現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

土工事

2)盛土・軟弱地盤

2023/12/01

ジオテキスタイル補強土壁の変状

工事の概要とトラブルの内容

強土とは、盛土内に敷設された補強材と盛土材料との間の摩擦抵抗力または支圧抵抗力によって盛土の安定性を補い、標準のり面勾配よりも急な盛土・擁壁構造を作る構造物である。道路の場合は便宜上、壁面(のり面)前面の勾配が1:0.6より急なものを補強土壁工法ということが多い1)。補強材として帯鋼・支圧プレートや高分子繊維材料(ジオテキスタイル)を用いたものなど様々なものがある。

今回変状が確認されたのは、図-1に示すように高規格道路の出入り口にあるランプ部で、高さ5m程度のカルバートボックス巻きこみ部に設置された補強土壁併用の盛土である。当該地区は軟弱地盤上にあるため、一般的なブロック積による巻込み盛土に替えて、沈下への追随性の高い補強材(ジオテキスタイル)を用いた高さ3m程度の補強土壁を施工した。施工後20数年経過したところ、盛土前面の補強材が劣化し背面の盛土材(砂)がこぼれ出した。壁面の構造は、最も初期の土嚢巻込みタイプである。写真-1に補強土壁の変状状況を示す。

図-1 当該地区ジオテキスタイル補強土壁図-1 当該地区ジオテキスタイル補強土壁

写写真-1 変状状況写真-1 変状状況

原因と対処方法

補強土壁において盛土材がこぼれ出した場合は、補強土としての補強メカニズムが失われ、変状が急激に進行し、条件によっては致命的な変状に繋がることがある。過去の文献2)などを参考に詳細な調査を行ったところ以下の原因で変状が生じたものと推定した。

①裏込め材に粒度が均等な砂を使用していたため、盛土内部の間隙が大きく、水が浸透しやすい環境にあった。

②巻き込んだ土嚢の劣化による盛土材のこぼれ出し、表面水の流下による盛土材の浸食があった。

③緑化に適さない砂の盛土材だったため植生が定着せず、温度変化や紫外線によって巻き込み部の補強材が劣化し破断があった。

これらの原因を踏まえて補修工事にあたっては以下の点に留意して設計を行った。

①補強土壁内部の補強材は健全であるので、壁面の補修のみで健全性が確保されること。

②補強土壁壁面は緑化によって保護されること。

③補修箇所がランプ部であり、施工ヤードが限られること。

実際の施工では通行車両の交通障害をできるだけ避けながら、次の手順で補修工事を行った。

①損傷している既存補強土壁を補強するため、プレート付アンカー(D19,L=1.2m 1本/1m2~2.25m2)を施工。

②盛土からの湧水対策として排水マット(幅30cm)を1mピッチで設置。

③補強土壁の表面に連続長繊維補強土(t=20cm)を施工。

④損傷している既存補強土壁およびその上部ののり面共に植生基材吹付工(t=3cm)による緑化。

図-2に標準断面を示し、写真-2に完成した全景を示す。

図-2 補修・補強の標準断面図図-2 補修・補強の標準断面図

写真-2 完成図写真-2 完成図

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

基本的ではあるが、土工構造物としての健全性を評価するために、定期的な点検を行うことが重要である。点検の結果、そのまま放置すると劣化が進むようであれば、早期の対策を施す必要がある。今回の場合も、劣化を早期に発見し、直ちに措置していれば、こぼれだし防止のための補修用のジオテキスタイルをアンカー止めするなどの簡便な方法で補修できた可能性がある。

今回の事象を踏まえて補強土壁を設計する場合は、その規模、高さにもよるが、以下の点に留意するとよい。

①壁面材には耐候性の高いものを使用する。鋼製の場合は錆に対する耐久性が重要であり、特に自然環境が厳しい場合は維持管理の費用も含めて選定する必要がある。

②補強土壁の盛土材は間隙が大きくなりやすい材料や変形の大きい粘性土は使用すべきでない。通常のコンクリート擁壁に比べて盛土材の選定は補強土壁の全体安定に直結するため慎重に選定する必要がある。

③補強土壁の排水対策は、各種マニュアル(指針)類4)5)を参考に、雨水や地下水等の補強領域への進入を防止し、浸入した水を速やかに排除できるように設置する。

今回の場合は、幸い致命的な損傷には至らなかったが、補強土壁における壁面材の開口・貫通は補強土としての補強メカニズムの喪失を生じ、致命的な損傷に繋がるおそれがある2)。特に寒冷地においては裏込め材の凍上作用により、壁面近傍の補強材に大きな緊張力が発生することがある。このため壁面背後に凍上防止層が設けられていない古い年代の補強土壁では、補強材・連結部の破断が発生し、修復が困難となる土工構造物の事例が過去には見られた3)

従って実際の工事においては、補強土壁の規模、高さ、経済性にもよるが、使用する補強材や盛土材はできるだけ品質の良い耐久性の高いものを用い、かつ品質管理もしっかり行うようにすべきである。さらには工事記録も整理して残すことが、将来の維持管理のために必要と考える。

参考資料

1) 日本道路協会:道路土工 擁壁工指針(平成24年度版)、p.223

2) 国立研究開発法人他:補強土壁の維持管理手法の開発に関する共同研究報告書 平成28年3月

3) 日経BP社:支えの鋼材が破断しパネルが落下,日経コンストラクション,No.270,pp.48~51,2000,12月22日号

4) 前掲1)、pp.263~269

5) ジオテキスタイルを用いた補強土の設計・施工マニュアル(第二版)、pp.302~311 平成27年12月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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