土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
1)切土
2020/08/31
山間部の道路拡幅工事において、切土掘削工の完了直前の法面(法面高さ14m、勾配1:0.8、2段、延長100m)に水平クラックが発生した(図1)。急いで法面の変状調査を行った結果、法尻で最大30mm程度の水平変位が確認された。そこで、工事を中断し、応急対策として法尻に大型土のうによる押え盛土を行い(図2)、詳細調査を実施することになった。
なお、現場の地質は図2に示すように軟岩~中硬岩の泥岩層を基盤としており、施工前の斜面は約30°の勾配で安定していて、地すべり地形もみられなかったことから、地すべりの発生は想定されていなかった。設計段階の踏査では、斜面の一部には風化泥岩の存在も確認されていたが、硬質な基盤岩層の露頭が比較的広範囲に確認されていたので、法面保護工としては侵食や風化の防止を主目的とした吹付枠工のみの設計であった。
切土法面に変状が発生した原因と対策工を検討するために、まず、設計段階の地質調査結果を照査すると共に、背後斜面の地表踏査を行い、道路下の河川護岸周辺についても異常がないかを確認した。その結果、背後斜面の上部では最大30mm程度の段差が見つかり、河川護岸の下では崖錐性堆積物(崩積土)も確認されたため(図3)、今回のトラブルは単に切土法面部分の局所的な変状ではなく、大きな地すべりの兆候が出ているのではないかという懸念が出てきた。
そこで、背後斜面に伸縮計を設置し動態観測を行いながら、追加のボーリング調査を実施して地質想定断面の見直し等を行った。なお、既往の調査結果から、現地の地層は切土法面の法線(図1の道路直角方向の設計断面)とは方向が30°程度ずれた流れ盤構造であることが読み取れたので、追加のボーリングは図3に示すようにNo.1とNo.4の中間の位置で実施した。
追加ボーリング調査結果を加えて地質想定断面図を再検討したところ、地層の流れ盤構造に沿った断面(図4)では風化の進んだ地層が斜面の上部から道路下まで連続しており、厚さ10~30cmの脆弱な粘土層が挟在していることも認められた。そして地下水位も高く降雨後には河川護岸の下からの湧水も確認されたことから、無対策のままでは切土によって斜面の土塊のバランスが崩れて大きな地すべりが発生する可能性があることが明らかになった。
そこで、設計断面図(断面A、B、C)も見直して設計変更による斜面安定対策として、①水平ボーリングによる水抜き孔の設置(地下水排除による抑制工)と、②グラウンドアンカーによる抑止工を追加した(図4)。あわせて斜面の動態観測(埋設型孔内傾斜計、追加ボーリング孔を利用した地下水位観測、アンカー荷重計)を実施した。
対策工の施工中及び施工後のモニタリングでは、降雨による地下水位の上昇によるアンカー荷重の増加は認められたが、いずれも斜面安定に影響を与えるような数値は観測されなかった。また孔内傾斜計による観測でも地中変位は認められず、無事に工事を完了することができた。
設計段階の限られた点数のボーリング地質調査では、地すべりなどの重大なリスクを見落とす可能性もある。事後のトラブル対策に要する工期や工費を考えれば、過不足のない適切な調査を実施することの重要性については改めて言うまでもない。
一方で、このようなリスクは施工の初期段階で顕在化することも多い。斜面の軽微な変状も見逃さぬように常に気を配ることは当然であるが、切土掘削中に設計時の想定とは異なる地質が現れたときに現場技術者は如何に対処すべきであろうか。「自然地盤のバラツキ(不均一性)の範囲内であろう」などと安易に見過ごさず、速やかに発注者や設計者と設計変更の必要性などにも踏み込んで協議すべきである。
設計作業は地質・地盤の不確実さを単純化することであるとも言えるので、現場作業ではその不確実さに潜むリスクを見落とさないように細心の注意を払いたい。近年、調査・設計部門でも地質の専門家不足が深刻な問題との話もあり、現場技術者も日頃から地質に関する知識を広げる意識を持つことが望まれる。
なお、動態観測に関しては、センサー、無線通信システム、クラウドシステムなどのICT関連技術の進歩が著しい。これらの最新技術を活用したモニタリングシステムは、トラブル発生時の対応だけでなく施工管理や施工後の維持管理にも有効であるので積極的に利用したい。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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