土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
2)盛土・軟弱地盤
2020/11/30
道路橋脚のフーチング(図1)の施工直前に、基礎杭の位置に規格値(表1)を超過する偏心(杭芯ずれ)が生じていることが見つかった。
施工地点は図2に示すように深さ30mに及ぶ軟弱地盤で、杭仕様は鋼管杭φ800mmで杭長は33m、施工方法は中掘り杭工法(杭先端セメントミルク噴出撹拌方式)である。
杭の施工では、重機のトラフィカビリティ確保のために表層地盤改良(厚さ30cm)を行い、敷鉄板も併用して施工精度の確保には細心の注意を払った。杭頭の施工完了深さはGL-1.6mであり、ヤットコを使用したが施工時の杭頭の偏心量は全て25mm以内であった。
杭芯ずれが見つかったのは土留め掘削(切梁1段、図では省略)が完了した時点で、測量の結果、杭芯ずれは図3に示すように最大149mmで、全ての杭が同一方向に偏心しており傾斜も確認された。
鋼管杭の状態を正確に確認するために、杭の内部を水で満たし場所打ち杭の施工管理で一般的に用いられている超音波孔壁測定器(図4参照)を利用して、杭の変形の深度分布を測定した。その結果、図5に示すように杭はいずれも深さ15m付近から上の部分が水平方向に押されたように変形していた。なお、上層の粘性土に比べて若干N値の大きい砂質シルト層が抵抗層として働いて、杭の変形が抑えられていると考えられた(図6)。
また、トラブルが生じた杭基礎の施工状況を詳しく調べたところ、本来は施工地点から離れた残土置き場に運搬する計画であった掘削土砂を、土留め工の近くに一時的に仮置きしていたということが分かった。
これらの調査結果より、土留め掘削の近傍に仮置きされた掘削残土の荷重によって軟弱地盤がせん断破壊を起こし、側方流動が発生して鋼管杭の上部を変形させたと考えられた(図7)。なお、杭だけでなく鋼矢板土留壁の下部にも水平変位が発生していたが、仮置きされた掘削残土は既に撤去されており、土留め工の安全上の問題はないと判断された。
杭芯ずれと傾斜が生じた杭基礎については、場合によっては発注者からフーチングの平行移動や増し打ち、または杭本数を増やすといった大掛かりな対応を指示されることも考えられた。そこで、まずは以下の手順で杭基礎の安全性照査を実施することとした。
①芯ずれした杭配置を考慮して杭基礎の設計計算を再チェックする。
②今回発生した杭の変位によって発生している杭体応力を算出する。
③上記の①と②で算出された杭体応力を加算して、杭本体の断面照査を実施する。
その結果、杭基礎の安定や杭体応力度等の照査項目は全て許容値以内であることが確認できため、今回は特に追加の対策工を実施しなくても良いという発注者の了承が得られた。
本事例は、工程が厳しい中で残土置き場の広さも不足気味であったため、現場担当者としては、掘削残土の仮置きはやむを得ず実施したとのことであったが、軟弱地盤に対する知識と経験の不足が引き起こしたトラブルであった。なお、土留め工の設計では、盤ぶくれやヒービングに対する照査は行うが、今回のような盛土等の偏載荷重に起因する「軟弱地盤の側方流動」に対する検討は通常実施しない。また、橋脚基礎としてよく用いられる場所打ちコンクリート杭に比べれば、鋼管杭は直径も小さく曲げ剛性が低いということも影響したと考えられる。したがって、今回のような軟弱地盤での土留め掘削では、施工計画の立案時にそれらの点にも充分に留意する必要がある。
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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