コラム:編集委員の独り言…

「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。

2026/04/01

原因究明と再発防止
~埼玉県八潮下水道陥没事故報告書を読む~

1.はじめに

2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した流域下水道に起因する陥没事故では、県道を通行中であったトラックの運転手の方が巻き込まれて命を落とす事態となった。加えて、行方不明者の救助捜索活動の支援の目的で、流域下水道の利用者約120万人に約2週間の下水利用の自粛が呼びかけられ、陥没地周辺では、事故直後に住民の避難が行われ、その一部は現在も継続している。周辺道路は大規模な交通規制が敷かれ、現場周辺の住民は今も発生する悪臭などに悩まされている。

この事故は、2012年に発生した笹子トンネル天井版落下事故以来の大きな衝撃をインフラマネジメントの世界に与えたものであるともいえる。当該事故に関しては、国や埼玉県によって有識者委員会が設置され、原因の究明、再発防止についての検討がされている。

本稿では、埼玉県が設置した『道路陥没事故に関する原因究明委員会』(委員長:藤野陽三城西大学学長)(以下、八潮原因究明委員会)の報告書について、その内容と背景を述べる。

2.八潮原因究明の動き

八潮陥没事故に関しては、2025年3月17日に埼玉県が八潮原因究明委員会を第三者委員会として設置し、同委員会は2025年9月4日に中間とりまとめ、2026年2月19日には最終報告書を取りまとめている。

報告書のポイントは以下の通りである。

  • ① 今回発生した道路陥没事故は埼玉県が管理する流域下水道の管路が硫化水素により腐食したことが原因である。
  • ② 下水管の腐食から空洞の発生・成長、路面の陥没に至るシナリオは3通りが考えられるが、いずれのシナリオであるかは特定できない。
  • ③ 事故の4年前に行われた点検では、当該箇所を含む区間の評価はB判定であったが、不鮮明な画像の精査、周辺区間の状況、管内の環境などから、A判定とするべきであった。ただし、当時の点検に過失に相当するものがあったかどうかは判断できない。
  • ④ 今回のような事故が二度と起こらないよう、基準の改正や技術開発が進められ、適切な維持管理体制の構築が図られるよう留意点をまとめる。

3.原因究明のむずかしさ

八潮原因究明委員会は事故の発生から報告書のとりまとめを行うにあたり、一年以上の時間をかけているが、長期化の理由としては、その過程において、事故現場での救出活動や下水道管の復旧工事に時間を要し、実際の下水道管内の現地調査は5月以降となったことなどを挙げている。このような事故の原因究明にはいくつかの難しさがある。

3.1突発事象ゆえの情報不足

国土交通省の調べでは、例えば下水道管路に起因する道路陥没事故は、年に2600件ほど発生しているという。そのほとんどは比較的小規模なものであり、今回の八潮陥没事故のような大きなものはほとんどない。一方で管路以外を原因とする大規模な道路陥没を発生させた事例としては、以下の4つの事例が代表的なものとして想起される。

  • ① 2016 年に福岡県で発生した地下鉄工事に起因した事例
  • ② 2021 年に北海道で発生した水抜き用の排水管に起因した事例
  • ③ 2020 年に東京都で発生した地下トンネル工事に起因した事例
  • ④ 2024 年に広島県で発生した下水道工事に起因した事例

このうち、②を除く3例は工事中の事故であり、今回の八潮陥没事故と②は特別な工事段階ではなく、通常の供用段階における事故である。工事中の事故については、工事の進捗管理が密に行われている場合が多く、事故の発生の原因について、高い確度での推定を可能とするような情報が収集しやすい。他方、供用段階の事故では、事故の発生前後の情報もなく、推定が困難となることが多い。八潮の陥没事故でも、陥没の原因が地下の下水管路であることは明らかであるが、陥没箇所の状態については、直近の点検情報が事故発生の4年前であり、かつ管路内の流況等の影響で、おそらく陥没箇所ジャストポイントの情報は、4年前以前も含めて存在していないとされている。

一般に、このように事故で発生した事象と結果は明らかであっても、一体何が起こったのかわからないというレベルで情報が不足するのが、供用中の地下での事故であるといえる。

3.2救助救命、復旧との同時進行

八潮陥没事故では、陥没した道路を走行するトラックの運転手が行方不明となり、その救助救出が最優先で進められた。事故発生直後の道路上の陥没孔はおよそ8m×4m、深さ5mと推定されているが、その後の拡大、救助救出活動の安全確保のために土木的措置とされる周辺地盤の掘削が行われ、最終的に数十メートルの範囲に拡大された。その間、破損した下水管の解体撤去、陥没孔に流出した土砂の撤去などが行われている。また事故の原因となった流域下水道は、およそ143万人が利用するものであり、一時的な利用制限は行ったものの、その機能の大部分は継続して確保されねばならず、陥没箇所を部分的に迂回するバイパス管工事も行われ、人為的な掘削が行われており、事故後の現状の保存ができなかった。
上記の4つの陥没事故のうち、④の広島県で発生した事故では、事故直後に陥没孔の拡大を防止するために注水などの安全確保対策が講じられており、事故を起こしたシールドマシンについては、いまだに地下に埋まったまま、調査のめども立っていない。
このように事故後の様々な調査の基本となる現状の保存が、そもそも行えないケースも多い。八潮陥没事故では、周辺地盤の不安定さに加えて、硫化水素の発生などもあり、原因究明委員会が陥没箇所の地下の調査を行うことができたのは、犠牲者の救出が終了した5月であったとしている。最終報告書の中では、重要なインフラにおける大規模で人命にかかわるような事故では、人命の救助、インフラの機能回復が優先され、原因究明も初期段階では、救助や機能回復に支障のない様に行わなければならない、と言及されている。

3.3地盤災害事故のもつ大きな不確実性

そもそも地下や地盤は、自然に形成されたものであり、その不均質性は非常に大きい。八潮の事故でも、下水管路に発生した空隙を通じて、下水管周辺の土砂が管内に流出し、空洞が形成され、それが成長して路面陥没につながったという大筋のシナリオは容易に推測できる。しかし、下水管の状態に関する情報の欠落、空洞周辺の土砂は事故発生前、あるいは事故発生後に下水管路へ流出したり、その後行われた土木的措置によって除去されたりしており、様々な推定を行うのに必要な情報が欠落している。このことに加え、 地下の下水管とその周辺の地盤の関係は非常に複雑で、下水管の構造にとって、周囲の地盤から作用する土圧は作用であると同時に、管を構成する構造部材の閉合を成立させる前提でもある。また管が大きく変形をした場合、一時的に周辺の地盤が管の耐力を肩代わりするような現象が起こることも想像される。最終報告書では、陥没部付近の構造が腐食により大きく減厚しており、3つのシナリオの一つではセグメントの脱落に関する安全率は約1/680という値になっていたと推定されている。一方で陥没部下流の土砂堆積量や浮遊物質濃度などから、このシナリオは発生の可能性が低い、ともされており、陥没事故発生直前の管の状態は様々な状況証拠から説明できない理由により形態を保持していたであろうことがわかる。
このように、陥没時の現場では、原因究明委員会では、陥没が発生したシナリオとして3つの案を推定しているが、いずれの案が正しいかについては確定できないとしている。

4.原因究明の目的と必要性

八潮原因究明委員会では、2025年9月4日に中間とりまとめ、2026年2月19日には最終報告書を取りまとめている。最終報告書においては、「工学的見地から、県が実施した点検・調査等に関する検証を行い、事故の再発防止に向けた提言を行うものであり、事故発生の責任の所在を明らかにすることを目的とはしていない。」と明記されている。

例えば報告書では、事故に先立って2021年に行われた陥没事故箇所を含む区間について、「機能低下、異常が著しい」状態にあったであろうと推定し、2021年当時の点検結果が「機能低下、異常が少ない」状態であったとする当時の点検結果を適切ではなかった、としている。一方で、当時の点検技術の熟度や点検基準の未熟さなどを考慮して、施設管理者に過失があったかについては判断を保留している。しかし、明白な事実の再確認に近いものであるが、当該陥没事故が、埼玉県が管理する流域下水道に起因するものであることは明確にしている。

原因究明の目的と必要性については、関係者の責任を追及したり、罪を科したりすることではなく、不幸な事故を貴重な経験として、将来に同様の事故等が発生することを防止するためである。

たとえば航空事故の分野ではこの点について、国際的な概念が確立している。国際的な往来が行われる航空業界では、1944年に国際民間航空条約(通称シカゴ条約)が制定されており、同条約に基づき、国連に国際民間航空機関(ICAO)という機関が設置されている。このシカゴ条約には日本も調印している。

ICAOは、国際航空運送の安全・保安等に関する国際標準・勧告方式やガイドラインの作成等を行っているが、条約の第13附属書という文書があり、そこに航空機事故の調査についての基本的事項が記載されている。附属書は条約の詳細を記したもので、条約の一部とみなされている。

同附属書の3.1では、事故又は重大インシデント調査の唯一の目的は、将来の事故又は重大インシデントの防止である。罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない、としている。 また、同附属書5.12には、原因究明の活動で得られた情報については、原則として司法当局が利用することは避けるべきであるとの条文があり、5.4.1では「罪や責任を課するためのいかなる司法上又は行政上の手続きも、本附属書の規定に基づく調査とは分離されるべきである。」との一文もある。

これらは、責任の追及や罪を課すための調査が、事故の再発を防止するという調査本来の目的をゆがめてしまう恐れがあるという考え方を示していると考えられる。

また、八潮原因究明委員会は最終報告書で、2021年に行われた点検が不適切なものであったとしているが、過失であったかどうかは判断できないとしている。

公物に関する過失と責任については、国家賠償法に関連する規程がある。

国家賠償法 https://hourei.net/law/322AC0000000125

第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

国家賠償法2条に示される責任は、過失の有無によらず発生するものであるとされており、報告書が陥没事故と流域下水道の関係をわざわざ言及しているのは、国家賠償法2条における責任が埼玉県にあることを明確にしたものといえる。他方で、1条に示される、過失に伴う責任については判断を保留したものである、ともいえる。

2016年に福岡県で発生した地下鉄工事に起因する駅前道路陥没事故に際しては、国立研究開発法人土木研究所に第三者委員会である『福岡市地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する検討委員会』が設置され、事故からおよそ4か月後の2017年3月末に、道路陥没事故の原因究明、工事再開に向けた留意点、同種事故を防ぐための留意点などを取りまとめた報告書を公表している。この報告書の中でもやはり責任の所在に関しては明らかにされておらず、その後当該工事の発注者と受注者の間で責任に関する合意が行われている。

これらは必ずしも工学的な視点のみで決められるものではなく、工学的な原因究明とは切り離して整理されるのが通例である。

原因の究明は将来の同種の事故を防ぐことを目的として、事故を生み出した要因から派生的に検討を重ねていくのに対して、責任の追及は、発生した結果からその結果に大きな影響を持つ要因を遡及的に絞り込んでいくことになる。

図1はある現場において発生した事故、その事故につながる要因(素因と誘因)の関係を模式的に表したものである。『1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する』とハインリッヒの法則が指摘するように、どんな現場にも、重大な事故につながる要因は多数存在する。重大事故とは、それらの可能性の中で、たまたま最初に発現した結果であるともいえる。様々な要因の中には、結果に深い因果関係を持つものもあれば、たまたま相関関係を持つだけのものもある。

図1 要因(素因と誘因)と結果の関係

図1 要因(素因と誘因)と結果の関係

責任追及の思考(図2)は、発生した結果から遡及し、重大な因果関係を持つ素因・誘因だけを抽出する作業である、ともいえる。これはこうした責任追及の先には処罰が生じることから、『推定無罪』の原則が適用されるからである。当然、その現場では実際に発生しなかった事故の可能性は責任追及の対象とはならない。もちろん、検討の過程で、明らかに規定責任追及だけしかしない場合、同じような条件から生じる恐れのある他の事故への抑止力は低くなってしまう。

図2 責任追及の思考

図2 責任追及の思考

これに対して、再発防止の思考を図3に示す。図3では、実際に発生していなかった事故の可能性に対する因果関係も抽出されている。これらはもちろん実際には発生していない事故に対する因果関係なので罪を課すことはできない。しかし、ここでは『推定有罪』の考え方が適用され、結果として、同じような条件の現場、次回起こりえるかもしれない別種の事故に対しても抑止力を持つ検討となる。これが原因究明(≒再発防止)と責任追及を区別するべき理由である。

図3 再発防止の思考

図3 再発防止の思考

5.おわりに

本稿では、2025年1月28日に発生した埼玉県八潮市の下水道に起因する道路陥没事故と2026年2月19日に取りまとめられた原因究明委員会最終報告書の内容について述べた。

報告書で、はじめに、として書かれている「今回のような事故が二度と起こらないよう、基準の改正や技術開発が進められ、適切な維持管理体制の構築が図られることを祈念する。」という言葉を実現するために土木技術者の取り組みが重要である。

国土交通省が2025年2月17日に設置した『下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会』(委員長:家田仁政策研究大学院大学特別教授)では、2025年12月1日に第三次提言として『信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換』を公表している。その中では、様々な技術的、制度的な取り組みに加えて、これら取り組みが実際の成果につながるための『モメンタム』(流れ、勢い、の意)の重要性が指摘されている。

事故の原因究明というと、ややもすると、誰か特定の関係者の責任追及、処罰を求める風潮があるが、我々自身が改めて「原因究明」の目的をよく理解して、実効性のある原因究明の作法を身につけるべきではないだろうか。

参考文献

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