一通りの流れを教わっています。また、事業所の事務担当に、リモートでTeamsを使って遠隔で業務を教えることも。
清田:営業所にいることもあり、現場との直接的なやりとりはしていません。「これをお願いします」と小柳次長の指示を受けて業務を進めますので、現場との摩擦のようなものを経験したことがありません。それは小柳次長のおかげだと感謝しています。
小柳:現場経験36年、これまで現場一筋でした。当時「書類は後まわし」とため込んでいたら、ちょうどその時に発注者が確認をしに来たり、監督員に対応する必要があったりと、そんなことも多々ありましたから、現場の負担感はよくわかります。現場からは様々な要望がありますが、全部の書類業務をこちらで引き受けていては、技術者が育ちません。出来形管理等の現場の核となる部分をこちらでやってしまうと、技術者の将来が心配になってしまう。ですから建設ディレクターが担当する書類業務は、最小限にとどめています。その線引きが鍵になりますね。そもそもSNSや社内向け説明会を通じて周知に努めてはいますが、いまだ建設ディレクターのイメージがつかめず、〝お手伝い〟係のようにとらえられがちです。本当に業務を理解している現場技術者は全体の3、4割程度にとどまっているのではないでしょうか。
小林(紗):建設業界の知識は全くなく入社しましたが、なんでも聞けば小柳次長、長井さんが中心になって教えてくれますし、建設ディレクター講座で学習した内容が非常に役立っています。業務の9割はデスクワークですが、現場にも見学に連れて行ってもらうので、その効果が大きいと思います。
写真8: 工業高校へ出張授業をする機会も。ドローンを操縦して点群データを取得するなど最新技術を体感してもらったり、建設DXとは何かを伝える資料を用意して説明したりと、「採用活動とまではいかないものの、学生に接することが刺激になる」と小林(紗)さん
長井:作成した書類を現場技術者に渡した際に、「ありがとう」「助かりました」と言ってもらえることにやりがいを感じます。異動前に現場に出ていた時には当然限られた現場しか見ることができなかったのですが、今は複数を俯瞰して見ることができます。今後の当社の方針を左右する重要な役割を担う部署、と言うと大げさかもしれませんが、現場の業務効率を向上させ、社員の皆さんの働き方がより良くなるように、「建設ディレクター・DX推進部」のチームワークを生かしてお手伝いができることにやりがいを感じます。
清田:事務職だとなかなか得られない、新しいものにチャレンジする機会、学びを実感できる機会が非常に多い。建設ディレクターの資格を得たことで、事務系の方に限らず、様々な方と触れ合える機会ができました。
小柳:国土交通省「働き方改革の促進モデル事業」にも採択され、小林(龍)が現場代理人を務めた「東土第33号 一般国道460号(夕映えの跨線橋)補修(その2)工事」では、建設ディレクター協会の指導のもと、工事写真整理、変更図・数量表作成と写真との照合、安全パトロールの写真整理、書類の清書、施工体制台帳の作成、安全教育・訓練の資料作成、マニフェスト数量の集計を、建設ディレクターの長井さん、清田さんの2名に移管しました。難易度の低い業務から移管したことで問題なく進み、現場技術者の平均業務時間を、従来の一日あたり10時間(残業2時間)から8時間(残業なし)まで削減することができました。
Teamsを活用し、業務指示や作業完了報告、確認依頼、資料共有などにおいて現場事務所と建設ディレクター間のコミュニケーションをオンライン化したことも非常に効果的でした。現場技術者1人で1回あたり往復2時間の移動時間が不要になり、合計で20時間もの移動時間を削減するなどの成果を上げました。来年度は全社員にTeamsのアカウントを付与して、各自スマートフォンからでも見れるようにしようと思います。
小林(龍):こうして削減できた労働時間は、発注者との設計変更協議など、高付加価値業務に充てることができましたね。施工前の事前調査で、図面の数量と全く違っていたことがあり、長井さんがそういった箇所の清書をしてくれました。また、施工期間中に新しく女性技術者が入社したため、新人教育にも削減できた時間を使うことができました。
ただ、教育という点でいえば、書類作成業務についてはむしろ建設ディレクターから経験の浅い技術者に教えてもらうのも良いのではないでしょうか。建設ディレクターの皆さんが作ってくれる施工体制台帳は、とても上手くまとめられていて感心することばかりですから。長井さんでいえば20回以上も修正のやりとりをしてくれたこともありました。グリーンサイト、CCUSでも何か不明点があると、清田さんが「ちょっと待って!調べます!」といってその場で顔を突き合わせて調べてくれる、そうした熱意も、若手技術者によい影響を与えてくれるはずです。
我々技術者は、日々担当している現場で頭がいっぱい。他の現場の状況を見ている余裕がありません。そんな中でもInstagramの投稿は、他現場の最新情報を得るツールとして有効です。直近であれば、車両の乗り入れができない保安林内高所作業での入念なクマ対策など。投稿にはデザインや色使いにこだわりが感じられ、いわゆる〝現場の見せ方〟に感心しています。
小林(秀): 当社工事の受注ベースは土木 5、建築4、舗装1割程度。土木・建築あわせて15現場、舗装事業を含めると常時20現場ぐらいが稼働しています。全現場を担当してもらうとなれば、建設ディレクター6、7名の体制が理想です。今後徐々に増やしていく上で、建設ディレクターによる支援体制をいかにスムーズに拡大していくかを考え、建設ディレクターが担当する各業務のマニュアルを作成しています。(小柳さんも課題として挙げていましたが)、建設ディレクターに何をさせて、何をさせないのかをきちんと定義して運用していくことが重要。マニュアルがあれば、教える内容の標準化や、メモにかかる時間の短縮という効果も得られ、教える側と教わる側双方の負担軽減が見込めます。内容は社内にも公開していませんが、随時更新してブラッシュアップしています。
小柳:ある現場では、技術者から土量計算の依頼がありドローン測量したところ、測量対象の盛土が比較的小規模だったからでもありますが、現場での滞在時間はわずか10分。ドローンで撮影した写真を国産クラウド型ドローン測量サービス「KUMIKI」にアップロードし、トータルわずか半日で、土量計算結果を導き出すことができました。
また、iPhoneとGNSSレシーバーで取得した位置情報を組み合わせて短時間で高精度の測量ができる3次元測量アプリを導入すれば、現場未経験、入社3か月ほど(当時)だった小林(紗)さんも点群データの取得、体積計算ができました。ICTツールについてメンバー全員で勉強し、多現場をバックアップすることで技術者の悩みを解消できているのではないでしょうか。
長井:最近では将来のことを考えるようにもなりました。もし出産育児とライフステージが進んだ場合、工事に関わりながら働き続けることができるだろうか。漠然とした将来への不安も、建設ディレクターという新しい職域によって明るくなったような気がします。今後も建設ディレクターがサポートする工事を増やして技術者の負担を軽減することはもちろん、将来的にはBIM/CIMにも対応できるようにスキルアップしていきたいと思います。
清田:まだ「現場の役に立っている」と実感できたことはありません。加えて、「建設ディレクター・DX推進部」が社内に浸透しておらず、建設ディレクター、DXと言われても「?」の技術者も多い。「建設ディレクター・DX推進部」があるから会社全体がうまくまわっている」と思ってもらえることが目標です。長井さんに頼り切りの現状に甘んじることなく、私が教える立場になれれば。
小林(紗):長井さんの業務を見ていると、点群測量のあとに図面にするCADを使う作業が多いと感じます。それを自分が習得することでDX部全体でできることを増やし、長井さんの負担を少しでも減らしたいと思います。
今年10月には建設ディレクター全員で考案した同部のマスコットキャラクター「みずくる」もお目見え。ミミズクをモチーフに、「みずくら」と「来る」を掛け合わせ、建設ディレクターが「困ったときにいち早く駆けつけてくれる頼りになる存在」となれるように、の意を込めたそう。一方、技術者育成という重要性も念頭に、あくまで「建設ディレクターは現場の〝お手伝い係〟でも補助者でもなく、専門職である」ことを小柳次長がしっかりと各現場にメッセージとして発信し、現場経験に基づいて依頼業務を選別していることが、建設ディレクター定着を促す鍵だと感じました。令和5年(2023年)には創業110周年を迎え、近く新社屋が完成する予定という同社。小林本部長は「完成して他の部署と同じ空間を共有できれば、全社的な意思疎通ももっと活発になるはず」と期待を寄せます。
現場の失敗と対策
コラム
建設ディレクター
今月の一冊
2026/01/05
約20年間、建築工事の現場監督として、全国の現場で延べ10万人以上の職人と苦楽を共にしてきた著者。日々目まぐるしく変わる現場環境で、リーダーとして成長する姿が生き生きと...
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