〈建設ディレクター
  現場を支える新しい働き方〉

2026/03/02

若手発の建設DX/
建設ディレクター個々の強みで施工効率化/魅力発信、採用力強化にも

香山組(兵庫県尼崎市)

株式会社香山組(兵庫県尼崎市)は総合建設業として、70年以上にわたり、河川、道路などの土木工事の9割以上を元請けとして手掛けています。3代目となる香山昌哉代表取締役社長は、人手不足がより深刻になる将来を見据え、現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めるなど、若手社員にとって魅力ある会社づくりや、若者が働きたいと思える建設業を目指しています。年功序列型の評価を廃止し、若手社員の意見を尊重する場を設けるなど、「頑張った人が報われる会社」の実現を目指しています。

その一例として、鉄鋼メーカーから業界未経験で入社した寺田昌司さんが、独学でBIM/CIMモデル作成の技術を習得、1年経たないうちにBIM/CIM内製化を実現し、令和4年(2022年)に「DX推進部」を設立したことは、同社のDX推進が本格化する契機となりました。同部には寺田部長を筆頭に、同社の建設ディレクター第1号の高島菜央さん、髙橋一志さんの3名の建設ディレクターが所属し、それぞれの経験や強みを生かしながら、現場書類のオールデジタル化による作業効率化に取り組んでいます。BIM/CIMモデルの活用は施工の効率化という単なるツールとしての側面にとどまらず、子ども向けBIM/CIMイベントや現場見学会でも好評で、DXの可能性を生かした建設業の魅力発信、採用力強化にも成果をあげています。将来的には建設ディレクターそれぞれの力量の評価制度を構築し、専門部署の立ち上げも考えているそうです。

今回は、このほか、営業部に所属する建設ディレクターの蒲原裕也さんや工事部次長の笹尾彰宏さんにもお話を聞きました。

写真1:向かって左からDX推進部に所属する寺田部長、高島さん、髙橋さんと、営業部の蒲原さん 写真1:向かって左からDX推進部に所属する寺田部長、高島さん、髙橋さんと、営業部の蒲原さん

これまでのキャリアと、建設ディレクターを選んだきっかけ、今の仕事内容を教えてください。

寺田: もともと鉄鋼メーカーに勤めていましたが、BIM/CIMオペレーターの求人に強く惹かれ、BIM/CIMはもちろん土木分野も未経験のまま、コロナ禍の令和3年(2021年)に当社に入社しました。当初は品質管理部に所属し、独学でBIM/CIMモデル作成の技術を習得し、入社約1年で内製化を実現しました。初めて携わった橋脚工事では、橋脚内部の構造をモデリングし、施工状況を詳細に再現したVRや施工ステップ動画を作成、活用したことで国土交通省直轄工事において86点・85点という高い工事成績評定をいただきました。この経験を契機に、土木工事のDXを推進し、建設業の魅力を発信する専門部署「DX推進部」の設立を会社に提案しました。当時、業界経験の浅さを理由に反対意見もありましたが、香山社長だけは「若い」「経験がない」ことを理由に否定せず、「経験がないのであれば手を差し伸べて支えてあげればいい」と周囲を説得し、背中を押してくれました。そして入社1年で「DX推進部」を立ち上げ、部長に就任。私自身も建設ディレクターの資格を取得すれば、後輩の高島さんと同じ目線でサポートができるのではないかと考え、資格を取得しました。DXやカーボンニュートラル、SDGsといった先進的な取組の各現場への導入計画立案や効果測定、報告書作成まで一貫して伴走支援を行っています。CIMモデル作成・活用業務、担い手不足解消を目的とした子ども向けDXワークショップの企画・運営、他の建設ディレクターの書類作成業務や広報業務のサポートも担当しています。

写真2:寺田部長 写真2:寺田部長

写真3:高島さん 写真3:高島さん

高島: 幼い頃に暮らした街が再開発され、新たに創出された空間によって人々の暮らしが豊かになっていく様を目の当たりにしたことが、建設業界を目指すきっかけでした。文系学部を卒業後、就職活動は建設会社を中心に据え、土木工事を主軸に工事成績優秀企業として評価されていること、社内の雰囲気に魅力を感じて当社へ入社しました。当初は管理部経理課、そして営業部営業課で事務職として、国や地方公共団体発注工事の入札に関わる申請書類の作成や、落札後の契約手続きにおける書類作成、公共工事等を受注するために必須となる経営事項審査の申請手続きや、会議の議事録作成などを担当しました。豊富な経験と強い責任感を持つ現場技術者が、現場業務に加え、膨大な書類作成に追われ、やむなく業界を去っていく姿を何度も見送ってきました。慢性的な長時間労働の現実を前に、「技術者が本来の力を発揮できる環境をつくることはできないか」と考えるようになりました。ちょうど2024年4月から適用される「罰則付き時間外労働の上限規制」まで1年を切った頃、建設ディレクター協会のインタビュー記事を目にしました。建設ディレクターであれば、「文系学部出身の私も、技術者の業務をバックオフィスから支えることができるかもしれない」と、新しい職域に挑戦することを決め、社内に提案しました。令和5年(2023年)8月に建設ディレクターの資格を取得。施工計画書、施工体制台帳、安全書類、産業廃棄物関連書類、創意工夫などの工事書類作成だけでなく、写真整理、測量補助も担当しています。また担当現場の事務所のプロデュースや、現場見学会のサポート、出前授業の対応、広報業務全般にも携わり、当社の魅力発信にも注力しています。

写真4:蒲原さん 写真4:蒲原さん

蒲原:大学卒業後、生命保険会社で5年ほど営業を経験しました。以前は「安心」という無形の保険商品を扱っていましたが、自分自身が営業マンとして走ることよりも、それを支えてくれるバックオフィスに興味がありました。当社では営業課に所属し、令和7年(2025年)に建設ディレクターの講座を受講。現在は、納品伝票や工事写真の整理、安全関係の書類作成などを担当しています。入札関係の契約業務にも携わる営業課とディレクター業務を兼務していることが私の強みです。
検査前の書類一つをとっても、「なぜこの書類が必要なのか」という本質が直感的に理解でき、その気づきを営業部内にフィードバックし、連携を強化することに大きな役割とやりがいを感じています。

写真5:髙橋さん 写真5:髙橋さん

髙橋:大学の都市創造工学科で土木を学び、新卒で当社に入社しました。当初は施工管理職で入社したものの、新入社員研修中にBIM/CIMモデルに初めて触れ、もともと3Dに興味を持っていたこともあり夢中になりました。研修中に寺田部長に伝えたところ、入社3か月でDX推進部に異動になり、BIM/CIMモデルを初歩から教わり、施工ステップ動画を分かりやすく作成するところから指導を受けました。ただ、工事部に配属された同期との接点がないことや、彼らの残業の辛さを耳にしたことで、バックオフィスから現場を支えることができる建設ディレクターという職域に魅力を感じ、資格を取得しました。現在は業務の幅を広げるために現場に常駐し、現場運営の流れや作成書類を勉強中。また、現場からの細かな依頼に応えられるBIM/CIMモデル作成をお手伝いしています。

仕事の楽しさ、やりがい、建設ディレクターを選んでよかったこと

高島:書類業務のみを担当していた当初、「何か私にも強みがほしい」と寺田部長に相談したことがあります。後押しをいただいたお陰で業務の幅が広がり、建設ディレクターというポジションが社内で確立されたことで、現場を最初から最後まで一貫して支えられるようになりました。完成までの過程に深く関わり、書類や成果物に自分の名前が記されているのを見たとき、「自分もこの工事の一員なのだ」と実感できたことは、大きなやりがいにつながっています。

現在は現場のプロデュースや業界の魅力発信にも携わり、発注者や地域と連携した現場見学会やイベントを企画しています。土木の魅力を伝える中で、「自分にできることがあるかもしれない」と当社の選考に進んでくれる学生もいて、建設ディレクターとしてのやりがいを感じています。

写真6:材料受入伝票を処理する高島さん 写真6:材料受入伝票を処理する高島さん

写真7:高島さんは従来の現場事務所のイメージを覆す、誰もが働きやすい「快適職場」を提案するなど現場のプロデュースも担う。女性ならではの視点を生かした内装、大きな窓から施工風景を間近に見つつ作業できる点も好評。 写真7:高島さんは従来の現場事務所のイメージを覆す、誰もが働きやすい「快適職場」を提案するなど現場のプロデュースも担う。女性ならではの視点を生かした内装、大きな窓から施工風景を間近に見つつ作業できる点も好評。

建設ディレクターがもたらす効果は

笹尾:まず、高島さんが当社〝第一号〟の建設ディレクターとなったことで、工事部で担当していた書類業務の整理が課題になりました。「いつかやらなければ」と感じてはいたものの、日々の業務に追われ、可視化できていませんでした。全社的にどんな書類があり、どの書類を任せられるか。技術者がやらなければいけない書類はどれか。いわゆるコア、ノンコア業務の線引きに着手しました。ノンコア業務にあたる書類を建設ディレクターにお任せしたことで、書類作成に要する時間が減り、残業時間も削減されました(高島さんが初年度に担当した国土交通省の現場技術者の総労働時間は、工期内の同工種の工事と比べて7か月で17%減)。毎年3、4人は入社する新人技術者の教育という本来の職務に集中できたことが最もありがたかったですね。

写真8:CIMモデルを作成する髙橋さん。AI活用も試行錯誤の段階。建設ディレクターの基盤を固める中で、「いま多少の時間的負担が増えるのは仕方のないこと」ときっぱり。 写真8:CIMモデルを作成する髙橋さん。AI活用も試行錯誤の段階。建設ディレクターの基盤を固める中で、「いま多少の時間的負担が増えるのは仕方のないこと」ときっぱり。

寺田:現場パトロールに同行した時、「なぜ、これほど紙が必要なのか」という素朴な疑問が出発点となり、現場で発生する紙媒体をゼロにする「オールデジタル化」に取り組みました。施工管理アプリによるKY活動や持込機械の点検等の完全ペーパーレス化のほか、デジタルサイネージを安全掲示板として活用し、現場技術者が従来行っていた掲示物の出力、張り替え作業をすべて削減しました。さらに、建設ディレクターがバックオフィスから遠隔で工事のデータを確認し、現場に出向くことなく集計業務を完結できる体制を構築した結果、令和6年度(2024年度)の現場技術者の時間外労働を月平均で対前年度比66.2%削減、排出される紙資源も82.2%削減するという、働き方改革とカーボンニュートラルの双方において大きな成果を収めることができました。この取り組みは国土交通省「働き方改革の促進モデル事業」にも採択され、未経験だからこそ、既存の慣習にとらわれず変革を進められたと感じています。

笹尾:建設ディレクターが作成してくれるBIM/CIMモデルは、施工計画の検討補助や、早期の干渉部チェックが容易になるだけでなく、関係者協議や住民説明などのいわゆる対外説明にも大きな効果があります。現場では、BIM/CIMモデルを活用して工事の施工手順を一つの動画にまとめ、施工ステップ動画を作成してもらい、現場内に設置したデジタルサイネージに投影して地域住民や一般通行者に工事目的や施工方法をわかりやすく周知しています。「文章だけの看板ではどんな工事か分かりづらいが、3D動画であれば分かりやすい」と高評価をいただきました。現場作業員に対しても、作業手順や工程表などをデジタルサイネージで表示することで、新規入場の現場作業員が作業手順を把握するのに時間がかからず作業効率も向上します。作業ミスや品質低下を抑えることにも効果的ですね。

作成したBIM/CIMモデルをVR(仮想現実)にも変換し、作業前の現場作業員にVRゴーグルを装着してもらい、これから行う作業のシミュレーションを安全教育として実施しています。重機の死角や、周囲との距離感を作業前に養ってもらえる上、装着した作業員が見ている映像をモニターに映すことで、他の作業員とも危険箇所や施工方法の確認を議論し、情報共有できるメリットがあります。同様にBIM/CIMモデルを生かしてAR(拡張現実)を施工箇所で活用すれば、現場でリアルタイムに設計図面確認、現場作業員に対する正確な指示出しもできます。

写真9:VRで安全教育を行う寺田部長 写真9:VRで安全教育を行う寺田部長

写真10:子どもたちが重機の3Dモデルを自由にデザインし、完成したオリジナル重機と記念撮影できるイベントも好評 写真10:子どもたちが重機の3Dモデルを自由にデザインし、完成したオリジナル重機と記念撮影できるイベントも好評

特に、従来の現場見学会では当日の工程しか確認できませんでしたが、VR・ARを活用すれば過去の工程や、今後施工する作業工程を分かりやすく確認でき、工事の知識に関係なく工事情報を共有できる点が大きな効果でしょう。まさに「見る」だけでなく「体験する」スタイルとなったことで、建設現場をリアルに体験し、現場の実際の様子や建設業の魅力を伝えることにも効果的だと感じます。

3Dモデルを身近に触れてもらう子ども向けイベントの開催や、大学生を対象にしたモデル作成体験型インターンシップなどの実施により、未経験の方でもモデル作成に夢中になり、そのまま採用の選考に入るケースが増えています。BIM/CIMは単なる効率化のツールではなく、確実に業界のイメージ向上や採用にもつながっている、業界の未来を切り開く鍵となっています。

今後の目標、夢、大切に考えていることは

寺田:国土交通省等が主催する「建設産業に関する作文コンクール」で、応募した『こうじげんばのひと』という作文が国土交通大臣賞を受賞しました。文中にもある通り、将来、子どもたちが目指す職業に『こうじげんばのひと』が当たり前に並ぶ時代をつくりたい。明るい未来の建設業を築くためには、次世代の若者がこの仕事に興味を持ち、選んでくれることが欠かせません。私も未経験でこの業界に入り「これほど活躍できるのが建設業なのだ」と、建設ディレクターという新たな職域の魅力も発信し続け、「そういえば人手不足なんて時代があったね」と昔話にできる未来を実現したい。

高島:建設ディレクターという職域は、社内外でまだ認知度が低いと感じており、1社当たりの人数が少なく、社内で孤立しがちなディレクター同士の企業を超えた交流やレベルアップが課題です。令和6年(2024年)に兵庫県建設業協会が立ち上げた「ひょうご建設ディレクターズフォーラム」では、私自身もプロジェクトリーダーを務め、事例共有や交流を通じて、協会会員企業全体の働き方改革の底上げ、スキルアップを目指しています。建設ディレクター資格認定者の約7割は女性が占めることから、「女性活躍推進」についても活動のテーマにしています。これまで「自分にもできることがあるのでは」という気持ちを大切に挑戦してきましたが、これからは同じ思いを持つ人の背中を押すことができる存在になりたい。育児休暇から復帰後は、新しい働き方のモデルも示していければと思います。

蒲原:建設ディレクターという職域を通じて、誰もが長く働き続けられる環境を形にしたいです。
建設業界でも女性の産休・育休取得が進み、男性の育休に対する意識が変わりつつあると聞くものの、社内ではまだ前例がありません。まずは現場と建設ディレクターをつなぐ業務のバックアップ体制を整え、男性社員にも安心して育児休暇をとってもらえるようにサポートすることが直近の目標です。若手技術者の離職防止なども考えれば、建設ディレクターが先頭に立って新しい働き方を実践し、組織の土台を支えていくことが必要不可欠だと考えています。

髙橋:BIM/CIMモデルを小規模な現場にも活用していきたい。このほど無人航空機操縦士資格を取得したので、点群測量なども含めて、今のBIM/CIM業務を進化させながら、技術者の負担を軽減できれば。二級土木施工管理技士の資格も取得しましたが、いずれは一級土木施工管理技士にも挑戦したい。

「頑張った人が報われる会社に」が香山社長のモットーというだけに、同社では若手社員が主体となり意見を交わす「若手会議」の実施等、若手社員の意見を吸い上げ、強みを伸ばす環境づくりに努めています。取材を通じて印象的だったのは、未経験から挑戦を重ね、DX推進と建設ディレクター体制の構築を実現してきた寺田部長の行動力と影響力です。その姿勢は周囲にも波及し、高島さんが建設ディレクター導入を自ら提案するなど、新たな挑戦が次々と生まれる土壌を育んできました。寺田部長はいまや、DX推進の中核として現場とバックオフィスをつなぎ、働き方改革や高い工事成績を支える存在へと発展。若手の挑戦を後押しする企業風土と、それに応える行動が、同社に力強い変革をもたらしているのだと感じました。

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