現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

土工事

2)盛土・軟弱地盤

2023/03/01

軟弱地盤対策を行った盛土の崩壊事例

工事の概要とトラブルの内容

路建設事業として、延長約3.5kmにわたり盛土を築造する工事において、施工中に盛土が崩壊をした事例を報告する。

当該路線は台地から沖積平野を通過する計画となっており、河川後背湿地の堆積物の腐食土層などからなる軟弱層上に高さ10m程度の盛土を行う工事であった。崩壊現場は、表土の下にそれぞれ深さ5m程度の腐植土層、粘性土層が分布する。いずれの層もN値は10未満であった。

軟弱地盤対策が必要であったことから、施工性やコストの観点からバーチカルドレーン工法が選定され、詳細な検討の結果、最終的にペーパードレーン+サンドマット工法が選定された。途中約100mの区間については、軟弱層が約15mと厚く、上記の対策を行っても、目標安全率1.1に対して施工時安全率が1.00、供用時安全率が1.09と安定性が不足することから、盛土底部とサンドマットの間にジオテキスタイルを追加敷設し、盛土の安定化を図った(図1)。

図1 軟弱地盤対策の概要図1 軟弱地盤対策の概要

工事は3期に分けて行われ、第一期工事は、およそ8か月かけて軟弱地盤対策としてペーパードレーンの設置、サンドマット(t=50cm)とジオテキスタイルの敷設、盛土約2.5mの築造が行われた。

第二期工事は、第一期工事に続けて、4か月間で約4mの盛土盛り立てを行い、この後に一年程度の沈下促進期間をおいた後に、第三期工事として約1年で6mの盛土を予定していた。第三期工事着手直後に試験盛土を行い、盛り立て速度5cm/日での施工の安全性を確認したのちに本施工を実施した。本施工の際には、道路土工軟弱地盤対策工指針を参考として、沈下板、変位杭による動態観測を行いながら施工した。盛土の盛り立て速度は、計画段階では一日当たり5cmとしていたが、動態観測に異状が見られなかったことから、最大で10cm/日まで盛り立て速度を向上させることとした。

第三期工事を開始してからおよそ1か月後にジオテキスタイル補強を行った区間の施工を行った。この箇所の盛り立て速度は7cm/日であった。盛立て施工中は動態観測に異状は見られなかったが、崩壊箇所の盛立てが完了した翌日、朝の点検時に盛土が大きく変形崩壊しているのが発見された。

盛土は円弧すべりの形態を示して崩壊し、天端付近で、最大5m程度の沈下が発生していた(図2)。周辺は農地であり、事故の発生が夜間であったために人的な被害は発生しなかったが、道路敷地に隣接する農地で最大2m程度の隆起が発生するなど、変状は広範囲にわたった。

図2 崩壊箇所断面(被災後計測)図2 崩壊箇所断面(被災後計測)

近隣への聞き込みの結果、夜に大きな破裂音のような音を聞いたとの証言があり、事故の発生は23時ごろと推定された。

原因と対処方法

崩壊後の計測等から、盛土の中央付近、最大沈下を示す部分から用地境界を越えて農地に侵入する円弧すべりが崩壊の原因と推定された。崩壊後に採取した試料を用いた解析結果では、施工中の圧密進行による強度増加が想定よりもやや小さい値を示していることが判明した。このことから、施工時の盛り立て速度を上げたことが今回の崩壊の契機になった可能性が考えられる。

ただし、想定よりもやや小さいとはいっても、崩壊が発生した時点での地盤の圧密度は82%であり、盛り立て速度7cm/日の場合の想定が83%、5cm/日の場合の想定が84%とその差は非常に小さい。崩壊のおこる直前まで動態観測に異状は見られず、むしろ一般的な軟弱地盤上の盛土工事よりも変位は小さな傾向にあった。さらに、隣接する箇所では、ジオテキスタイルを敷設せずに崩壊箇所よりも速度を上げた10cm/日の速度で盛立てをしたにもかかわらず安定を保っている区間もあったことから、盛立て速度だけが崩壊の原因と考えるのは難しい。

本来安定性が高いはずのジオテキスタイル敷設区間のみで盛土が5mも陥没するという大規模な崩壊が発生したことから、盛土の安定性向上のために設置されたジオテキスタイルが施工中の盛土および地盤の変形を抑制してしまったために盛土の強度増加を阻害するとともに、動態観測による盛土内部の強度増加が進んでいないことを察知することができず、対処を遅らせてしまったことが原因であったと考えられる。

当該箇所の復旧にあたっては、工期の制約から緩速施工を行うことができず、固結工法による対応を行う方針となったが、被災時に盛土底部のジオテキスタイルが破断し、絡まりあって残存した状態であったことから、一般的な深層混合処理工法が適用できず、掘削能力に優れたエポコラム工法を用いて盛土の再構築を行った。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

軟弱地盤に限らず地質・地盤は、非常に大きな不確実性を含んでいる。土工工事においては施工に先立つ計画、設計の段階でこうした不確実性の把握に力を尽くすことは当然であるが、それでも不確実性を完全になくすことは非現実的である。土工工事では、調査、設計及び施工において段階的に不確実性を低減していくことが重要1)である。

上述の通り、盛り立て速度を変えることによる強度増加の変化、そして安定性の減少はわずか2%である。しかし、実際に崩壊が発生しており、これは実現場における不確実性による影響が設計時の照査の精度をはるかに上回るものであることを示しているとも考えられる。今回の事例から得られる教訓の一つは、設計段階で照査を入念に行うことは当然であるが、入念に行ってなおその結果を過度に信頼してはならないということである。

このような前提を踏まえ、軟弱地盤対策工指針では、設計段階での照査と合わせて施工段階でのモニタリングを併用した情報化施工により、事前の照査では把握しきれなかった不確実性に起因する変状等の問題の発生に対応することを推奨している2)

こうした不確実性の段階的低減に関しては、国土交通省及び土木研究所らによって「土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン」3)が取りまとめられている。ガイドラインでは、様々な不確実性に起因する事業の目的への影響をリスクとして定義し、リスクを引き起こす特性などをリスク要因と呼んでいる。

今回の事例においては、軟弱地盤層の存在がリスク要因にあたる。こうしたリスク要因がどのような事象を引き起こすかを明らかにするリスク分析、その事象が事業の目的にどのような影響を与えるかを明らかにするリスク評価、と手順を定めている。この考え方はリスクマネジメントに関する国際規格であるISO31000の考え方に沿ったものである。

今回の事例では、軟弱地盤というリスク要因について、ジオテキスタイル敷設による安定性の向上と動態観測による急速施工の可否判断という2つの対策が相互干渉してしまったともいうことができる。このような相互干渉については、上述のリスク分析、リスク評価の手順を綿密に行えば、ジオテキスタイルが盛土の変位を抑制してしまい、一般的な変位杭や沈下板による変位計測では盛土中の状態を把握できなくなる可能性に気づくことができ、代替の対応として、ジオテキスタイルのひずみを計測し、盛土中の応力分布を把握することで動態観測を行う、あるいは動態観測が不可能なために急速施工を断念する、といった対応が可能になり、今回のような大規模な崩壊は防げたであろう。

参考文献

1) (社)日本道路協会:道路土工構造物技術基準・同解説,平成29年3月

2) (社)日本道路協会:道路土工-軟弱地盤対策工指針(平成24年度版),平成24年8月

3) 国土交通省大臣官房 技術調査課、国立研究開発法人 土木研究所、土木事業における地質・地盤リスクマネジメント検討委員会:土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン,令和2年3月
https://www.pwri.go.jp/jpn/research/saisentan/tishitsu-jiban/pdf/georisk-guideline2020.pdf

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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