現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

コンクリート工事

3)打設後(養生・修繕等)

2020/12/25

マスコンに生じたひび割れの補修

工事の概要とトラブルの内容

速自動車道路の地下トンネルに接続するインターチェンジのランプを構築中のことである。6月に底版、7月~8月に中床版、8月~10月に壁、9月~11月に頂版のコンクリートを打ち込んだ。図1は横断面図であり、コンクリートのリフト割を示す。構造継手の間隔は40mであり、継手間を1ブロックとしてコンクリートを打ち込んでいる。頂版コンクリート打込み後、1ヶ月の養生を経て、頂版の型枠及び支保工を外したので歩けるようになり、パトロールをしていたところ、頂版にひび割れが生じているのを見つけた(写真1、写真2)。

側壁の厚さは2m、頂版の厚さは1.5mであり、部材の厚さが80cm以上であることから設計段階でマスコンクリートとして1)取り扱われていた。このためセメントは中庸熱ポルトランドセメントが指定されていた。設計基準強度は24N/mm2である。

写真1 構造物の内部写真1 構造物の内部

図1 横断面図(リフト割とひび割れ発生箇所)図1 横断面図(リフト割とひび割れ発生箇所)

写真2 頂版の下面に発生したひび割れ(〇内にエフロレッセンスの析出が見られる)写真2 頂版の下面に発生したひび割れ(〇内にエフロレッセンスの析出が見られる)

原因と対処方法

構造物全体のひび割れ状況を調査した結果、ひび割れは底版、中床版および壁には無く、頂版の上面および下面に発生したひび割れ(図1)の他、施工上頂版に設けた開口部(4m×4mのダメ穴)の隅角部から対角線上に伸びたひび割れが確認された(図2)。ひび割れは側壁に対し直角に複数発生しており、規則性は無かった。頂版の上面および下面のスケッチ図を比較し、ひび割れの約半数は「貫通」と判断した。確認できたひび割れは48本、総延長120m、最大ひび割れ幅は0.5㎜である。

発注者が招集した三者会議で、補修方法について協議した。推定されるひび割れの原因は標準調査2)に基づく結果から「温度ひび割れ」であると結論された。10日間ではあるがコンタクトゲージによるひび割れ幅の測定、およびひび割れの先端部に印したマークより先にひびが伸展していないという調査結果によりひび割れの変動は無いと判断した。また、コンクリート表面をUカットするひび割れ充填工法は美観上から好ましくないということで、以下の補修方法が選定された。

①ひび割れ幅(0.15mm~0.20mm):表面含浸・被覆工法(珪酸ナトリウム系)

②ひびわれ幅(0.20mm以上):低圧注入工法(エポキシ系)

③ひび割れ幅(0.20mm以上、ひび割れ内が湿潤状態):ポンプ注入工法(ウレタン系)

ひび割れ幅が0.20mm以下の場合、一般的には補修不要とされている3)が、0.20mm以下のひび割れでも目立つものがあり、表面含浸工法を選定した。珪酸ナトリウムを主成分とする液体を数回繰り返し噴霧してひび割れに浸透させるだけで、ひび割れ自閉効果を促進することができる(写真3)。引き続き珪酸リチウムを主成分とするパテをゴムヘラですり込み、表面を仕上げる。

ひび割れ幅が0.20mm以上のひび割れには注入工法を選定した。注入材は、ひび割れ注入材として一般的なエポキシ樹脂を選定した。エポキシ樹脂は0.2mm程度のひび割れへの充填性が良好で、高い付着性があり、引張強度が高いため最も使用実績が多い(写真4、写真5)。貫通ひび割れに低粘度のエポキシ樹脂を使用すると頂版の下面から注入材が流下する恐れがあるので、頂版の下面に漏れ止めシールを貼付することも検討したが、作業が増えるため採用せず、低粘度のエポキシ樹脂を所定量注入後、中粘度の樹脂を注入し、残圧のかかった状態で硬化させることにした。硬化後、頂版下面のひび割れに対し、上向きにエポキシ樹脂の注入を行う。

雨水や養生の水などコンクリート表面から水が供給され、ひび割れ内に水分が溜まっているひび割れに対しては、エポキシ樹脂は湿潤状態で性状が変質し、接着強さなどの性能が低下するため、ウレタン樹脂を主成分とする注入材を用いた。水と接触すると反応し、弾性に富んだポリマーゲルを形成する。補修材はグリースポンプ等の手動式ポンプを用いて注入する。

写真3 珪酸ナトリウムを主成分とする液体の塗布状況写真3 珪酸ナトリウムを主成分とする液体の塗布状況

写真4 注入孔としての座金を貼付し、シール材を塗布している状況写真4 注入孔としての座金を貼付し、シール材を塗布している状況

写真5 開口部の隅角部から伸展するひび割れに対し低圧注入工法で注入している状況写真5 開口部の隅角部から伸展するひび割れに対し低圧注入工法で注入している状況

図2 開口部周囲のひび割れ状況図2 開口部周囲のひび割れ状況

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

開口部の四隅に入るひび割れは、あらかじめ予測してあり、対策として補強鉄筋4)を組み立てていたが、対策をしていても今回のようにひび割れは発生した。このように、コンクリートのひび割れの発生を完璧に防ぐことはできない。しかし、ひび割れ幅は制御できたと推察する。施工の段階では想定されるひび割れに対し、出来る限りの抑制対策を行うことは大切である。

温度ひび割れ抑制の基本は温度変化を小さくすることであり、①打込みの時間や時期の工夫、②打込み量の低減、③単位セメント量の低減、④急冷を防止する養生など、検討すべきことは多い。

具体的には①について、夏ならば外気温の低い夜間や早朝にコンクリートを打込む、②についてはコンクリートを1回に打込むブロックの高さを低くする、③についてはスランプを小さくしたり、適切な水セメント比を設定する、④として、冬季に型枠の上からシートで覆う方法、型枠の残置期間を長くしたり、型枠を外した後にシートでコンクリート面を養生し、外気にさらすことによる温度の急変を避ける方法などがあげられる。

参考文献

1) 日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 JASS5鉄筋コンクリート工事,2018

2) 日本コンクリート工学会:コンクリートのひび割れ調査・補修・補強指針,2013

3) コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案),土木研究所資料第4343号,平成28年8月

4) 日本コンクリート建設業連合会:鉄筋コンクリート構造配筋標準図(9),2013.03

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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